「芸協」が他流と合流する?
1月26日付朝日新聞(夕刊)に「定席側、芸術協会に他流との合流提案」「今のままじゃあ、寄席にお客が来ない」という見出しで、最近の落語界の動きを伝えている。
発端は昨年末の芸協の納会の席上で、末広亭・真山由光社長が芸協の客入りの悪さに触れ、「圓楽一門会や立川流と一緒になってほしい」と発言したことにある。浅草演芸ホールと池袋演芸場も同調した模様だ。
これに対して芸協副会長の三遊亭小遊三は「重く受け止めたい」と答えたとされる。
遂に来るべきものが来たということか。
落語に不案内の向きはナンノコッチャイかと思われるので、背景を少し説明したい。
現在、落語家は日本全国に約700人いるが、大きく東京と大阪に分かれる。
大阪には上方落語協会があるが、東京には落語協会、落語芸術協会、三遊亭円楽一門会、落語立川流の4つの団体がある。
落語を中心とした演芸の公演を行なっている劇場あるいは会場の事を「寄席」というが、そのうち一年中休まず興行を行っている寄席を「定席」と呼ぶ。
東京には鈴本演芸場(上野)、末広亭(新宿)、浅草演芸ホール、池袋演芸場の4軒の「定席」がある。
定席に出られるのは落語協会(落協)と落語芸術協会(芸協)だけで、他の流派は出演できない。さらに鈴本だけは落協の芸人しか出られない。
定席の興行は一ヶ月のうち1日から10日までを上席(かみせき)、11日から20日までを中席(なかせき)、21日から30日までを下席(しもせき)といい、この十日間ごとに番組が変わる。
各席の出演者は定席の席亭(オーナーあるいは支配人)と協会との話し合いで決める。
鈴本以外の三軒の定席は、10日間毎に落協と芸協が交互に公演を打っている(池袋は少し変則)。
冒頭の記事は、その三軒の席亭から、芸協の興行の際の客入りが悪いから何とかしてくれという注文が付いたということだ。
噺家にとって定席こそが生活の糧であり、席亭は最も恐い存在だ。
ここまでで、何かご質問は?
落語ブームがいわれて久しい。
確かに一部の噺家が出演する会ではチケットの前売りが瞬間蒸発となり、常に会場は満席となっている。
しかし、それ以外の落語会や人気者が出ていない定席の会場では空席が目立つことが多い。
つまり昨今の落語ブームはあくまで一部の落語家だけに偏ったブームなのだ。
一般に人気落語家といえば歌丸や圓楽といった「笑点」出演者を思い浮かべるかも知れないが、頻繁に寄席に足を運ぶハードな落語ファンには必ずしも評価は高くない。そういう方々のブログをみると、やはり落語協会所属の噺家に関する記事が多く、落協と芸協の比率は大まかにいうと7:3か8:2位ではないかと推測される。
恐らくはこの比率が両協会の集客力の差となって現れているのではなかろうか。
その要因としては次の点があげられると思う。
1.昭和の名人とされる文楽、志ん生、圓生、小さん、いずれも落協の所属だった。
2.当代の人気落語家の多くも落協に所属している(立川流を別にして)。
3.芸協に比べ落協の噺家の数はおよそ2倍であり、層が厚い。
4.寄席の歌舞伎座ともよばれる鈴本演芸場が芸協を出演させない。
そう考えると芸協の巻き返しも容易ではない。
その芸協と他流派の合流だが、これも簡単には運びそうにない。
圓楽も談志も元々は落協から別れているので、どちらかといえば落協との親和性が高いと見られる。
現に昨年、圓楽一門が芸協への合流を申し入れたが断られたと報じられている。芸協内部に異論があり総会で否決されたのだ。
その圓楽一門内部もしっくり行っていない様子だ。
立川流も家元を失ったこれから、内部が一枚岩でいけるかどうか大いに疑問がある。志の輔、談春らの人気者とそれ以外のメンバーとでは、目指す方向が全く異なると思われる。
当面、三派の合流は有り得ないと考えた方が良さそうだ。
この件で芸協の田澤祐一事務局長は「先ずはうちの協会の側でお客を呼ぶ努力をしたい」とコメントしている。
確かに芸協には改善すべき点があると思う。
例えば、落協のHPには当日の定席の出演者が紹介されている。芸協のHPにも同じ欄はあるが記載されているのは予定者で、実際に行ってみると休演や代演がある。寄席とはそういうものだという見方もあるだろうが、顧客へのサービスという観点からすればやはり努力が足りない。
落協が提供するインターネット落語なども参考になるだろう。
昔は「古典の落協、新作の芸協」といわれていたが、近ごろではそうした特色は薄れている。
芸協としては何を旗印にしていくのか、その点も求められよう。
このままでは定席での芸協の出番が減らされかねない。
もっと大きく考えれば、関西と同様に東京の協会も一本化すべきなのだろう。過去のしがらみを別にすれば、二つに分かれている必然性は無い。
小さな業界なのだから、一緒になって落語界を盛りあげて行く時期に差し掛かっている。
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一本化がいいですね。
問題はそうしたときに人気のない下手な噺家の出番をどう保証してやるか。
観客にしてみればつまらない人が多くなると足が遠のくし人気者ばかり出すといつまでたっても下手が成長しないし、、。
やっぱり芸協のレベルをあげることかもしれない。
投稿: 佐平次 | 2012/01/27 10:58
貴重な情報ありがとうございます。
夕刊はとっていないもので、この記事知りませんでした。調べましたら“朝日新聞デジタル”で全文読むことができたので、後で記事の紹介を含め、何か書くつもりです。
私は、一本化には賛成できないです。
芸協が「企業努力」するしかないような、気がします。今のままでは、落語協会との差は広がるばかりでしょうね。
投稿: 小言幸兵衛 | 2012/01/27 18:50
原則はすべての団体が寄席に出られればよいという立場です。
例えば、芸協が立川流と合流すれば、志の輔、志らく、談春の人気から集客力は飛躍的に向上すると思います。
投稿: 福 | 2012/01/27 21:16
佐平次様
理想は一本化でしょう。
ただ現状では一本化も合流も出来ないわけで、基本としては芸協のレベルアップを待つしかありません。
人気と実力に欠ける噺家をどうする、これは恐らく妙案はないでしょう。
投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2012/01/27 22:51
小言幸兵衛様
この記事を書くにあたり先ず幸兵衛さんのサイトを見ました。先に書かれているようなら止めようと思っていたんです。
さて、どのような記事になるか、楽しみにしています。
ああ、既にもう書かれていましたね・・・。
投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2012/01/27 23:04
福様
4団体全てが出演できるというのは、定席ではありませんが国立演芸場がそうなっています。
国立のような寄席が増えていけば慣例が崩されていくかも知れませんが、採算ベースに乗るかどうかです。
立川流の場合、談志が定席否定論だったので、芸協のとの合流は難しいと思います。
投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2012/01/27 23:11