鈴本演芸場正月二之席・夜(2012/1/17)
鈴本演芸場正月二之席昼の部に続き夜の部に、中日がベストオーダーだったので夕方出かけようと支度していたが、「あんた、いい加減にしなさいよ」という不条理の一声で中止決定。
歳を取ると女房には一切逆らわず、ひたすら恭順の意を表することこそ家庭円満のコツ。根が利口だから無駄な争いは起こさない。
でも時にはアタシの一言で、ピタッと抑えてしまうことだってあるんですよ。
「すまない、俺が悪かった」。
そんなわけで17日の夜席に出向く。
平日だったので開演前は客席がパラパラだったが、仲入り前辺りから次第に増えていた。
勤め帰りの方がお目立てに間に合うよう駆けつけたのだろう、ご苦労様です。
前座・柳家まめ禄「狸札」
< 番組 >
柳家さん弥「熊の皮」
柳貴家小雪「太神楽曲芸」
春風亭正朝「手紙無筆」
柳家喬之助「寄合酒」
大空遊平・かほり「漫才」
春風亭百栄「桃太郎後日譚」
桃月庵白酒「甲府い」
-仲入り-
伊藤夢葉「奇術」
入船亭扇遊「干物箱」
柳家小菊「粋曲」
柳家喬太郎「うどん屋」
鈴本の場合、興行時間が昼の部が4時間に比べ、夜の部は3時間10分とかなり短い。出演者の数でいえば3人少ない。
他の寄席に比べても鈴本の夜の部は時間が短すぎの感があり、せめて終演を9時にしてあと20分延ばせないだろうか。仕事帰りの人も入り易くなると思うのだが。
順序をかえてトリの喬太郎「うどん屋」から。
「うどん屋」は8代目可楽が最高だと思っているが、それに次ぐのが5代目小さん。喬太郎はその大師匠である小さんの型を基本にしているが、いくつか演出上独自の工夫がなされている。
例えば酔客が知人の娘である「みい坊」の婚礼を語るシーンでは、小道具として桜湯を登場させながら情感たっぷりに表現している。
うどん屋と酔客の会話では、酔客が同じ話を繰り返すシーンでうどん屋が先取りしてツッコミを入れると、客が「おめえが言うなよ」だの「そこは俺に言わせてくれよ」などと漫才のような二人の掛け合いを加えている。
演出の細かさでは、酔客が水を2杯飲むが、1杯目は喉を鳴らしながら飲むが2杯目は途中で止めてしまう。せっかく温まった体が冷えてきたのだろう。
うどん屋が路地を流していると冷たい風が吹き抜け寒さで体を震わす。大通りに出ると売り声のオクターブを一段上げるのは、より遠くに聞こえるようにするためだろう。
終いの客がうどんをすするシーンでは、寒中に温かいうどんを食べる雰囲気が良く出ていた。
珍しく「噛む」ところや言い間違いもなく、全体に非常に丁寧な演出で上出来だったと思う。
ここのところ低迷していた喬太郎だが、もう一度ギアを入れ直してきた兆しが感じられた。これが最大の収穫。
中トリの白酒「甲府い」。前回は豆腐の売り声のシーンで、「胡麻入り」を「お参り」とやってしまうチョンボがあったが、今回はそうしたミスもなく良い仕上がりだった。
このネタ、修身の教科書のような教訓的な匂いがするせいか、あまり高座に掛からなかった時期があったが、白酒の演出によって蘇った感じがする。
途中に噺家の修行時代の師匠の女将さんとのエピソードを入れたり、豆腐屋の娘と善吉を夫婦にしようとするシーンでの旦那の大慌てぶりを加えたりして、オリジナルの宗教臭を薄めているのが成功している。
本来の白酒のキャラからするとニンではない気もするこのネタを、ここまで自分のモノにしてしまう実力には舌を巻くしかない。
若手では、さん弥「熊の皮」が良かった。
このネタは本来はバレ噺だが、近ごろの高座ではオリジナルのまま演るのを避けるようになってしまった。だから面白みがなくなった、そういうネタだ。
さん弥は脇役の医者のキャラを濃厚にして、亭主との会話を一段と面白くしていた。これならエロ抜きでも十分楽しめる。
この噺を聴く限りでは、さん弥は自分の型を築きつつある。
これから面白い存在になり得る可能性が出てきた。
前座のまめ禄、客席からは受けていなかったが決して悪い出来ではなかった。口調がはっきりしているし、噺が完全に頭に入っている。大師匠の十八番に挑戦する姿勢も良い。
百栄「桃太郎後日譚」、鬼退治から帰ってきた犬、猿、雉が爺さん婆さんの家に居座りせびるという後日談で、「まだ鬼の方が良かった」には笑ってしまった。
小朝の桃太郎がブッシュ、鬼ヶ島がイラクという設定の流れかなとも思ったが、面白かった。
扇遊「干物箱」は途中からではあったがノーカットで最後のオチまで、楽しませてくれた。さすがである。
正朝「手紙無筆」、どうも休業明けからかつての輝きを失ってしまったように思う。高座に覇気がない。
喬之助「寄合酒」、このネタの命であるリズムが悪い。3拍子の所にいきなり4拍子が入るから聴いている方が乗っていけなくなる。
遊平・かほり「漫才」、常識人同士の会話というのは、どうもあまり面白いものではない。
というわけで昼席が90点とすれば、こちらは75点位か。
それでも立派に合格点ではある。
« 「ラ・カージュ・オ・フォール」(2012/1/14) | トップページ | 原発事故の「刑事責任」 »
「寄席・落語」カテゴリの記事
- 談春の「これからの芝浜」(2023.03.26)
- 「極め付き」の落語と演者(2023.03.05)
- 落語家とバラエティー番組(2023.02.06)
- 噺家の死、そして失われる出囃子(2023.01.29)
- この演者にはこの噺(2023.01.26)
八代目可楽の酔っ払い、いいですよね。
喬太郎の「うどん屋」は、一昨年の神奈川県民ホールでの白酒の会の客演で聞いて、感心しました。
彼の古典落語の実力が発揮できるネタの一つではないでしょうか。
喬太郎の古典、私も今年は期待しています。
投稿: 小言幸兵衛 | 2012/01/18 20:57
小言幸兵衛様
このネタ2回目ですが、全体に丁寧な演出でした。今年の喬太郎は期待できそうです。そういう印象を受けました。
投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2012/01/18 23:05
さん弥を褒めて下さるとは嬉しいですね。
師匠はさん喬。
こちらにお世話になってから実感を深めたんですが、弟子は師匠によりますね。
あ、いいなと思う人はたいてい師匠が立派です。
投稿: 福 | 2012/01/22 19:53
福様
いま期待の若手を見渡しても、やはり師匠がしっかりしている人たちばかりです。
さん弥は上手くなりました。このまま順調にいけば真打になるのも遠くないと思います。
投稿: ほめ・く | 2012/01/22 22:43