「十二人の怒れる男」@シアターコクーン
Bunkamura20周年記念企画として、シアターコクーンで「十二人の怒れる男」を上演中だが、12月5日19時の回を観劇。
この作品(12 Angry Men)のオリジナルは、1954年に製作されたアメリカのテレビドラマを、1957年俳優のヘンリー・フォンダがプロデュース、主演し、映画化した作品。
「十二人の怒れる男」は映画史上に残る不朽の名作として、また巨匠シドニー・ルメットのデビュー作としても知られている。
今回これを蜷川幸雄演出で舞台化したものだ。
日本の裁判員制度がスタートしたことも、もちろん考慮されての企画だろう。
<スタッフ、キャスト>
作 レジナルド・ローズ
訳 額田やえ子
演出 蜷川幸雄
中井貴一:陪審員八号
筒井道隆:五号
辻 萬長:四号
田中要次:十二号
斎藤洋介:十一号
大石継太:七号
柳 憂怜:二号
岡田 正:六号
大門伍朗:十号
品川 徹:九号
西岡德馬:三号
石井愃一:陪審員長
新川將人:守衛
ストーリーは、
アメリカのある町で起きた、父親殺しの罪に問われた少年の裁判が行われ、12人の陪審員が評決に達するまで一室で議論することとなる。
法廷での証拠や証言は被告の少年に圧倒的に不利なものであり、全陪審員一致で有罪(死刑)になると思われたところ、ただ一人、陪審員八号だけが疑問を差し挟み少年の無罪を主張する。
彼は他の陪審員たちに、証拠の疑わしい点を一つ一つ再検証することを主張し、激しい議論がぶつかり合う。
やがてその中から、当初は少年の有罪を信じきっていた陪審員たちの心にも徐々にある変化が訪れるが・・・。
一般に「十二人の怒れる男」は、「法廷もの」に分類されるサスペンスドラマとされている。
しかし今回の舞台を見て、この作品は法廷あるいは陪審制度というものを通して描かれている「人間ドラマ」だと感じた。
激論の中から浮かんでくる陪審員たちの人間性、生い立ちや人となり、家族や友人関係、現在おかれている状況、そうした一人一人のことがあぶり出されていく。
裁かれているのは果たして被告の少年なのか、それとも陪審員自身なのか。
会議室で中央に置かれた机を12人が椅子に座って囲む、それだけの舞台だ。全てはこの一室の中の議論だけである。
背景には洗面所があり、手洗いの鏡が正面に向いている。
シンプルなだけに、演出は凝っている。
クライマックスシーンで、陪審員三号が絞り出すような声で「無罪」と叫ぶのだが、暗い背景の中で彼の白い後姿だけがこの鏡に映し出される(これは正面席しか見えなかったと思われる)。これが実に効果的だ。
客席が舞台を取り囲むように配置され、臨場感が出ていた。
犯罪が行われて部屋の間取りを説明する場面では、透明なアクリル板に見取り図が描かれ、客席のどこからも見られるよう工夫されていた。
ディスカッションドラマなのでセリフが特に重要だが、今回の上演にあたりオリジナルの英文を新たに翻訳したとあるが、そのせいか日本語として良くこなれていた。時にアメリカ社会が舞台となっていることを忘れてしまう程だった。
出演者は全員がベテランの演技派で固め、各人が持ち味を発揮して、終始舞台に緊張感が保たれていた。
特に陪審員三号を演じた西岡徳馬の熱演が光る。激しいボディアクションと感情の起伏、これと主演の中井貴一の冷静な演技の対比が、この舞台の中心だ。
二人のぶつかり合いと、その果てに生まれた友情が泣かせる。
他に、石井愃一が陪審員長役を好演し、辻萬長の抑制した演技、岡田正の存在感、品川徹の渋さ、大門伍朗の怪演が印象に残った。
難をいえば、筒井道隆の演技が見劣りしていていたこと。元不良少年というキャラも合わず、ミスキャストではなかろうか。
とはいえ手に汗握る熱演の連続で、総じてとても充実した舞台となっていた。
余談だが、ボクは昔からなぜこの作品のタイトルが「十二人の怒れる男」だったのか、ずっと疑問に思っていた。だって、怒ってる人もいるが、冷静な人もいるわけで、全員が「怒れる」じゃないだろうと。
そこでオリジナルのドラマが1954年制作であり、映画化はヘンリー・フォンダだという事から類推するに、1950-1954年に全米で荒れ狂ったマッカーシズム(赤狩り旋風)と関連があるのではないかと思ったのだ。
多くの映画人が共産主義の手先として告発され、ハリウッドを追われた人もいた。
この作品にはこのマッカーシズムに対する批判が背景としてあり、だから十二人の「怒れる」男だったのではなかろうかと。
そんなことも頭をかすめた。
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