ほうれん草は食べられるのか?(下)
昨日、近所のスーパーの野菜売り場から、ほうれん草が消えた。
茨城県産だということで、すべて撤去されてしまったようだ。
生産者はさぞかし悔しい思いをしておられるだろう。
すでに根拠のない過剰反応による風評被害も起きている。
事故の起きた福島第一原発から発生した放射性物質は、大気に浮遊したのち地表に落下し、土壌や河川を汚染し、食品の中に入り込む。
その影響は東北から北関東にかけての農作物や畜産、魚介類にまで及ぶ可能性がある。つまりこのたびの大震災の被災地と重なる。
そうなると私たちの台所を直撃するだけでなく、今回の大震災の被災地復興にも支障となることが憂慮される。
食品の安全性は大事だ。
同時に、かりに基準値を超える放射性物質を有する食品でも、工夫することにより人体に影響がなく摂取できるのであれば、私たちは安全性と被災地への支援・復興との間で、どこかで折り合いをつけねばならない局面に遭遇するかもしれない。
そうならないことを祈るが、心づもりはしておいた方が良いかもと考え、この記事を書いている。
さて、ここで検査データについて私が疑問に感じているのは、検体の採取方法だ。
試験や検査をやったことのある人はお気づきだろうが、サンプリングが的確に行われているかが、検査結果以上に大きな問題になることがある。
抜き取りが適正に行われているか、採取したサンプルが収穫物の山(母集団)を代表するといえるかどうかだ。
例えば、A市のほうれん草の検体から5000ベクレルの放射性ヨウ素が検出されたとしよう。
これがA市のほうれん草全体の平均値なのか、それともこの検体だけの異常値(高いor低い)なのかが分からないということだ。
検体の前処理はどのように行っているのか、検査にいたる保管方法はどうしているのか、それも分からない。
厚労省は葉物野菜の場合、水洗いしてから検査するよう指導しているとしているが、水洗いの方法や程度によっても数値は大きく変わるはずだ。
そうした測定条件が詳らかでないので、数値だけでは判断がつきかねるのだ。
今回発表された野菜の試験結果は、いずれも露地もののようだ。
ハウス栽培のように上部が覆われている場合は、影響は少ないだろう。
時間経緯という課題もある。
定点観測で日にちを変えて試験し、放射性物質がこれから増えてゆくのか減ってゆくのか、これによっても安全性の評価が変わってくるだろう。
検体の経時変化のデータも重要だ。
とりわけ放射性ヨウ素は半減期が短いので、日にちをおけば数値は急速に下がる可能性がある。
農作物の場合、収穫して集荷され倉庫に保管される。
そこから出荷されて卸し市場でセリにかけられ、小売店にわたる。
産直などを除けば、収穫された野菜が私たちの口にはいるまで、一定の日数がかかっている。
収穫時に基準値を超えていても、食卓に上がるころは基準値以下に収まっていることは十分有り得るわけだ。
さて、表題の「ほうれん草は食べられるのか?」に対する答えだが、現在までに私たちに公表されている試験データだけでは、
・データが少な過ぎる
・検体の採取方法や前処理条件が不明
・時間経緯の試験データや検体の経時変化のデータがない
などの不備があり、結論は出せない。
ネットでは、ほうれん草は「安全」「食べても大丈夫」などと断定している学者もいるが、私には早計に思われる。
ただ一つだけ言えることは、我が家ではほうれん草は「おひたし」にしてしか食べない。
先ず流水で十分水洗いして、ほうれん草1把をおよそ2リットルの熱湯でゆで上げ、再度流水で水洗いしてから食卓に乗せている。
この工程で表面に付着した放射性物質の大部分は除去されるので、基準値をオーバーしたほうれん草でも問題なく食べられる筈だ。
ほうれん草を水洗いもせず、生でそのまま食べる人はあまりいない。
そういう意味では一律に出荷停止したり、廃棄したりするのはとても勿体ないと思うのだ。
これから仮にキャベツやレタスで基準値をオーバーするようなケースが生じても、表面の葉を数枚はいで良く水洗いすれば、安全に食すことができるだろう。
関係機関がこうすれば安全に食べられるということを試験データでもって立証すれば、消費者はさらに安心できるのではなかろうか。
しかし水道水や原乳についてはそうした前処理はできないので、厄介だ。
ヨウ素131なら半減期が短いので、一定期間過ぎれば危険はないと見られるが、セシウム137が基準値を超えているようなケースでは、飲用を控えるのが賢明だろう。
特に乳幼児や学校給食に対しては、使用を避けるべきだ。
繰り返しになるが、政府や地方自治体は放射性物質に関する詳細な検査データと、放射性物質の危険性とその対処方法について正確に公表することが肝要だ。
これからは、放射性物質をCTスキャンと比較するなどというバカな事はせぬことだ。
過剰反応や風評被害を防ぐためには、先ずは正確な情報開示が求められる。
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