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2011/05/28

落語家の素質、才能

中学生のころ、寄席通いしていた友人が、あるとき興奮してこう語りかけてきた。
「昨日みたんだけど、朝太っていう、すげえ上手い前座がいてな。」
後の古今亭志ん朝である。
立川談志が最初に注目を浴びたのも、ある名人会の前座(小よし)で出たときだった。
先代の三遊亭圓楽や春風亭小朝は、二ツ目当時から評価が高かった。
私も末広亭で二ツ目時代の桂小金治「禁酒番屋」を聴いて、ひっくり返って笑った記憶がある。
「栴檀は双葉より芳し」で、彼らは若い頃から素質(才能、資質)に恵まれていた。

落語家は本人が希望し師匠が許してくれれば、誰でもなれる。
共通一次もなければ口頭試問もない。
早い時期から頭角を現わす人もいれば、年を重ねてもサッパリという人もいる。
なかには素人目からみても、芸人に向いていないのではという噺家もいるが、スタートから人生をやり直すのは容易ではなかろう。
劇団民藝のトップだった宇野重吉が著書に書いていたが、俳優の中にも明らかに不向きの人がいるのだそうだ。
彼はそういう人に対して、早く俳優をやめて他の職業に就くように説得したという。
本人は稽古熱心で、そこそこ演技も上手いのだが、宇野の眼からみると将来絶対にモノにならないことが分かるのだそうだ。
だから本人のためを思って、転職を勧めたとある。

かく言う私も中学のころ、落語家になろうかと志したことがあった。
2年生だったか愈々将来を決めようかと思い悩んで、あるとき鏡に顔をじっと映してみた。
その結果、落語家になることを断念した。
俺の顔は芸人向きじゃない、そう悟ったからだ。
小学生の頃から寄席に行っていたお蔭で、流行る人と流行らない人はどこが違うのかが区別できていた。
芸人として大事なのは華と愛嬌、そしてルックスも無視できない。
二枚目である必要はないが、やはり男前であることは有利だ。
中学時代の私の決断は正しかったと、今もそう確信している。

二ツ目の春風亭一之輔への世評が高い。
小朝以来と、その素質を称える向きもある。
先日、彼を評して当方がコメント欄に『志願すれば誰でも落語家になれますが、その中で才能のある人は一握りです。これからどこまで大きくなるのか、楽しみです。』と書いた。
これに対して「言志館」という方から、次のようなコメントが寄せられた。
『「五人廻し」、「百川」を一之輔さんは十分に咀嚼して、圓生を乗り越えようとしていました(いずれも横浜にぎわい座)。
実は、このワザオギの会の開演まで間があったので、半蔵門線「永田町」国立劇場出口前にあるコーヒーショップに入ったのですが、一之輔さんがキャスター付バックを持って当方の通路隔てた真ん前に座られ、コーヒーをすすられながら、大学ノートを広げて、ネタを熱心にさらっておられました。
こうした勉強熱心が今の充実を作っていると感じいった次第です。
「才能のある人は一握り」なので、鈴本も、池袋も、いつも同じ顔。』

才能があるということは、必要条件ではあるが十分条件ではない。
才能だけで罷り通れるほど、芸の世界は甘いものではない。
ひたむきな努力があってはじめて、大成への道が開かれる。
これからも一之輔に注目してゆきたい。

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コメント

鏡をみて落語家を断念した、には笑ってしまいました。
一之輔は緊張しますね。あの緊張するってことが成長につながるようにも思います。

投稿: 佐平次 | 2011/05/28 11:01

佐平次様
>鏡をみて落語家を断念した、には笑ってしまいました。
「鏡よ鏡、鏡さん。この世で一番面白い人は誰?」「それは、お前ではない!」なんてね。
本人はいたって真剣かつ深刻だったんですよ。
でも早目に挫折を味わっておいて、永い人生にとっては良かったと思っています。

投稿: home-9(ほめ・く) | 2011/05/28 11:15

一之輔の高座からは、確かに適度な緊張感を感じます。どこかの流派の売れっ子の高座には、本人が自覚していなくても、「聞かせてやる」という驕りを感じることが多い。
あと、先物買いなら、扇辰の弟子の辰じんに私は注目しています。

投稿: 小言幸兵衛 | 2011/05/28 13:53

小言幸兵衛様
そうですか、辰じんは未見ですが、入船亭一門には好感が持てる噺家が多いですね。
女流なら立川こはる、ってぇとこでしょうか。

投稿: home-9(ほめ・く) | 2011/05/28 14:53

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