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2010/06/09

劇団大阪・朗読劇「遠い戦争~日本のお母さんへ~」

「玉にキズ」がようやく完治し、久々に大阪へ。
友人の齋藤誠が演出する朗読劇「遠い戦争~日本のお母さんへ~」、谷町劇場にて6月6日15時の会を観劇。
篠原久美子作のこの作品は、昨秋東京で渡辺えりらによって上演されたもので、これを大阪で再演した。

中東問題の本質は、自分のことに置き換えてみると分かり易い。
私たちが日本で暮らしていると、ある日突然よその国の人間がやってきて、「ここは数千年前までは我々祖先の土地だった。神のお告げにより今から我々が住むことに決めたので、日本人は全員出て行け」と追い払われる。
やがてどこかの小さな島に押し込まれ、「住めるのはこの場所だけで、外へ出ることは禁止する」と命令され、抵抗した人間は容赦なく射殺される。
もし、こんな扱いを受けたらどうだろうか。
これがパレスチナで現実におきていることだ。
私たちは北朝鮮がひどい国だと思っているが、イスラエルのやっていることはその比ではない。

齋藤誠によれば、上演にあたって三つの大きな壁にぶち当たったとある。
一つは、この芝居の主要なテーマである中東問題に対する認識不足。
文明がどうの宗教がどうのという以前に、ことの本質はパレスチナに対するイスラエルによる侵略行為であり、不法な占領だということ。
紛争といっても犠牲者の数はイスラエル1に対してパレスチナ100位の割合であり、一方的な殺戮になっている。
この点は、パレスチナ問題の専門家である京都大学の岡真理教授からレクチャーを受けたそうで、これを境に劇団員の取り組み姿勢もガラリと変わったそうだ。
二つ目は、芝居の内容をどう観客に伝えるかという課題だ。
解決策として、
①難しい用語については解説書を作り、配布する。
②芝居の中でスライドを多用する。
③役者には場面や役に応じた衣装をつけさせる(朗読劇では珍しい)
を試みた。
三つ目は、劇団の層の薄さ、特に若手の団員が少ないという現実。
これについては、他の劇団から5名参加してもらった。
こういう話をきくと、アマチュア劇団が意欲作に取り組むさいの大変さがよく分かる。

ストーリーは、
パレスチナ難民キャンプで暮らす少年アブドゥ(稲荷明古-客演)と、「パレスチナの子供の里親運動」に参加している日本の母親(山内圭子)とその息子(片岡大輔-客演)の3人が中心となって物語は展開する。
イスラエルの空爆にあいながら希望を捨てないパレスチナの少年は、いつか自分の里親が住む「平和で豊かな日本」に蝶々になって飛んで行きたいと夢見る。
その母の元へ息子から派遣切りにあったという知らせが届く。
日本の母子家庭の3分の2が貧困層であるという現実に、息子の失業は重くのしかかり、里親としての寄金もいつまで続くのかと不安な気持ちになる。
毎年の自殺者が3万人を超える現実、この死者の数は一般的にいえば戦争の犠牲者に匹敵する。
その一方、日本政府は米国を通してイスラエルを実質的に支持している。本来の日本の立場からすれば、パレスチナ側に立つべきだろうに。
果たして日本は本当に「平和で豊かな国」なんだろうかと、母親は次第に疑問を感じるようになるが・・・。

1時間45分ほどの芝居に、あまりに多くの問題が投げかけられ過ぎていて、作者や演出家の意図がどこまで伝わったのかという疑問は残る。
またスライドや効果音を駆使して分かりやすさをねらったことは理解できるが、リーディング作品として静かに訴えるという手法も採り得たのではなかろうか。
そうした様々な問題をはらみながら、しかしパレスチナで起きている現実を自分の問題として捉えてもらうというこの劇の上演意義は、十分に果たしていたのではなかろうか。
パレスチナもイラクもアフガニスタンも、決して日本から「遠い戦争」ではない。

出演者はいずれも熱演で、客演を加えた混成チームだったにも拘らず、アンサンブルもしっかりとしていた。
特に少年役の稲荷明古の眼が良かった。あれは中東少年の眼だ。
息子を演じた片岡大輔はいかにも好青年で、お母さん役の山内圭子の落ち着いた演技と共に印象に残った。

公演は6月13日まで。

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