#13三田落語会「さん喬・扇辰」(2011/4/23昼)
4月23日、仏教伝道センタービルで行われた第13回三田落語会昼の部へ。
さん喬と扇辰の二人会だった。
あいにくの「花に嵐」という天候ではあったが、会場は満席。
扇辰が「こんな満員のお客様の前で演じるのは久しぶり」と言っていたが、大震災以来、寄席は閑古鳥らしい。鈴本で11人という日があったそうで、かなり深刻のようだ。
GWあたりを機に、元に戻れればよいのだが。
前座・入船亭辰じん「道灌」
将来性を感じる。二ツ目が近そうだ。
柳家さん喬「浮世床」
後から出た扇辰が、入門する前から受けていた印象そのままの人と評していたが、この人ほど演者の性格が高座にそのまま現れるのは他にはいまい。
出だしの俯きかげんで枕に入る姿が、何ともいえない。
この日の「浮世床」は「本」の前半と、「夢」だった。
さん喬のこのネタは初見だったが、こういう軽い噺をさせてもやはり上手い。
女がセリフをいうときの、アゴの使い方が巧妙。
奥様方なら、自宅で試してみたら。
入船亭扇辰「ねずみ」
先の続きだが、入門以前には芸も人柄も憧れていたのに、実は「ひとでなし」の噺家もいると枕で語っていたが、そうなんだろうな。
芸は確かだがやや地味という印象を受けていたが、この日の2席で考えが変わった。
ご存知「甚五郎もの」の一つだが、卯兵衛・卯之吉の親子の人物像が鮮やかだった。
特に卯兵衛の、どん底に落とされながらも、かつての大店の主人らしい矜持を失っていない姿がよく出来ていた。
倅の卯之吉がひたすら健気で、泣かせる。
全体に品があり、最近きいたこのネタでは、この日の扇辰がベスト。
入船亭扇辰「千早ふる」
このネタ、鯉昇か文左衛門かと思っていたが、そこに扇辰が割り込みそうな、そんな高座だった。
隠居の知ったかぶりを軽妙に描き、その一方、千早太夫の花魁道中の描写を文語体で語るなど、随所に扇辰らしさが溢れていて、上出来。
一皮むけたような印象を受けたのは、私だけだったろうか。
柳家さん喬「心眼」
マクラでいわゆる言葉狩りにより、こうしたネタが電波に乗せられない昨今を批判し、言葉でなくて心が大事と言っていたが、同感だ。
古典芸能の中の言葉をカットするような愚作は、やめて欲しい。
私事だが、一時期このネタにあるような、色男の盲人と不器量な奥さん夫婦が隣人だったことがあり、この噺は結構リアルに受け止めている。
そういえば、あの盲人も好色で、近所の二号さんが襲われそうになったと言ってたっけ。
そんな事はどうでもいいけど。
さん喬の演出は手堅くいい出来でジックリと聴かせてくれたが、どうしてもこのネタを得意としていた名人・文楽と比べてしまう。
梅喜の惨めな思いと、目明きになった時の弾けるような喜び。
そして幸せになった途端、糟糠の妻から美しい春木屋の小春に気持ちが移るという、男心の嫌らしさ。
だから夢がさめると、自己嫌悪に陥りお参りをやめてしまう梅喜。
そうした細かな心理描写では、やはり文楽にかなわない。
さん喬の人柄が、むしろ邪魔しているのかも知れない。
実力者二人のぶつかり合い、見ごたえのあった会だった。
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