現代狂言Ⅵ(2012/3/3昼)
国立能楽堂で3月3日に行われた「現代狂言Ⅵ」昼の部へ。
野村万蔵と南原清隆が中心となって、狂言とコントを融合させるという新しい試みとして6年目を迎える。
狂言師がコントに参加しお笑い芸人が能の舞台で演技するという新鮮さが売り。併せて狂言へのイントロダクションも兼ている。
古典狂言とそれを現代風にアレンジした作品、それに新作の三本立て。
能楽堂はあいにくの工事中で、中庭に出られなかったのが残念。
< 番組 >
一、狂言「鈍太郎」
野村万蔵 南原清隆 平子悟
男が西国で成功し三年ぶりに家に帰ってくる。処が妻は誰かのイタズラかと思い、自分は再婚したと告げる。仕方なく愛人宅に行くと、これまたイタズラと思われて結婚していると告げる。
失望した男は剃髪して僧侶になってしまう。
翌日になって女二人は男が本物だと知り男を探し出すが、男は拒否する。
しかし、どうしても戻って欲しい女たちに男は次々と条件を出し・・・。
二、現代狂言「ふう太郎」
野々村真 中村豪 市川由衣 ドロンズ石本 石井康太 大野泰広
風船に乗ってアメリカを目指して飛び立ち、そのまま行方不明になっていた男が三年ぶりにヒョッコリ帰ってくる。妻と娘はイタズラと思って追い返す。
翌日になってイタズラではないことに気付き、当日が法要の日でもあったので幽霊だと判断してしまう。
その法要の真っ最中に再び家を訪れた男に・・・。
三・新作・現代狂言「ドラゴンキャッスル1.1」
佐藤弘道 南原清隆 安めぐみ 野村万蔵 野々村真 中村豪 市川由衣 ドロンズ石本 石井康太 大野泰広 森一弥
打楽器:和田啓
管楽器:稲葉明徳
就活中の浦・島太郎が面接の時に知り合った「亀」に連れられて海底の「ドラゴンキャッスル」に連れて行かれる。そこには沢山の魚がいて楽しい生活を送っていたが、彼らはいずれもコンピューターで管理されている。
島太郎はコンピューター管理から外れたら自由になれる楽しさを教え、美しい乙姫様との恋に落ちるが・・・。
三本の芝居の中ではやはり古典の狂言「鈍太郎」が断然面白い。
しばらく家を空けていた男が突然帰ってくる、そのシチュエーションに起きる様々な悲喜劇は演劇のテーマの一つといって良い。
落語の世界でも「小間物屋政談」などでお馴染みだ。
この狂言では間違って追い返した女たちが戻るよう説得すると、男は都合の良い条件を次々と繰り出し吞ませてゆく。
「損を先にする」というのは交渉事の秘訣であり、笑いの中にそうした処世訓を散りばめているわけだ。
その改作である「ふう太郎」は、かつて世間を賑わした「風船おじさん」をモデルにしたものだ。
こちらは幽霊を間違われ、成仏させるべく再び風船で空に飛ばされるというオチ。
ドタバタぶりを面白く見せていたが、古典の深さにには遠く及ばない。
新作「ドラゴンキャッスル1.1」は昨年の舞台の再演。
人間がコンピューター管理されるという未来社会をテーマにしたものだが、最早遠い未来の話ではなく現実的なテーマとなっている。
それを竜宮城での未来社会という設定にしているところに、却ってリアリティが失なわれているように思える。
ギャグ満載で面白く見せていたが掘り下げが不足している。普遍的な作品にするのは未だ道のりは遠いだろう。
出演者では南原清隆と佐藤弘道がサマになってきた。平子悟は口跡が良い。
安めぐみは顔が下ぶくれで乙姫の扮装が似合っていて見栄えがする。ただセリフは感心しない。
その他演者も熱演でサービス精神旺盛だったし、演奏を含めてアンサンブルも良かった。
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