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2012/05/17

「負傷者16人」(2012/5/16)

5月16日、新国立劇場小ホールでの「負傷者16人-SIXTEEN WOUNDED-」を観劇。
以前イスラエルに観光で訪れ、短時間ではあったがパレスチナ自治区にも入ったことが契機になり、中東問題には特に関心がある。
ユダヤ人対パレスチナ人というこの芝居のテーマに惹かれた。
2004年に米国ブロードウェイで初演された作品の本邦初演である。

作:エリアム・クライエム
翻訳:常田景子
演出:宮田慶子
<  キャスト  >
井上芳雄:マフムード(パレスチナ人青年)  
東風万智子:ノラ(その恋人、ダンサー)
益岡徹 :ハンス(ユダヤ人、パン屋)
あめくみちこ:ソーニャ(娼婦)  
粟野史浩:アシュラフ(マフムードの兄)

ストーリーは。
舞台はオランダ・アムステルダム、時代は1993年の「オスロ合意」がなされた頃。小さなパン屋を営む老人ハンスはフーリガンに暴行を受け瀕死の重傷を負っている青年マフムードを助け、病院で治療を受けさせる。
それが縁でマフムードはハンスのパン屋に見習いとして働くことになるが、老人がユダヤ人で青年はパレスチナ出身のムスリムであることが判り、双方ともにわだかまりを抱える。加えてハンスは誰かに追われている様子でもある。
やがてマフムードは店に出入りするノラと親しくなり同棲を始める。
しかし幸せに満ちていると思われたマフムードには他人には言えない秘密があり、一方のハンスにも消すことのできない過去があった。
ノラの妊娠をきっかけに二人の関係は大きく動き出し・・・。

結論からいうと、意欲作ではあるが作品としてあまり成功したとは言えないと思う。
その最大の原因は、マフムードのユダヤ人に対する異常とも思える憎しみの深さだ。
確かにガザ地区を中心に、イスラエル軍によるパレスチナ住民に対する殺戮が日々行われ、彼らのイスラエルとそれを後押ししている米国に対しては強い怒りを持っている。しかし、彼らの怒りの矛先が全てのユダヤ人に対して向けられているとは思われない。
特にナチスのホロコーストを逃れてオランダに住むユダヤ人にまで憎悪の感情をむき出しにし、攻撃の対象にしようとするという設定は不自然だし、説得力に欠けよう。
終幕の衝撃的な結末に今ひとつ納得がいかなかったのはその為だ。
これは作者が、イスラエルとパレスチナとの対立を、ユダヤ教徒とイスラム教徒との宗教戦争として捉えているからではなかろうか。
あの対立は宗教が原因ではなく、あくまで政治的な背景に因るものだ。各国の思惑を隠ぺいさせるために、あたかも宗教対立が原因であるように見せかけているに過ぎない。
作品の主人公である青年がその事に思いを至らぬとしたら、稚拙であるとしか言い様がない。

作品の瑕疵にもかかわらず、出演者は揃って好演だ。
特にハンス役の益岡徹は二重三重の苦悩を背負い、時に人間としての弱さをみせながら、二人の若者を大きく包み込むという難役を見事に演じ切った。
美術(土岐研一)、音響(高橋巌)、照明(中川隆一)も良く工夫されていて、舞台を盛り立てていた。

公演は5月20日まで。

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