My演芸大賞2010
2010年度My演芸大賞として、大賞、新人賞が各1作品、優秀賞5作品を下記の通り選考した。
今年はいわゆる若手に属する人たちの活躍が目立ち、選考にもその傾向が現れている。
名前、ネタ、会の名称、月/日の順に並ぶ。
【大賞】
柳家三三「年枝の怪談」 柳家さんと00さん 8/9
【優秀賞】
三遊亭兼好「天災」 #13たから寄席 6/5
桂雀々「手水廻し」 #6日経ホール落語会 7/24
三遊亭金時「不孝者」 国立演芸場8月上席 8/10
春風亭一之輔「富久」 いちのすけえん国立 12/19
桃月庵白酒「松曳き」 #4大手町落語会 12/25
【新人賞】
神田阿久鯉「赤垣源蔵徳利の別れ」 #368花形演芸会 1/23
【選評】
大賞は文句なしに三三「年枝の怪談」と決めた。
聴いたその日にこれが今年のベストだと思わせた、それほどの出来だった。
この日のゲストが、三三が尊敬する柳家小満んだったことで、格別気合が入っていたように思う。
間然とすることのない語り口といい、品のある高座姿といい、この人の将来性を窺わせるに十分だった。
ネタの中に挟んだ「真景累ヶ淵より豊志賀の死」のダイジェストがまた結構でした。
優秀賞の兼好「天災」、寺の本堂で行われた地域寄席で、ときおり祭囃子が聞こえるのどかな会だった。
荒くれ者だが根は人の良い八五郎の人物像を鮮やかに描き出した一席。
兼好は見るたびに上手くなっている。
雀々「手水廻し」、とにかく一度観れば分かるが、あまりのバカバカしさに抱腹絶倒、東京落語では絶対に真似できない。
そして垣間見せる雀々の芸の凄みに、ただただ脱帽。
金時「不孝者」、このネタを円窓、三三と聴いてきたが、金時の高座が断然優れている。
事情があって未練が残りながら女を捨てた旦那と、捨てられてなお恨みと恋しさを持ち続けた芸者との再会場面。
しんみりとしながらも情緒溢れる二人の会話は、聴いていて胸が詰まる思いだった。
それに定席のトリでも中トリでもない浅い出番で、こういうネタをかける了見がいいじゃありませんか。
この人は、もう少し世評が高くても良いと思うのだが。
一之輔「富久」、火事見舞いにかけつけた旦那の家で帳付けをしながら酒を飲むシーンで、滑稽な中に幇間(たいこもち)の悲哀が表われていて、この人は上手い人だと感心した。
失意と安堵を繰り返しながら、富札がみつかって狂喜乱舞する大団円まで、引き込まれてしまった。
もう実力は立派な真打だ。
白酒「松曳き」、白酒の高座はどれも出来がよく作品に迷ったが、最も特長がよく出ているこのネタにした。
古典をかなりアレンジして演じているのだが、中身が実によく練られている。相当な努力家なんだと思う。
マクラの毒舌も心地よく、切り返しを重ねるような独特のクスグリと「間」で、これからも白酒の快進撃が続くことだろう。
新人賞は紅一点で唯一の講釈師、神田阿久鯉を選んだ。
落語の世界ではなかなか男の噺家に伍するような女流が出てこないが、講談の世界では次々と有望な女流が出現している。
なかでも神田阿久鯉は語りもセリフ回しも名調子で、聞き惚れてしまう。
講談の人気回復を期待したい。
来年もまた素晴らしい高座にめぐり合えることを期待して。
それでは皆様、良いお年を!
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