らくご座@紀伊国屋の秋公演として、「六代目三遊亭圓生トリビュートの会」が10月13日行われ、その昼の部に出向く。
7分ほどの入りの客席は空席が目立ち寂しい。
生誕110周年ということだが、六代目圓生が亡くなって31年。オールドファンでないとライブは観ていないことになるが、CDやDVDを通してファンになった若い人もいるようだ。
圓生が名人といわれるのは、何よりレパートリーの広さからだ。
滑稽噺や人情噺はもちろんのこと、芝居噺、音曲噺、怪談噺など、およそ手がけなかったジャンルは無いといってよい。
しかも全てにレベルが高いのだ。
高座姿は美しく、色気に溢れていたが、眼は恐かった。
いちど圓生が芝居に出ていて、私は最前列の袖の席から見上げていたのだが、ちょうど目の前に来たとき圓生が見下ろした眼と眼が合ってしまった時の、その恐い眼差し、今でも忘れない。
あんな眼で叱られたら、さぞかし周囲の人は縮みあがったことだろう。
高座での優しい眼にするのに、ご本人は相当工夫をしたと思える。
この日のプログラムでは、仲入り前後の落語の前に出演者の対談があったが、いちばん年上の市馬も圓生の高座は観ていないとのこと。
孫弟子にあたる白鳥はYOUTUBEで観た程度だと言っていた。
圓生を知らない人たちによるトリビュートの会である。
三遊亭兼好「八九升(はっくしょう)」
新しく入門してきた人に、最初に稽古するネタというのは、一門ごとに異なるそうだ。
柳家なら「道灌」で、圓生一門はこの「八九升(はっくしょう)」だそうである。
中味は耳の遠い人をネタにした小咄を次々とつなげたもので、最後の小咄で米の八九升とクシャミのハクションを掛けたオチになっている。
滅多に高座に掛からない珍しいネタだそうだが、滑り出しでは硬さがみられた兼好だったが、後半は快調に客席を沸かせていた。
後の対談で白鳥から「圓生を継いだら」と言われていたが、マジに目指してみたら良い。
三遊亭圓生X柳亭市馬「掛取万歳」
圓生のDVDと市馬のナマのリレー落語という趣向。
私はこのネタは、もう55年ほど前になるが、その当時あった川崎演芸場12月下席のトリで圓生の高座を観ている。
映像で観ても、さすが上手い。動きがキレイだしムダが無い。そして表情の一つ一つが実に良い。
あれだけ注意があったのに、途中で携帯の着メロが、それも本人が気付かなかったのかなかなか鳴り止まない。
こういう客は、入場禁止にして欲しい。
バトンを受けた市馬の高座も、気合が入っていたせいか普段より良い出来だった。
でもやはりこのネタは師走に演るもので、9月や10月に演るのは場違いだ。
今年も暮れまでに、また市馬の掛取を数回聴くのかと思うと、少々ウンザリする。
~仲入り~
三遊亭圓生「淀五郎」X三遊亭白鳥「聖橋」
圓生の映像は10数分だったが、あまりの上手さに溜息が出る。
後を受けた白鳥の新作はこの「淀五郎」と「中村仲蔵」、それに「文七元結」を掛け合わせたようなネタで、歌舞伎役者を落語家に置き換えている。
談志をタップリとからかっていて(実話が元になっているそうだ)、なかなか面白かった。
途中、文七の冒頭シーンを語るところで、客席から「お~」という反応があった。「なんだ、出来るんだ」という感嘆の声である。
こうして演出もよく工夫されている。
白鳥の新作としては傑作の部類に入ると思う。
圓生の芸や精神はちゃんと受け継がれているんだなと、実感した会だった。
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