前進座「切られお富―処女翫浮名横櫛」@国立劇場
来年創立80周年をむかえる前進座の5月国立劇場公演は、「切られお富―処女翫浮名横櫛(むすめごのみうきなのよこぐし)―」。
「お富さん」で知られる瀬川如皐作「切られ与三―与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)―」の書き替え狂言だ。
先代河原崎国太郎のお富は当たり役だったが、25年ぶりの再演は当代の国太郎が初役でそのお富に挑む。
作 … 河竹黙阿弥
補綴 …小池章太郎
演出 …中橋 耕史
<配 役>
切られお富 …河原崎國太郎
井筒与三郎 …嵐芳三郎
蝙蝠の安蔵 … 藤川矢之輔
赤間源左衛門 …中村梅之助
女房お滝 … 山崎辰三郎
按摩丈賀 … 中村靖之介
みる杭の松 …松涛喜八郎
舟穂幸十郎 … 嵐 圭史
ストーリーは・・・。
表向きは絹問屋、実は盗賊の観音久次こと赤間源左衛門の妾・お富は、乱暴者にを攫(さら)われ、あわやという時にかつての恋人・井筒与三郎が来かかり、助けられる。
その後二人は辻堂で情を交わす。
その密会を知った源左衛門は、お富をなぶり切りにして、川に捨てさせる。
かねてからお富に思いを寄せていた安蔵は瀕死のお富の命を助け、薩埵峠に茶屋を出し同棲する。
三年後、たまたま通りかかった与三郎は、全身75カ所の疵を負うお富と再会。
今は浪人となっている与三郎の御家再興のために二百両が必要ときき、お富はその金の調達を引き受ける。
お富は安蔵(こうもり安)とグルになり、今は府中の弥勒町で女郎屋の主人におさまっている源左衛門を強請り、二百両を手に入れる。
その金を持って逐電しようとする安蔵を殺し、お富は二百両を奪い返して与三郎に渡すが・・・。
早くいえば、「切られ与三」を裏返しにしたような筋なので、とても分かり易い。
この芝居に見所はストーリーそのものより、濡れ場、責め場、強請り場、立ち廻り、だんまり、六方などふんだんに盛り込まれた所作にある。
特にお富が責められる場面は、団鬼六もかくやとばかりSMチックなアブナイ雰囲気を漂わせる。
主役のお富を演じた河原崎国太郎が素晴らしい。
と、いうよりは、この芝居は100%国太郎の魅力にかかっている。
前半の純情可憐な女から後半の悪婆(悪女)への変身も鮮やか。
特に動きのさいの、背中から腰にかけての線がキレイだ。
座席がいわゆる花道の七・三の脇で、ここでお富が再三ふりごとをするのだが、そのムンムンするような色気に圧倒される。
これは男じゃなけりゃ表現できない。
蝙蝠の安蔵役の藤川矢之輔はハマリ役で、実に気持ち良さそうに演じていた。
井筒与三郎を演じた嵐芳三郎はやや硬さが見られたが、この人は口跡が良い。
お滝を演じた山崎辰三郎は上品過ぎて、あれでは女郎屋の女将には見えない。
みる杭の松役の松涛喜八郎は掘り出し物、代演ながら適役とみた。
ほかに、嵐広也改メ七代目嵐芳三郎の襲名披露口上あり。
公演は5月22日まで。
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