「上海バンスキング」@シアターコクーン
2月28日、シアターコクーンで上演されている「上海バンスキンング」に出向く。
初演から実に31年、最終公演から16年ぶりだ。
しかも元・オンシアター自由劇場のオリジナルメンバーが再結集しての、演劇界として記念碑的公演である。
会場は当時を知る年配の方から若い世代まで、幅広い層の人々が集まっていた。
作 :斎藤憐
演出:串田和美
<キ ャ ス ト>
吉田日出子/正岡まどか
串田和美/波多野四郎(クラリネット)
笹野高史/松本亘(バクマツ・トランペット)
さつき里香/リリー
小日向文世/弘田真造(アルトサックス)
大森博史/白井中尉(テナーサックス)
真那胡敬二/ガチャンコ・ラリー(トロンボーン)
服部吉次/方(アルトサックス)
酒向芳/王・他(トロンボーン)
内田紳一郎/シングリー田口(コルネット・ギター)
片岡正二郎/レイモンド・コバチ(バンジョー・ヴァイオリン)
他
ストーリーは、昭和11年の上海。魔都ともよばれていた国際都市。
そこには日本からジャズに憧れる青年やその恋人、左翼とそれを追いかける刑事などが集まっていた。
彼らはアメリカ人の経営するダンスホールで演奏して金を稼ぐが、「飲む・打つ・買う」の生活の中で、常に多額の借金(バンス)をしていた。
店の従業員として、居宅の使用人として沢山の中国人も働いていて、なかにはそうした現地の女性を妻にする日本人もいた。
華やかで猥雑な街・上海、しかしそこにも戦争の足音が近付いてくる。
昭和12年には日中戦争が始まり、それまで仲の良かった日本人と中国人の間もギクシャクしてくるようになる。
そして昭和16年には日米開戦、アメリカ人たちも上海を追われ、戦火の迫った上海ではジャズそのものが演奏できなくなる。
日本本土ではもちろんジャズは敵国音楽ということで禁止。
ジャズメンたちも、ある人は応召して戦場へ、そして死。
ある人は阿片におぼれ廃人同様に。
そんな時代を背景に、上海に生きたジャズメンらの群像を描いた音楽劇が「上海バンスキング」だ。
この芝居の最大の特長は、出演者が揃って楽器を演奏することだ。
それもプロ並みの腕前である。
しばしばトランペットのソロを聴かせる笹野高史など、とても良い音を出していた。この人にこんな腕があるとは思わなかった。
彼らが奏でるジャズで、重いテーマの芝居が軽やかに展開していく。
そして、なんと言っても主役の吉田日出子の演技だ。あのお年で、なんという愛らしさ、声の美しさだろうか。
彼女が歌う懐かしい戦前のジャズに聞きほれ、彼女が吐くセリフによって、舞台全体が不思議な世界を漂わせる。
吉田日出子がいなければこの芝居は成り立たなかったろう。
その他の出演者も個々の演技、全体のアンサンブル共に言う事なし。
暗い時代を暗示して幕を閉じるが、その後のフィナーレで戦後に花開くジャズの時代を予感させている。
落語の川柳川柳「ガーコン」の世界になるわけだ。
フィナーレからアンコール、そのまま出演者は会場のロビーに向い、ここで短い演奏会が行われる。
「上海バンスキング」は、紛れもなく日本の演劇界が生んだ傑作の一つだと思う。
上演は3月14日まで。
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