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« 民主党の崩壊 | トップページ | 花形演芸会スペシャル~受賞者の会~(2012/6/24) »

2012/06/24

#20三田落語会「鯉昇・一之輔」(2012/6/23昼)

6月23日、仏教伝道センターで行われた第20回三田落語会昼席は「鯉昇・一之輔 二人会」。
かたや芸協のベテラン、こなた落協の若手、いずれも人気度ではトップクラスの二人の会とあってもちろん前売完売。
地域寄席ながら毎回人気も実力も備えた古典落語家が2席ずつ、計4席を3時間かけて演じるというこの会。
よほど主催者(仏教伝道協会、三田落語会運営実行委員会)がしっかりしているのだろう。
次回チケットの予約を求める列も、開場40分前既に60人以上並んでいた。

<  番組  >
前座・春風亭一力「たらちね」
春風亭一之輔「麻のれん」
瀧川鯉昇「佃祭」
~仲入り~
瀧川鯉昇「持参金」
春風亭一之輔「らくだ」

普通は真打昇進披露公演が終わると一息いれてから定席に出るのだが、一之輔の場合はほとんど切れ間なく寄席に出続けている。しかもいきなり仲トリでというケースも。
これをみてもいかにこの人が逸材であるかが分かる。それも数年に一人という逸材だ。
一之輔の最大の魅力は小三冶も指摘のとおり、「客を呑んでかかる」ことだろう。客に自分の芸を観て貰おうという言うような態度は一切みせない。言わずとも聴いてくれることが判っているからだ。かと言って自信満々という風でもない。
サラリーマン世界でも、新入社員なのに上司や先輩に物おじしない人間というのがいる。相手が社長でも堂々としていて決して卑屈な態度を見せない。こういう人物は一部の例外を除いてはたいがい大物である。そういう雰囲気を一之輔は持っている。
この日の二人会でも、ベテランの鯉昇をさしおいてトリを取った。チラシには鯉昇の配慮に一之輔が恐縮していると書かれていたが、「このあと仕事があるんで早く帰りたかったようですよ」なんてぇことを平気で語るのだ。
夜席はさん喬と志ん輔だが、「一緒でなくて良かったです」とも。
こういう所がファンには堪らないだろうし、一部からは反発もあるだろう。
そうした点をひっくるめた魅力が一之輔にはある。

一之輔の1席目「麻のれん」。
マクラで披露口上の時の大変さも。犬の「お座り」みたいな姿勢を最長で20分も保つのはやはり辛いらしい。腕が「もう10人一緒でもいいよ」と言っていたとか。
披露公演で50日間トリを続けたとか、この間の観客動員数はおそらく記録的だろう。
扇橋一門のお家芸ともいうべきネタだがあまり余計なクスグリを入れず、按摩が枝豆を肴に冷えた直しを頂く場面は涼感たっぷりと。
盲人の悲しさで麻のれんと蚊帳の区別がつかなかったのを笑いにするというネタだが、そこには按摩に対する演者の温かい眼がある。
枝豆の食い方は扇橋には遠く及ばなかったけど。

一之輔の2席目「らくだ」。
1時間近い熱演だったし面白かったが評価の分かれる演出だ。
オリジナルの「らくだ」はかつてどこの長屋にも一人位はいた乱暴者という設定で嫌われ者ではあったが、同じ社会の最下層に生きる屑屋にとってはどこかシンパシーを感じる部分もあるのだ。虐げられた身のうえ同士の。
だから兄貴分に脅され嫌々ながらラクダの葬礼を手伝うのだが、底流には個人を弔う気持ちがあった。
屑屋が呑むにつけ酔うにつけ心情を吐露する山場でも、その両方の気持ちを兄貴分にぶつけることでこの「らくだ」という噺の深みが出る。
そこに一片の同情心があるからこそ、ラクダの遺体の火葬を手伝おうとするのだ。
これに対して一之輔の演出では、ラクダは徹頭徹尾悪人だ。乱暴者というよりは犯罪者である。被害者は警察に届けて捕まえて貰えば良かったと思えるほどだ。
ラクダが死んだときいて全ての住民が歓喜し、ただ一人月番の隣人だけが「死んでしまえば仏」と口にするのみ。
屑屋が酔って怒りを爆発させる場面でも、その矛先は専らラクダに向けられる。口に含んだ酒をラクダの遺体に向けて吹きかける程の憎しみを示す。そこには一片の同情も共感も無い。
であるなら屑屋はなぜラクダの遺体を担いで火葬場まで運んだのだろうか。もう兄貴分からは脅されていないし、むしろ立場が逆転しているのだ。そこまでする義理は無いはずだ。
酔った勢いで?
聴いていてここが納得できなかった。
全体としては良く練られているし客席も沸いていたが、「らくだ」のモチーフともいうべき個所が改変されている点には大きな疑問を感じる。
私はこの「らくだ」は評価しない。

まだまだ一之輔は開発途上であり、これからも試行錯誤は続くのだろうから長い目で見て行きたい。

鯉昇の1席目「佃祭」、これも季節に相応しい。
マクラで「あと半年で還暦をむかえる」というと、客席からエーっという反応。「古希じゃないの?」って。この人意外と若いのだ。貧乏は偽り、実は金持ちだ。脱力系にみえるが熱演タイプ。
時間の関係からか、山場である「悔み」の場面が端折られていたが、それでも十分楽しめたのはやはり芸の力。

鯉昇の2席目「持参金」。
軽くといいながら20分近い高座。
数ある落語のネタの中でも、借金のために醜い身重の女を嫁に貰うというストーリーは珍しい。そのせいかこの噺を嫌う人もいるようだが、私は好きだ。
いくら酔っていたとはいえ番頭が深い仲になったのには、この女はきっと心が優しかったからだろう。おでこの下の黒い横線はノーグッドだけど。
嫁に貰った男に幸あれ!

前座・一力「たらちね」、喋りがしっかりしていて良い。
二つ目が近いだろう。

今回も充実の高座が続いた。

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コメント

一之輔も『らくだ』だったんですね。
この日の競演(?)は、当り前でしょうが、権太楼の勝ちだったようです。
三田のチケットも取りにくくなりましたね。同じ日に大手町と三田があるのは知っていて、チケット獲得の確率も含め大手町を選んでいました。
鯉昇と一之輔は、私は行きませんが新宿でもありますね。主催者の考える組合せが似ているのが、なぜか可笑しいです。

小言幸兵衛様
今まで行ったことのある地域寄席の中でも、この三田落語会が最も充実していると思います。ここは外さぬようにしています。
大手町も行きたかったんですが残念でした。

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