東京月光魔曲@シアターコクーン
1月4日は「東京月光魔曲」の舞台を観にシアターコクーンへ。
BnkaMura20周年企画と題されたこの演劇は、いま最も脂がのっている劇作家ケラリーノ・サンドロヴィッチの書き下ろし作品。
年末年始をはさんで上演されるのも珍しい。
<主なスタッフとキャスト>
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
瑛太:針生薫/兵士
松雪泰子:針生澄子
橋本さとし:一之蔵始(探偵)/兵士
大倉孝二:夜口航路(作家)/倉本/兵士
犬山イヌコ:針生由利子/小町安子/女給
大鷹明良;大曽根初彦(爬虫類研究者)/カフェの客
長谷川朝晴:八木次郎/カフェのボーイ/兵士
西原亜希:タチエ/おみつ/ダンサー
林和義:郷田善之助(レビューとカフェのオーナー)/動物園の調餌主任
伊藤蘭:大曽根千とせ/女給
山崎一:相馬竹三&相馬賢三(双子兄弟)/カフェの客
ユースケ・サンタマリア:八木次郎/カフェの客
芝居の舞台は昭和4年に設定されているが、この理由として作者ケラリーノ・サンドロヴィッチは以下の点をあげている。
・戦争に向かう時代と人の変化の過程に惹かれた
・日本の喜劇のルーツともいうべきエノケン、ロッパらの浅草軽演劇が全盛だった
・雑誌「新青年」に代表される冒険活劇と探偵小説がはな咲いた時代
昭和4年といえば関東大震災で壊滅的な打撃を受けた東京が奇跡の復興をとげ、
♪帝都復興エーゾエーゾ♪
と人々が復興景気で浮かれていた時代。
エロ・グロ・ナンセンスがはやされ、モガやモボが町を闊歩していた時代。
そして大正デモクラシーから、その後に十五年戦争と呼ばれる日本が軍国主義に向かう入り口となった時代でもある。
そういう混沌とした時代を、作者がどう表現してゆくのかに興味が持たれた。
ストーリーは。
父親が日露戦争中に事故で味方の兵士により射殺され、母は関東大震災で死亡した針生澄子・薫の姉弟。お互い肉親以上の感情を持ち、支えあいながら、姉は複数の男性のなかに父親を求め、弟は父の敵を求めて暮す姿を縦糸に物語が展開する。
そこに爬虫類研究者と秘密めいたその妻、
うだつのあがらぬ探偵とその助手、
売れない探偵作家、
地方から上京して必死に都会で生きていこうとする兄弟、
レビュー一座のオーナーとその出来の悪い息子、
奇妙な双子兄弟、
カフェの女給とレビューのダンサーたち。
これらの人々の生活が横糸としてからみ、万華鏡のごとき世界を紡ぎ出してゆく。
やがて全てが悲劇的方向に向かいながら・・・。
台本の完成度が高く、間然とするところがない。
退廃的でエロチックで猟奇的な世界を描きながら、決して後味が悪くなっていないのもそのためだろう。
作者は三部作としてゆきたいと抱負を述べているが、続く二作がどのように展開してゆくのか楽しみだ。
出演者では弟役の瑛太が舞台二作目とは思えない落ちついた演技を見せ、不思議な雰囲気を漂わせる姉の役を松雪泰子が好演。
橋本さとしが軽妙な演技をみせ、伊藤蘭の狂気、犬山イヌコと大鷹明良の存在感と共に舞台に華をそえた。
他に、山崎一の双子兄弟の演じ分けが見事。
公演は1月10日まで。
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