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2012/01/29

「よってたかって新春落語'12」(2012/1/28夜)

始めに嬉しいニュースから。古今亭菊丸が昨年行われた独演会で演じた「火事息子」で、第66回文化庁芸術祭大衆芸能部門・優秀賞を受賞した。
寄席でいつも丁寧な高座をみせてくれ感心していた噺家だ。こういう人が評価されるというのは大変喜ばしい。
Imgさて”21世紀スペシャル寄席oneday「よってたかって新春落語'12」”が1月28日よみうりホールで行われた。昼夜公演だが、その夜の部へ。
開演前ロビーで一之輔が真打昇進披露興行の前売りチケット(左の画像)を販売していたので、早速ゲット。鈴本の日曜日の券だったのはラッキー。この人、普段着だと”とっちゃん坊や”みたいなせいか、本人と気付いていない客が多かったようだ。
分かってからはサインだとか写真だとか大騒ぎだったが、ああいうのはどうも好きじゃない。「頑張って」なんて言う客もいたようだが、そんな事いわなくとも本人は必死だ。ファンなら静かに見守っていれば。

<  番組  >
前座・柳家緑太「垂乳根」
春風亭一之輔「短命」
桃月庵白酒「井戸の茶碗」
~仲入り~
春風亭百栄「疝気の虫」
柳家喬太郎「按摩の炬燵」

その一之輔「短命」、いきなりの艶笑噺。
「真打披露は大変だ」マクラもそろそろ鼻についてきた感がある。
このネタ、かつては志ん生だとか先代小さんら大看板がたまに高座にかけるような演目だったが、近ごろは頻繁に演じられる。
隠居がボソボソと「顔を見れば、ふるいつきたくなるいい女・・・、なあ・・、短命だろう」と謎掛けするが、八五郎は一向に理解せずトンチンカンな受け答えをする。それを聴く観客がクスリと笑う、そういうネタなのだ。
隠居があんなにハイテンションの大声で謎掛けするくらいなら、最初からズバッと正解を言ってやりゃいいのにと思ってしまった一之輔の演出。
客席は大受けだったから、あれでも良いのかな。

白酒「井戸の茶碗」、このネタ言うまでもなく志ん朝が絶品で、これをいかに超えるかが後輩たちの大きな課題だ。
白酒は千代田卜斎の茶碗を娘・絹が高木佐太夫宅へ持参し、そこで双方が一目惚れするという設定にして、青春ラブストーリー風な味付けを加えている。チョイ悪風の高木の中間を登場させているのも、善人だけの爽やかな物語への「薬味」だ。
一歩間違うとネタの風格を壊しかねない変更だが、白酒の流れる様なテンポがオリジナルの「風味」を保っている。
毎回少しずつ内容を変えていて、どこを変えたのかを探す楽しさも魅力。

百栄「疝気の虫」、ネタの選定が悪い。「短命」が出てるんだから「疝気の虫」はないだろう。
オチの「別荘がなくて、土手にぶつかった」も最悪。こういうのは言わずもなが。
こうした高座をみせられると、今回の顔ぶれの中で一段と見劣りしていることがはっきりと分かる。

喬太郎「按摩の炬燵」は上出来。このネタ、今回で三度目だがこの日が一番良かった。
大店の奉公人たちが按摩の米一に酒を呑ませて、暖かくなった体を炬燵代わりに使うという、見方によっては残酷な物語だ。
最大の聴かせどころは、全体のおよそ3分の2を占める、按摩が酒を呑みながら語るモノローグだ。かつての按摩は世間の最底辺の人たちであり、盲人ということで蔑みの対象にもなっていた。
番頭がふるまってくれる酒を一杯ずつ味わう米一。
喬太郎の演出はその嬉しそうに呑む姿の裏に、この男の負ってきた過去、惨めな思い、そこがしみじみと伝わってくる。
酒の燗がある時はちょうど良く、ある時は熱燗、ある時はぬるめ。これには寒さに震えながら早く温まりたい奉公人たちの心理が表れている。
そして、それを受け止める米一の優しさ。
この部分がよく描かれているから、終盤に後味の悪さを残さない。
「按摩の炬燵」における喬太郎のモノローグは、圓生の「一人酒盛」に匹敵すると言ったら褒め過ぎかな。
帰ってきた喬太郎、今をときめく白酒や一之輔なんぞ未だメじゃないぞ、そんな高座姿だった。

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コメント

喬太郎、良かったようですね。ほめ・くさんのブログを読んで、彼の古典への熱い思いが伝わるようです。
「短命」は、私もあまりに多くの若手噺家が演じるのを奇異に感じていました。
「艶笑噺」であることをどれほど認識しているのでしょうか。
喜多八くらいからでしょうか、相応しい年齢は。
来月喬太郎を聞く予定があるので、楽しみです。

昨年末から幸兵衛さんが今年の喬太郎に注目したいという意味の記事を書かれていましたが、その予想は当りだったようです。
鈴本のトリとこの日の高座をみる限りでは、今年はかなり期待できそうです。
一之輔は少し飛ばし過ぎが心配です。本番は3月21日からの50日間なので、今はペースダウンも必要なのかなと、そんなことを感じています。まあ、余計なお世話でしょうけど。

菊六、よかったなあ。
百栄は数少ない聴きたくない噺家に分類されます。

佐平次様
受賞は菊六ではなく菊丸の方です。そちらの菊六の会も良かったようですね。
百栄は古典が全くダメです。あの喋りが合わない。

菊丸の「火事息子」は昨年の12月に某所で聴きました。
浅草住まいだからこそ語れる話も出て、私の好きな扇橋の一席とは味わいが異なる独特の「火事息子」でした。

「火事息子」ですが、「この噺にはこの噺家」では八代目の正蔵(彦六)を挙げていらっしゃいますね。

丁寧、などの言葉ですっかり菊六と思い込みました。そんなに世の中甘くないですよね^^。

福様
菊丸も浅草ですか。菊之丞と同じですね。やっぱり噺家はあの辺りに住みたいんでしょう。
「火事息子」には彦六の正蔵の思い入れがありますから、外せないところです。

佐平次様
記事が紛らわしかったですかねぇ。
いずれにしろ円菊一門は活躍が目立ちます。

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