「身毒丸(しんとくまる)」(2011/9/3夜)
9月3日夕方から”天王洲 銀河劇場”で行われている舞台「身毒丸」を観劇。
天王洲アイルという駅に初めて下車した。劇場は駅と直結なので便利。舞台はオペラ座のようにタッパが高く、3階席まで客で埋まっていたようだ。
作:寺山修司/岸田理生
演出:蜷川幸雄
歌詞:寺山修司
作曲:宮川彬良
< キャスト >
大竹しのぶ:撫子、身毒丸の継母
矢野聖人:身毒丸
六平直政:身毒丸の父親
中島来星、若林時英(Wキャスト):せんさく、撫子の連れ子
蘭妖子:小間使い
石井愃一:仮面売り
マメ山田、飯田邦博、福田潔、澤魁士、塚本幸男、プリティ太田、鈴木彰紀、平山遼、羽子田洋子、難波真奈美、池島 優、佐野あい、多岐川装子、石澤美和、茂手木桜子、岡部恭子、尾関陸
ストーリーは。
母を亡くした身毒丸とその父親は、母を売る店で女・撫子を買い、その連れ子(拾われた子で実子ではない)・せんさくと共に4人家族の暮らしが始まる。
母がいない家は家ではないと思い込む父親は満足するが、撫子を母と認めない身毒丸は、彼女に反抗的な態度を取り、しだいに家族から孤立していく。
撫子は身毒丸に手を焼く一方、実子を生みたいという願いも父親から拒絶され、家の中で自分の居場所を見つけられずに追い詰められてゆき、ついには身毒丸を折檻してしまう。
家を飛び出した身毒丸は、地下へ通じる奇妙な「穴」を持つ仮面売りの男に出会う。
亡き母を求め、死人が住むと言われる地下世界へ降りて行く身毒丸だったが、ようやく巡り合ったと思った母は、撫子だった。
それから2年経ち、このままの生活を続けていたら家族が破滅すると考えた撫子は身毒丸を呪い殺そうとする。呪われた身毒丸は両目を潰され、家を去る。
さらに数年、再び家に姿を現した身毒丸はせんさくを汚し、父親は狂い、家は崩壊する。
残された身毒丸と撫子は・・・。
中世の説話をもとに寺山修司と岸田理生により戯曲化されたこの作品は、身毒丸と撫子二人の愛憎―それは時に母と息子という関係であり、時には男と女の関係でもあり―を軸に、物語は展開してゆく。
主人公の撫子は、母は亡く父には売られ、愛したい愛されたい、自分の子どもを産みたい、その夢の実現のために「家」を追い求めてきた。
しかし形だけの家族で、中味は空っぽ。
そしてあれだけ憎んでいた身毒丸を求め、愛し合ってしまう。
それは作者の寺山修司自身が幼いときに父を亡くし、慕う母とは生活のために離れ離れの暮らしとなって、祖母に引きとられ育てられた。その母への思いが投影したものだろうか。
最終シーンは「牡丹燈籠」を連想させる。
ただ物語全体としては、あまり後味が良いとは言えない。
撫子の女の哀しさ、愛しさを初役で大竹しのぶが見事に演じ切る。今回の「身毒丸」は詰まる所、大竹しのぶの芝居である。
とにかく溜め息が出るほど上手い。もう天才としか表現のしようがない。
オーデションで選ばれ初舞台を踏んだ身毒丸役の矢野聖人はやや硬さが見られたが、新人としては良く健闘していたと思う。
ただこの役は藤原竜也で見たかった。矢野には、藤原のようなエロティシズムを醸し出すのは無理かも知れない。
記号としての父親を演じた六平直政はさすがで、登場しただけで舞台が締まる。
舞台装置や小道具、衣装が凝っていて、独特の世界を造りだすのに成功していた。
公演は9月18日まで東京、大阪、名古屋の各地で。
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