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2009/11/30

“方の会”公演「樺太―昭和二十年八月―」

演劇集団「方の会」による「樺太―昭和二十年八月―」が上演されているのを知り、11月29日、銀座みゆき会館に出向く。小さな会場だったが予約で満席。
この演劇は終戦後に樺太で起きた二つの事件をもとにしたものだ。
一つは真岡郵便局事件と呼ばれるもので、1945年8月15日の玉音放送後、ソ連軍による樺太への侵攻が迫る中で、引揚げせずに現地に残り電話通信業務を続けていた真岡郵便局の電話交換手たちが、8月20日ソ連兵が間近に迫ったことで、交換手12名のうち9名が局内で自決をした事件である(3名は生還)。
二つ目は、三船殉難事件と呼ばれるもので、8月22日、樺太からの引揚者を乗せた引揚げ船、小笠原丸・第二新興丸・泰東丸の3隻の船が、北海道留萌沖の海上でソ連の潜水艦により攻撃され、小笠原丸と泰東丸は沈没、第二新興丸も被弾し、合計1,708名(不明者も多く実際の数はもっと大きい)が犠牲となった事件である。
いずれも8月15日を過ぎてから起きた悲劇として記憶され、小説や映画、TVドラマにもなっている事件だ。
しかしそれらフィクションには、事実と異なる描写も多々あったようだ。

方の会主宰者である市川夏江はこの二つの事件に興味をもち、現地への取材や生存者、関係者へのインタビューの中から事件をシナリオ化してそれぞれ上演してきたとある。
今回はその二つの芝居を一つの台本にまとめて上演したものだ。市川夏江はこれを最後のシナリオにするとのこと。

<主なスタッフ、キャスト>
作:市川夏江
演出:原田一樹
音楽:笠松泰洋

市川夏江/小説家
速名美佐子/その姪
有賀安由子/交換手の班長、大石きよ
奥山奈緒美/交換手(以下同)伊藤ちえ、その姉(二役)
宮崎亜友美/森谷しげ
紫子/川島たえ
山口麻未/岡田えみ、その孫(二役)
長嶋奈々子/原いく
岡田央子/橋本みどり
藤田奏/岩崎ひろこ
佐藤真胤/郵便局長、上田
内田尋子/副主事、原加代
斉藤和宏/小笠原丸の乗組員、大崎邦夫
山口夏穂/第二新興丸の生還者、工藤ユキ
野間洋子/泰東丸の生還者、古川亮子

先ずはこの芝居の脚本について、真岡郵便局事件。
こうしたテーマを劇化する場合、どうしても作者の思いが先に立ちがちだが、この舞台では出来るだけ事実をそのまま伝えようという意図が感じられた。
どう解釈するかは観客側の判断に委ねられている。
周囲の人々は、戦争は終わったのだから未来のために生きていこうと呼びかけるのだが、彼女たちは死を選んでしまう。
現場責任者である班長が真っ先に自決してしまい、取り残された交換手たちが次々と毒物(青酸カリ)をあおって死んでいくことに、ある種の違和感さえ感じてしまう。
しかしこれが真実なのだろう。
こうした感傷的な手法を抑制しているがゆえに、よけい自決にいたった交換手たちの無念さや、戦争に対する静かな怒りが湧いてくる。
生き残ったがゆえに世間から非難をあびた真岡郵便局長の言い分も、丁寧に紹介した姿勢も評価できる。

次に三船殉難事件は、
今度は一転して、生還者の証言をモノローグで語らせる手法で、戦争が終結し祖国への帰還を目の前にしてソ連軍(公式には国籍不明とされているようだが)の潜水艦の魚雷攻撃により沈没、あるいは損傷を受けて多数の犠牲を出した模様が詳細に語られる。
引揚げ船と分かっていながら攻撃して、さらに海に投げ出された人々に対して機銃掃射までして殺害したことは、明らかに国際法に違反している。
生還者が語る現場の模様はまさに地獄絵図であり、涙なしには聴けない。
舞台の最終場面では、離れ離れになっていた母子が共に無事で生還できたこと、自決した交換手の姉が無事に救助されて生還したこと(ここで二つの事件のつながりが分かる)が描かれ、一筋の救いとなっている。

劇中の小説家(作者自身)とその姪の会話が狂言まわしになっていて、事件の説明を補足していた手法も分かり易かった。

自決した女子交換手役に同世代の現役高校生を起用したが、演技に未熟さがあったが、こんな年頃の彼女たちが・・・という思いはひしひしと伝わってきた。
班長役の有賀安由子の抑制した演技が効果的で、奥山奈緒美が芸達者ぶりをみせていた。
ほかに紫子と山口麻未の健気でひた向きな演技が光る。
引き揚げ船の生還者を演じた山口夏穂と野間洋子は揃って好演、姪役の速名美佐子と共に舞台をしめた。
特筆すべきはこの芝居に出演した坂下怜美、岸瑞歩、石黒海斗の三人の子役だ。これが実に上手い。
何より児童劇団に染められたようは変なわざとらしさがなく、とても自然で素直な演技に好感が持てた。
ついつい涙腺が緩んでしまったことを告白しておく。

この内容からすれば小劇場での6日間の公演というのは、あまりに勿体ない気がしてしまう。
宣伝もあまりしていないようだし、もっと沢山の人々に観賞して欲しい芝居だ。
公演は12月1日まで。

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