喬太郎「ハワイの雪」他(2012/4/28昼)
GWの初日、前進座劇場で行われた”寄席≪噺を楽しむ≫その53「さん喬・喬太郎親子会」”、昼夜公演の昼の部へ。年1回のペースで開いてきたこの会も、劇場が2013年1月に閉館となるので今回がラストらしい。
昼夜で2席ずつだから1日に4席、仕事とはいえ楽じゃない。
前回の三田落語会の記事で喬太郎の声が聞き苦しかったと書いたが、昼間のよみうりホールでのトリではそれ程ひどくなかったようだ。声の商売ではあるが声帯の強さには個人差があり、辛いところだ。
< 番組 >
前座・柳家さん坊「真田小僧」
柳家小んぶ「禁酒番屋」
柳家喬太郎「猫久」
柳家さん喬「寝床」
~仲入り~
柳家さん喬「短命」
柳家喬太郎「ハワイの雪」
先ずは喬太郎の2席目、「ハワイの雪」から。
幼馴染で初恋同士でもあった男と女、辛い別れを経て男は新潟、女はハワイに住む。お互い既に80代半ばという老人であり、双方ともにパートナーに先立たれてしまった。
今は死の床にある女・チエは死ぬ前に男と一目逢いたいと譫言のように繰り返す。
見かねた孫がその旨をつづり、エアメールで男・ジイサンの元へ。
手紙を開いたジイサンの孫娘は、ハワイに行きチエと再会するよう強く勧める。
たまたま近所で腕相撲大会があり、ジイサンはのシルバー部門でライバルに勝ち優勝。その景品として当ったハワイ旅行で孫娘を伴っていよいよチエに逢いに行く。
死を迎えつつあるチエとジイサン、二人は万感の思いを胸に手を取り合い涙を流す。
そこにひとひらの雪が。
「ハワイでも雪が降るんですよ。でも私が嫁いで雪を見るのは初めて。」
「チエちゃん、故里を思い出すねぇ」
と、二人は最期の会話を交わす。
元々は「八百長」「ハワイ」「雪」という三題噺から創られた作品のようだが、極めて完成度が高い。
喬太郎の代表作の一つでありながらナマで聴くチャンスがなく、この日の高座でようやく実現できた。
「男女の切ないラブストーリー」というのは柳家喬太郎の新作の大きなテーマだが、かつての新作落語には無かったテーマであった。
その点で喬太郎は創作落語の新境地を開いたといえる。
全体のおよそ9割はギャグ満載の滑稽噺でありながら、恩田えりの三味線をバックに最後はまるで歌舞伎の世話物である心中シーンを観ているような心境に陥る。
喬太郎の語り芸の見事さに胸を打たれた一席。
やはりこの人はダダモノじゃない。
喬太郎の1席目「猫久」、こちらも初見。
時折、
「その男というのはお前の朋友か?」
「”ほうゆう”と申しますと、直訳すれば”あなたのため”?」
「それは"for you"じゃ、ワシがいうのは朋友」
てな喬太郎独特のクスグリを挟みながら、全体としては先代・小さんの演出をそのまま踏襲していた。
こういう柳家の御家芸を演じさせても話芸が光る。
さん喬の1席目「寝床」。
こちらはサゲの部分を除けば、桂枝雀の「寝床」をほぼそっくり東京に置き換えて演じていた。いかにもさん喬らしい丁寧な高座だった。
もし枝雀を知らなければ面白い「寝床」だと思っただろうが、やはり本家の方が上だ。
さん喬の2席目は軽く「短命」。
このネタ、かつては艶笑落語としてめったに高座に掛からなかったが、近ごろは頻繁に演じられている。
やはり時代なんだろう。
夜の部では、さん喬と喬太郎の出番がそっくり入れ替わるようだ。
さん喬は夜の部の方で真価を発揮したのだろう。
小んぶ「禁酒番屋」、表情も喋りもやや硬い。
泥酔している筈の番屋の侍が、会話の中で時々「素」になるのは感心しない。
この日は喬太郎が全て。
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