鈴本演芸場10月上席・昼(2011/10/5)
「また寄席!あんた、いつから落語評論家になったのよ!」。ふん、女心にぁ男の気持ち、分かるものかと諦める。
10月5日、鈴本演芸場上席・昼の部の中日に出向く。
顔ぶれのわりにガラガラだったのは、ウィークデイの昼間で雨だったからか。
ノンビリとした時間を過ごすには、ウッテツケ。
ただ菊丸の高座の時に、携帯が鳴ってそのまま客席で通話した客がいたのは頂けない。寄席でこうした客を見たのは3度目だ。悪気はないのだろうが、困ったものだ。
前座・春風亭一力「子ほめ」
< 番組 >
・月の家鏡太「大安売り」
タイトルだと分かり難いかも知れないが、大阪相撲で「勝ったり負けたり」と言えばお分かりだろう。
喋りはまだまだだが(セリフが相撲取りらしくない)、爽やかで良い。
・ストレート松浦「ジャグリング」
プロとはいえ、見事な手さばきだ。
・柳家喜多八「長短」
この日は夜の部で小三冶の代演で、トリを取ることになっている。
軽く手短じかな「長短」だった。
・桃月庵白酒「権助魚」
場内を見渡し都心の盛り場でこれほどユッタリできるのはここだけとか、鈴本の客は上流階級なので1000円以上の服を着ているなどと、いつもの毒舌から入る。
浅い出番の軽い高座だったが、権助が網取り魚を説明する聴かせ所はキチンと押えていた。この人は何を演らせても上手い。
・すず風 にゃん子・金魚「漫才」
いつも思うのだが、この二人の芸はツマラナイを通りこして、辛い。
女同士の漫才というのは、上方東京を通して成功例が少ない。三味線やギターなど楽器をやれればそれなりに楽しませることもできるが、この二人はそれもない。
シャベクリだけで行こうとするなら、例えば台本作家を入れてネタを作るとか、何か工夫が必要だろう。
・入船亭扇辰「目黒のさんま」
良くまとまっていた。
ただ扇辰に限らず近ごろの「目黒」で気になるのは、殿様がまるでバカ殿のように描かれていることだ。
この殿は世間知らずではあるが、決して愚か者ではない。
そこの性格描写を間違えると、最後の「それでいかん。サンマは目黒に限るぞ」のセリフが効いてこない。
・鈴々舎馬風「漫談」
こういう芸も寄席にはなくてはならぬ。
・ダーク広和「奇術」
せっかく技術があるのだから、寄席の奇術としてもっと見栄えのするパフォーマンスをした方が良いのではなかろうか。
・橘家圓太郎「野ざらし」
マクラで、「寄席というのは普段着の人が集まって、着物をきた人の話を聴くところ」と言っていたが、成る程。
この人の喋りを五線譜に書くと、同じ長さの音符がほぼ同じ位置に並んでしまうだろう。
それが効果的な場合もあるが、「野ざらし」はセリフの緩急や高低変化が求められる。
全体が一本調子になってしまい、今ひとつの出来だった。
-仲入り-
・ホンキートンク「漫才」
段々面白くなってきている。
・古今亭菊丸「時そば」
近ごろ、やたらクスグリを入れた変り「時そば」が幅をきかせているが、このネタは本来、風情で聴かせる噺なのだ。
菊丸の高座は一切余計なものを入れない本寸法で、それでいてソバの食い分けなどで客席を唸らせていた。
携帯のトラブルで少し乱されたのかミスがあったのは残念だが、久々に結構な「時そば」が聴けた。
この人の高座は常に品があり、それが貴重になりつつある。
・ぺぺ桜井「ギター漫談」
寄席に来たんだなという実感が湧いてくる。
・桂藤兵衛「寝床」
40分の長講でタップリ聴かせてくれたが、文楽+志ん生の演出の形となり、やや詰め込み過ぎの印象になってしまったのが残念。
家主が義太夫について言い聞かせると陰から揶揄される場面を、最後の義太夫が終わってからのシーンに持ってきていたが、これは不自然。やはり通常通りに茂造が、「よろしゅうございます。覚悟いたしました。伺いましょう。あたしが伺いさえすりゃ気がすむんでしょ。」と泣く後に持ってきた方が良いと思う。
チャンスがあればこの上席、もう一度聴きに行ってみたい、そう思わせる高座が続いた。
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» 寿輔ワールドもいいものだ 池袋演芸場昼の部 [梟通信~ホンの戯言]
この所楽チンに生きている気がして不安でならない。志ん輔のブログにあった言葉だ。
俺も現役時代、なにもない平穏な毎日が続くと根拠のない不安にかられたものだ。
隠居になったのだからもうそんな気持ちとはきれいさっぱり縁がなくなったかとおもうとこれがそうでもないのだ。
体調が悪かったりして、今朝はサンチの散歩もわずかながらの家事も一切休んでやろうと決めてぐずぐずしていると気持ちがどんどん沈んでいって大げさにいうと生きる元気もなくなる。
(池袋駅前)
というわけで池袋演芸場に行って来た。
芸協の... [続きを読む]
小満んの殿さまはその点よかったなあ。
投稿: 佐平次 | 2011/10/08 12:41
佐平次様
近頃はまるでドリフのコントの様な殿様に描かれていて、違和感を覚えます。
サンマを所望したのに、似ても似つかぬ料理が出て来た。「こんなもの食えるか!」と言ってしまえば、接待してくれた大名の面目丸つぶれ。料理人は追放です。
そこは粋に「サンマは目黒に限るぞ」とフォローしたわけで、この殿は名君です。
小満んが正しいのです。
投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2011/10/08 13:03
この記事をTBさせていただきました。あしからず^^。
投稿: 佐平次 | 2011/10/20 12:10
佐平次様
この噺はもともと、雲州松江十八万石の第八代城主・松平出羽守斉恒公の物語で、名君の誉れ高い方だったようです。
オリジナルの香を残す意味でも、オチは粋に演じて欲しいものです。
投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2011/10/20 15:07