吉例「My演芸大賞2011」の発表
お待たせしました。誰も待ってないって? オヤ、そうですか。
全国の落語ファン(たって、三人ぐらい)待望の「My演芸大賞2011」を発表いたします。
今年は寄席、落語会におよそ60回通いましたので、ざっと360席ほどの高座を観た勘定になります。
その中から大賞一点、優秀賞五点を次の通り決定しました。
【大賞】
桃月庵白酒「今戸の狐」 9月13日”白酒ひとり”
【優秀賞】
柳家三三「橋場の雪」1月16日”三三新春独演会”
入船亭扇辰「ねずみ」 4月23日”三田落語会”
春風亭一之輔「五人廻し」4月29日”一之輔独演会”
笑福亭三喬「鹿政談」10月8日”三喬・喬太郎二人会”
五街道雲助「芝浜」12月7日”芸術祭受賞者公演”
【選評】
先ず選考基準だが、芸の優劣というより一年を振り返ってどれだけ心に残ったかどうかで決めている。
やはり「上り調子」の勢いのある高座が印象に残るので、若手・中堅が中心になる。
当方が勝手に命名している「三白一兼(さんぱくいっけん)」、即ち三三、白酒、一之輔、兼好の四名が今年も台風の目となった。
なかでも桃月庵白酒の活躍が最も眼に付いた年だったと思う。前座噺から大ネタまで、軽い滑稽噺から人情噺までこなす芸域の広さは群を抜き、いずれもレベルが高い。
どの演目を選んで良いのだが、大賞の「今戸の狐」は古今亭の御家芸ともいうべきネタで、志ん生から志ん朝へと受け継がれてきた。筋が混み入って割に笑いが取れず、今では通じない符牒がサゲに使われているためか高座にかかる機会が少ない。
白酒の高座は時代背景や符牒の説明を随所におりこみ、人物の演じ分けが良く出来ていて楽しめた。
志ん朝の芸を偲ばせる高座は正に大賞にふさわしい。
柳家三三は演じ手が少なく埋もれかけていた噺を復活させる意欲的な取り組みを行っているが、いずれも高水準なのには感心する。よほど勉強家なのだろう。
「橋場の雪」はこんこんと降り続く大川の情景描写が季節感に溢れ、人物像も優れていた。特に三三は女を演じるのが上手い。
近ごろメキメキと頭角を現わしつつある入船亭扇辰、「ねずみ」では卯兵衛・卯之吉の親子の人物像が鮮やかで、特に卯兵衛のどん底に落とされながらも嘗ての大店の主人らしい矜持を失っていない姿がよく出来ていた。倅の卯之吉がひたすら健気で泣かされた。
師匠より大師匠・三代目三木助を彷彿とさせるような出来栄えだった。
春風亭一之輔、来春の独り真打昇進が決まり、今いちばん勢いに乗っている。
いくつか候補作はあるが、「五人廻し」では聴かせ所の吉原の故事来歴を言い立てる場面が颯爽としていて、五人の客と喜助の人物像も鮮やかで、最も優れていた。
笑福亭三喬は初見だったが、「鹿政談」では従来のこのネタに関する印象を一変させられた。
三喬の高座では、当時奈良町奉行職にあった曲淵甲斐守が鹿を殺せば死罪という法はあまりに重罰過ぎるとして、奈良の法を改めようと試みていた矢先の事件としてこの物語が展開する。
用語の解説や歴史的な背景の説明も丁寧で、語り口も明瞭。そのせいか、この噺が一段と恰幅が良くなり奥が深くなっていた。
現在の上方落語の水準を示した一席。
数々の演者が挑戦している「芝浜」、五街道雲助の高座ではセリフの「間」が芝居仕立て、つまり歌舞伎の世話物として演じていた。
私たち観客はその芝居をみているわけで、これは新しい試みといえる。
芸の高さでは現役落語家のトップクラスである雲助の至芸をみた心地がした。
これにて一年の納めとします。
来年の皆様のご健勝と、来たる年が安全で安心できる世の中であるよう、心より祈念いたします。
では、良いお年を。
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