「桂文珍 大東京落語会vol.5」(2012/4/29夜)
4月29日、国立小劇場で行われた”「桂文珍 大東京落語会vol.5」~大好評リクエスト寄席!ネタのオートクチュール~”、昼夜公演の夜の部へ。
タイトルにある通り、文珍が観客からのリクエストに応じてその場でネタを演じるという趣向。その昔、芝居で藤山寛美がよく演っていたが、上方芸人共通のサービス精神だろうか。
近ごろは高座の落語家にネタを注文する人が減ってきた。東京でも同じような試みがあっても良いのだけど(一度、喬太郎がシャレで演るのを見たことがある)。
持ちネタが多く、いつでも臨機応変に対応できる実力がなくては叶わぬことなので、演れる人は限られるだろう。
< 番組 >
林家うさぎ「狸賽」
桂文珍「るるるとららら」
内海英華「女道楽」
桂文珍「帯久」
~仲入り~
桂文珍「粗忽長屋」
うさぎ「狸賽」、開口一番だったがそこそこのキャリアの人のようだ。
これは先代小さん「狸賽」の上方版なのだろうか。賭場での関西弁のヤリトリがしっくり来ない。
例によってリクエストの対象となるネタの全リストが書かれた垂れ幕が下りてくる。それとは別にちょうど大相撲の懸賞旗みたいな大きさの幕を持って弟子の楽珍が現れる。こちらの方は今日のお薦めということで10個位のネタが書かれていて、実際にはこの中から選ぶ仕組みとなっている。
リクエストといっても何でもOKというわけではない。
会場から常連さんと思われる数名の注文があり、番組に書いた3つのネタが選ばれてという仕組みだ。
文珍の1席目「るるるとららら」。
新作ということだが、要はマクラを編集してこさえた作品のようだ。会場は大爆笑。
「ルルルとラララ」とは由紀さおりの歌「夜明けのスキャット」の歌詞のことで、「ルルルとラララ」だから海外に通用してヒットしたという解釈。
いずれ噺家も年を取ってくれば、「ルルルとラララ」だけで落語を演るようになるのではという、お噺。客も高齢化すると、それでも十分受けるから。
話は替わるが、「夜明けのスキャット」のメロディってぇのは、サイモン&ガーファンクルの「サウンドオブサイレンス」のモロパクリじゃないの。初めて聴いたとき直ぐ分ったけど。
アメリカで発売した時に、よく著作権でクレームがつかなかったですね。
内海英華の鮮やかな撥捌きを挟んで、
文珍の2席目「帯久」。
この噺は大きく分けて、前半が和泉屋与兵衛の家が没落して、番頭の武兵衛をたてて店を再興すべく帯久に金を借りに行き、断られて放火するまで。後半は奉行の松平大隅守による名裁きである。
文珍の演出は前半を手際よくスッキリまとめて、後半の裁きに時間を掛けた。
前半に余り時間を費やすと物語の陰惨な印象が強まる傾向があり、この方が分かり易いし後味も良い。
登場人物の演じ分けも良く出来ていて、「帯久」はこの文珍の高座がベスト。
文珍の3席目「粗忽長屋」。
お馴染みの、思い込みの八と自己アイデンティティー喪失の熊に加え、文珍の演出ではもう一人、彼らの行動を支持する自身番の係員を登場させていた。この自身番の男が曲者で、本当に八や熊の言い分に共鳴したのか、それとも死骸を彼らに引き取らせれば役目が終り楽が出来るという計算なのか。そんな想像を巡らさせるような新しい演出だったと思う。
文珍は間の取り方と表情変化の巧みさで惹きつけていた。
4日間興行のこの日が最終日、昼は4本のネタをやったそうなので、一日7本。
手を抜くことなく熱演で、このサービス精神こそが文珍の人気を支えているのだろう。
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