三人寄席「市馬・志ん輔・扇遊」(2012/2/26)
2月26日前進座劇場で行われた三人寄席「市馬・志ん輔・扇遊」へ。
たいだい寄席なんてぇものは東京下町に相場が決まってたが、今は全国で開かれている。井の頭線沿線なんておよそ寄席に縁がないと思っていたが、吉祥寺の前進座のこの会も今回で52回を迎えた。もう立派な老舗の落語会と呼んでいい。
志ん輔と扇遊は同期、それより8年遅れている市馬がトリ、これは年功序列ではなく、役職序列とでもいおうか。
出演者はいずれも落語協会。
< 番組 >
前座・古今亭半輔「初天神」
古今亭志ん八「たらちね」
入船亭扇遊「夢の酒」
古今亭志ん輔「子別れ・下(子は鎹)」
ー仲入りー
ホンキートンク「漫才」
柳亭市馬「二番煎じ」
志ん八「たらちね」、二ツ目だが、近ごろやたら大声でハイテンションの若手が多い中で珍しくローテンション、漂々とした芸風で面白い存在だ。ここからどう抜きん出て行くのか楽しみではある。
扇遊「夢の酒」、上手いの一言。女の焼きもちには二種類あり、一つは自分のプライドが傷つけられたことによる恨み、もう一つはパートナーへの愛情が傷つけられてことによる恨みだ。このネタの女房の嫉妬は後者の方で、だからバカバカしいと思っても嫁にせがまれて大旦那が夢の続きを見る羽目になる。
同じ焼きもちでも「悋気の独楽」と「夢の酒」とでは女房の焼き方が違わなくちゃいけない。扇遊はそこの表現が巧み。
志ん輔「子別れ・下(子は鎹)」、前日の一朝に続き「子別れ」で、こちらは下。
マクラからほぼ志ん朝の演出通りだが、熊五郎が金坊に声を掛けるときに一瞬ためらう姿勢を見せるところが異なる。このタメは有効だ。やや過剰演出気味ではあったが、良い出来だった。
これはこの日の高座に限ったことではないのだが、志ん輔ファンには悪いが私はどうもこの人への点数が辛い。その最大の理由は余りにも師匠・志ん朝の芸風に近づけようとしているからだ。しかし志ん輔の芸風は志ん朝とは全く違う。あの「粋さ」が無いからムリなのだ。どう頑張っても「垢抜けない」志ん朝で終わってしまうだろう。弟子で後を追いかけられるとしたら早逝した右朝ぐらいだったろう。だから師匠とは異なる芸風を開拓していかないと大成しないと思う。
市馬「二番煎じ」、お約束通り「さんさ時雨」(必然性は不明)の唄入りで気持ち良さそうな高座だった。ファンは喜んでおられたようだ。だが私は感心しなかった。この宴会は番小屋で密かに楽しんでというもので、ある種の「昏さ」が求められる。こんな盛大な宴会ではぶち壊しだ。
市馬の欠点は芸に陰影が無いこと。何を演っても同色、同じ色になってしまう。軽く明るいネタだと良いのだが、芸域が狭い。
このままでは声の良い明るい噺家だで、終わってしまうのではなかろうか。
これでも、けっこう楽しかったんですよ。
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