井上ひさし作「夢の裂け目」(4/25)@新国立劇場
先日亡くなった作家・井上ひさし氏の劇作、東京裁判三部作のうち第一部「夢の裂け目」が新国立劇場・小劇場で上演されていて、4月25日に観劇。
井上氏の作品は、家族を通して戦中あるいは戦後の日本を描いたものが多いが、この芝居もそのひとつ。
作:井上ひさし
演出:栗山民也
<キャスト>
角野卓造/田中留吉(天声)
藤谷美紀/娘・道子
熊谷真実/妹・君子
木場勝己/義父・加藤末次郎(清風)
キムラ緑子/道子の元同僚芸者
高橋克実/復員兵
大鷹明良/元映写技師
石井一孝/闇屋のブローカー
土居裕子/民間検事局員・川口ミドリ
あらすじは、
東京・根津の紙芝居屋の元締め・田中留吉は、家族や、戦後に職をなくした周辺の人を集めて、手広く商売していた。ストーリーは自らが作り、絵は義父が描く。
ある日、GHQから東京裁判の検事側証人として証言台に立つよう要請される。戦時中に陸軍から紙芝居による宣伝工作を頼まれたことを証言しろというものだ。
家族や仲間が集まって、自宅で裁判のリハーサルを行うのだが、しだいに互いの戦争犯罪を裁くような様相を呈し始める。
その後、留吉は無事に東京裁判の法定で証言を済ませるのだが、やがてこの裁判に重大なカラクリが存在することを発見し・・・。
井上ひさしは、極東国際軍事裁判(通称・東京裁判)で、検察側証人として日本紙芝居協会会長が証言していたという事実に着目したのだろう。法定で実際に紙芝居まで披露したとある。
もうひとつ、他の証人がいずれも数時間内で終わっていたにもかかわらず、開戦当時に陸軍省兵務局長という要職にあり、「闇の将軍」の異名を得ていた田中隆吉少将だけが数日間も証言台に立ち、東條英機被告を糾弾し続けたという事実にも着目した。
この二つを主なヒントとして、この芝居を書いたと思われる。
東京裁判は1948年12月に終了しているので、わたし自身はリアルタイムでの記憶はない。
今でこそやれ一方的だったとか国際法に違反するとか批判の声が喧しいが、当時は国民の間でそうした批判は殆んど聞かれなかったようだ。
当然だと受け止める向きが大多数だったと聞く。
成人してから東京裁判についての書籍をいくつか読んで、この裁判は天皇の戦争責任を回避し、全ての罪を東條英機らに押し付ける出来レースだったのではという疑問をずっと持ち続けてきた。
この点では、芝居の主人公である田中留吉の主張と重なるので、違和感がなかった。
こう書くと、定めしお堅い劇だと思われるかも知れないが、実際はスイングジャズの生演奏にのって、出演者全員が踊り歌う音楽劇仕立てになっている。
重いテーマにもかかわらず、およそ3時間の舞台は終始笑いに包まれていた。
演者では、好色で要領の良いオヤジという主人公役を演じた角野卓造が適役。軽さと重さが同居する男を見事に演じていた。
高橋克実と大鷹明良が軽妙な演技で盛り上げ、木場勝己が存在感を示す。
女優陣ではキムラ緑子のクサさと、土居裕子の歌唱力が光る。
藤谷美紀は可憐だが、演技が硬く歌が劣る。
上演は28日まで。
三部作の二部、三部はこれから順次上演される。
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