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2012/04/25

立川談志の「寄席論」

4月16日付"NHK NEWSweb"で、観客数の減少に悩む落語芸術協会が3月の理事会で、今年の夏から人気落語家を擁する円楽一門会と落語立川流と組んで興行していく方針を決めたと報じている。
公表したからには既に両派や席亭とは了解済みなのだろう。
では昨年亡くなった立川流家元である談志は寄席についてどのような見解を持っていただろうか。
一つの材料として、「バンブームック『立川談志―3』2011/2/15号」(竹書房)の中での、談志と川戸貞吉との対談がある。
以下、その一部を抜粋する。

インタビュアーが、落語家が寄席の高座に出ることにメリットがあるかどうか訊いたことに対し、二人は次の様に語っている。
談志「ないと思いますね。ただ。毎日しゃべれないよりはしゃべる方がいいから、出ているのがいいだろうとは言えるけど。とは言っても、しょうがないよ。(協会を)出ちゃんだから。向こうは入れないと言ってるんだから。」
川戸「立川流の隆盛を見ていると、寄席が修行の場というのは、芸人をワリ(歩合制の給金)で使う口実なのかなと思いますね。何かというと席亭は、寄席で毎日しゃべっているから上手くなるのでここは修行の場だと。それから先輩から芸談聞いたり、礼儀作法を教わったりと勉強になると。修行の場だから従ってワリでいいんだというのが建前でしょう。だけどワリは安いんだよね。」
談志「安いだろうね。今にしてみればこの俺が十日間、寄席に出られるわけがないじゃないかととも思う。十日出てね、そう、よくて一万円のワリを貰うより、外へ行けば一晩で五十万円だ百万円だってぶったくって来るだろう。今の方がよっぽどいい状況じゃねえかと思うよ。」
川戸「以前は寄席は修行の場で、ここから力のある者が育つと言われていた。だけど現実に、立川流から寄席に出ている落語家より人気者が出てきちゃった。力もあって客を呼ぶ人が。だからそんなこともう言っちゃいられないんだよね、本当は。でもやっぱりあれ、毎日毎日、みんな寄席に出ることを生活のペースにしているというのは惰性なんですかね。あるいは伝統というべきか。」
談志「とにかく面白くも何ともない、だけど、その惰性のところにいるということが自分の生きる証になっているんだ――と色川式大さんがそう言っていましたけどね。
だから何でもいいんだって。毎度。美蝶さんが同じ皿を廻していようが、箱を積んでいようが、可楽が「今戸焼」やっていようが。何でも構わないんだって。その退屈さを味わうのが寄席なんだと。それしか手がないと言っていた。」
(中略)
談志「だから、矛盾しているけど、やっぱり寄席の美学というのは、特に人形町末広に対するとか、神田立花に対する思いはありますね。わざわざ大塚の鈴本の跡地を見に行ってみたり、市川鈴本のことをふっと思い出してみたり。その後、跡地までは行ってはいないけど、そういう了見はありますね。」

この対談の中では、談志が現在の寄席について批判的であることが分かる。
しかし良く見ると、評論家・川戸貞吉の”爽やかな”寄席批判とは異なり、「しょうがないよ。(協会を)出ちゃんだから。向こうは入れないと言ってるんだから。」という発言にあるように、定席に出られないことへの悔しさのようなものを覗かせている。
立川流の中にも引く手数多の人気者もいれば、そうでない噺家も多数いる。寄席という場が無いと自分の芸を観客に披露するチャンスが無くなる、そういう弟子も少なくない。談志の「毎日しゃべれないよりはしゃべる方がいいから、出ているのがいいだろうとは言えるけど。」という発言はその辺りを指しているのだろう。
現に立川流はでは1ヶ月に10日間ほどだが、毎月定期的に日暮里寄席や広小路寄席などの公演を行っている。そうした寄席に一門の中の人気者が出演するのは稀だ。
芸協が企図するような、立川流や圓楽一門と組んで人気回復をという目論見が実現するかどうかは楽観できない。
寄席は何といってもアンサンブルの世界だから。

さて、談志亡き後の一門について家元はどう考えていたのかだが、この対談の中では次のように述べている。

川戸「このあと、誰か弟子に立川流を続けてもらいたいという気持ちは?」
談志「ない。」
川戸「好きにしろと。」
談志「そう。勝手にすりゃあいい。名前だっておれが死んだあとは好きにすりゃあいいしね。おれの次に談志を名乗るってのは大変だろうけどね。(後略)」

今後の立川流の舵取りや、いかに。

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コメント

談志の発言には、「出たくても、出してくれねぇんじゃ、しょうがない!」という本音が見えますね。
川戸さんも、かつての昭和の名人達の時代ではなくなったことと、談志を目の前にしては寄席肯定論をぶてないでしょう。
立川流は、家元で何とかもっていた絆が消えた今、弟子を含むそれぞれ個人営業落語家のゆるやかな友好団体、ということになりそうな気がします。
よって、芸術協会は、立川流という団体への交渉ではなく、個々の噺家への出演交渉をするしかないのじゃないかな。そんな気がします。

投稿: 小言幸兵衛 | 2012/04/25 17:58

落語研究会で志の輔を聴きました。
先日は談春、どちらも私には「もう聞かなくていい」という感じでした。
大ホールで一回何十万もぶったくる芸になれてしまうととにかく笑いが続かないと心細いのでしょうか、落語とは別物のお笑い、またはお話でした。

投稿: 佐平次 | 2012/04/25 18:23

小言幸兵衛様
談志はともかく、川戸貞吉という人の暢気な寄席批判は、永年落語評論を生業として来た人としてどうなんでしょうか。本人としては談志のタイコモチ宜しくヨイショしたつもりでしょうが、実際には談志の真意から外れた発言になっています。
いずれにしろ芸協は自身の自助努力抜きには人気回復は出来ないと思います。

投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2012/04/25 22:00

佐平次様
以前ある噺家が小朝のギャラが100万円だと言ってました。
先日志らくが談春と二人会をしようと持ちかけたら、100万円要ると言われて断念したと語っていました。
どうやらトップクラスの人気落語家のギャラは今や100万円の声が掛かっているようです。
落語界だけはバブル経済に見舞われています。

投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2012/04/25 22:15

今回の芸協の決定ですが、談志と先代円楽が存命のうちにこの決定がなされていたら、寄席でまた両者を見ることができたかもしれませんね。

いや、両者存命のうちはこの決定には至らないか。
たとえ決定しても、両者には意地があるから断ってしまうか。
いろんなことを考えました。

投稿: 福 | 2012/04/26 07:51

福様
芸協の思惑としては合同でやれば志の輔や談春、好楽といった人気者が出演してくれて、客の入りが増えると見込んでいるでしょうけど。
しかし特別公演を除けば、10日間拘束される寄席に彼らが出るとは考えにくいと思います。
寄席で談志と先代圓楽が顔合わせというのは、仮に存命中であっても無理だったでしょう。

投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2012/04/26 08:36

この記事もリンクさせていただきました、あしからず。

投稿: 佐平次 | 2012/04/26 14:34

佐平次様
「悪しからず」どころか大歓迎です。

投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2012/04/26 18:13

録音や映像だけですが談志さんの噺は途中で不愉快になり、一度も通しで聞けたことがありません。一部での評価は高いようですが本当に上手い(?)噺家さんだったのでしょうか?志の輔さんも一回ライブで聞きましたが、私には落語に聞こえませんでした。談春さんや志らくさんも同じ。ま、好き嫌いの問題なんでしょうね。

投稿: YOO | 2012/04/27 23:35

YOO様
談志ぐらい評価の分かれる噺家はないでしょう。一方にファンというより信者という方が近い人もいれば、生理的に受け付けないという人まで。
私の場合はその中間といった処でしょうか。
立川流の中でも協会脱退以後に入門した落語家全般に言えることですが、一部の熱狂的ファンに支えられていることから、どうしても独善的に陥り易いように思えます。

投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2012/04/28 09:49

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» 立川流は寄席でやれるか [梟通信~ホンの戯言]
ほめ・くさんが『立川談志の「寄席論」』という記事を書いていらっしゃる。 生前の談志と川戸貞吉の対談で、どちらかというと川戸が積極的に寄席不要論をぶつのに対して、ややしぶしぶとという感もある談志の不要論が紹介されている。 昨夜、昭和42年4月1日、紀伊国屋ホールでの談志「第17回ひとり会」の「長屋の花見」CDを聴いていたらマクラでながらく寄席に出なかったらどうも調子が出ません。いけませんね。寄席ってやつは毎日でてなきゃペースがつかめません。そういうことがよくわかった。 これからほかのことはやめて... [続きを読む]

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2012年4月26日に放送されたTBSラジオ「たまむすび」で毒蝮三太夫さんが2011年11月21日に満75歳で亡くなられた落語家の立川談志さんの最期について語っていた。 ■会話をしている人 毒蝮三太夫(タレント、ラジオパーソナリティ) 赤江珠緒(フリーアナウンサー) ピエール瀧(ミュージシャン) ... [続きを読む]

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