劇団大阪40周年記念公演「そして、あなたに逢えた」(2011/11/19)
昼の「楽園終着駅」に引き続き、劇団大阪によるドーンセンターでの11月19日夜の公演「そして、あなたに逢えた」を観劇。
前者が老人ホームを舞台にしていたなら、こちらの芝居は痴呆老人施設の物語り。作者・近石綏子はさらに「ホスピス」の劇作を企図しているとのことで、完成すれば三部作、文字通りのライフワークとなると思われる。
【そして、あなたに逢えた】
作/近石綏子
演出/熊本一
ストーリーは。
ある地方都市近郊の痴呆性老人ホームでの物語り。
そこには元医師・平岡量平(杉本進)、元歌手・川島律子(夏原幸子)、元棟梁・大山民治(清原正次)、元娼婦・小川ハツ(森祥子)、元食堂の叔母さん・前田千代(和田幸子)、元大工・小林幸吉(神津晴朗)、元教師・沢村英子(山内佳子)、元農夫・野本大五郎(高尾顕)、元女工・吉野きく(名取由美子)ら、様々な人生を背負ってきた認知症老人たちが暮らしている。
そしてあるべき介護を求めて日々奮闘する施設の園長・長田五郎(齋藤誠)、主任ケアワーカー・原田和彦(上田啓輔)、ケアワーカー・小宮由紀(もりのくるみ)ら職員たち。
息子の顔すら忘れてしまった平岡を、長男祐一(宮村信吾)と妻景子(津田ひろこ)夫婦が住む自宅に連れて行き、リスリングルームで所蔵のレコードをかけると次第に記憶が蘇ってくる。
車椅子生活の大山を小宮たちがかつて大山が建てた寺を見せに連れだすと、亡くなった妻への恋慕と棟梁の時代のプライドを思い出す。
川島には生き別れた実の娘・西沢玲子(小石久美子)がいるが、長田が入院前に一目逢って欲しいと訴えるが、玲子は自分を捨てた母親を許せず面会を拒否する。
しかし母が重病と知った玲子は施設を訪れて、実は母は片時も娘を忘れていなかったことを知り・・・。
前作に比べ、登場人物の人間像が鮮やかに描かれていて、密度の濃い作品に仕上がっていた。
認知症老人個々のエピソードや家族との交流は胸を打ち、施設職員の奮闘や苦悩も丁寧に描かれていた。
最終場面が入所者と家族、職員らのダンスシーンで終わるのも、救いがあって良かった。
ただ主任・原田が辞表を出すシーンが唐突だったように思う。なにか取って付けたような印象で、もっと全体の物語りの流れの中でこのエピソードを挟んだ方が自然ではなかったか。辞表を撤回するところもより明確に示して欲しかった。
主な出演者が劇団員でキャスティングされていたせいか、全体に演技がしっかりしていて見応えがあった。
前作に引き続き清原正次の熱演と、園長役の齋藤誠と元歌手役の夏原幸子の好演が光る。
認知症患者にとり家族の支援や交流が大切であることはその通りだが、現在そこを逆手にとって施設にあずけず家庭で面倒を見させるという政策が進められている。
もちろん口実で福祉厚生予算を切り下げる方便に利用されているのだが、その結果、多くの認知症患者がどこの施設でも引き取り手がなく、止むを得ず子供たちが退職して家で面倒をみているというケースが激増している。その中で数々の悲劇が生まれているのはご承知の通りだ。
劇に出ている老人たちは、まだ幸せの方だという現実もある。
それに施設に入れるにしても、家族の費用負担の問題もある。本人の年金だけでは到底足りないだろう。芝居を観ていて、この人たちの費用はどのようにして賄っているのか気になって仕方がなかった。
この作品が書かれ上演された時代から、今は更に現実が深刻化している。
舞台への感動と同時に、現実とのギャップが頭をかすめてしまった。
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