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« シャボン玉ホリデーの時代 | トップページ | #397 花形演芸会(2012/6/30) »

2012/06/29

井上ひさし生誕77「藪原検校」(2012/6/27)

6月27日、世田谷パブリックシアターで行われた、”井上ひさし生誕77 フェスティバル2012 第四弾「藪原検校(やぶはらけんぎょう)」”を観劇。
かつて三軒茶屋に行くには玉電でゴトゴト時間がかかったのだが、今は東急で2駅アッという間。劇場まで連絡通路でつながっている。

[作]井上ひさし
[演出]栗山民也
[音楽]井上滋
<  キャスト  >
野村萬斎:杉の市後ノ二代目藪原検校
秋山菜津子:お市・他
浅野和之:語り手役の盲太夫
小日向文世:魚屋七兵衛(杉の市の父)/塙保己市/首切役人・他
熊谷真実:七兵衛の女房お志保(杉の市の母)・他
山内圭哉:熊の市/兇状持ちの倉吉・他
たかお鷹:琴の市/初代藪原検校・他
大鷹明良:結解(けっけ)/松平定信・他
津田真澄:強請(ゆす)られる寡婦・他
山﨑薫:同上娘・他
千葉伸彦:(ギター奏者)

この芝居を理解するために盲人の組織である「当道座」について説明が必要のようだ。芝居や落語などの古典芸能の理解にも通じるので公演プログラムを参考に少し紹介する。
古代から一般に身体障碍者に対しては激しい差別があり、とりわけ盲人となると生きていくことさえ困難だった。
彼らは按摩、鍼灸などの技術や琵琶、三味線、筝、音曲などの芸能を身につけることにより生活の糧を得るしかなかった。
そうした盲人たちの自治組織が「当道座」であり、江戸時代には幕府公認の団体となり、寺社奉行の管轄下におかれる。
「当道座」は下から座頭、勾当、別当、検校の4官位に分かれ、さらのその中が73刻(きざみ)に細分化されたヒエラルキーの形態をとっていた。
世襲制度はなく、才能さえあれば蓄えた財力で昇進がかなうという、封建的身分制度とは異なったものであった。最下位から最上位の総検校にのぼるまでには719両もの費用が必要だったとされる。
当然、上の官位になるほど恩恵が受けられるので、盲人たちは差別と貧困から抜けるために昇進を願ったのである。
盲人の職業として高利貸しが公認されていて、その利子は年利で6割から10割という超高金利だった。そのため検校の中には数万両という貸し付けを行っていた者まで出現する。
つまり差別されながら保護も受けるという立場だったわけだ。
その結果、遊女を身請けするような検校も現れ、社会問題化していく。
1787年、松平定信が老中に就任すると引き締め政策が強化され、塙保己一らを中心に「当道座」の改革が行われる。
なお江戸、大阪、京都の都市部の盲人のほとんどが「当道座」に組織されていたが地方では少なく、生活はより切迫したものだったようだ。
明治4年には制度が廃止となっている。

あらすじだが、芝居の性質上、差別用語がふんだんに出てくるのでご容赦のほど。
主人公の杉の市は東北地方の魚売り夫婦の家に生まれる。しかし父親が按摩を殺して金を奪いそれを出産費用にしたためか親の因果が子に報い、生まれついての盲。
近くの座頭・琴の市の弟子にされるが生まれついての悪。金を盗み、師匠の女房とも情を通じるが、その地方の検校に因縁をつけられ有り金を奪われてしまう。
師匠夫婦をも殺して逐電した杉の市は、検校になるためには金が要ると、盗み、脅し、殺人、悪の限りを尽くす。
「おれはもっともっとやりてえことがあるんだ。この世の中を登れるところまで登ってみてえのさ。…盲がどこまで勝ち進めるか、賭けてみるんだ。悪いがおめえが邪魔なんだよっ!」
やがて江戸に出て初代藪原検校に弟子入りするが、ヤクザに頼んで師匠を殺し財産を奪い、遂に二代目藪原検校の地位を手に入れる。この犯行が明るみになっても幕府は処罰をしない。
しかし松平定信が老中に就き、綱紀粛正の一環として「当道座」の改革に着手する。先ず最初に何をなすべきかを人望の高い検校の塙保己一に問うと、それは藪原検校を公開の場で斬首することだと答える。

この芝居の主人公は己の欲望のためには平気で残虐非道な行いをするという、井上ひさしの脚本には珍しい人物だ。
ただそれが一種の爽快にさえ感じられるのは、作者の人間賛歌という目線、そして表現力だろう。
藪原検校に対比して塙保己一を登場させるが、いうなればこの二人は人間の裏表の関係。
そして最終シーンで大仰な処刑場面を見せることにより、悪行の結末を示しているのだ。
後味の悪さが残らないのはそのせいだろう。
ただ井上作品全体の中では、ワタシ的には中の下といった処か。

主役の野村萬斎、そこまで演るかという弾けぶり。濡れ場、猥褻なポーズやセリフの連続、恫喝、暴力、殺人の演技を諧謔の衣に包んで演じたところが、さすが狂言師という他はない。五木ひろしや森進一の物真似にまで挑戦して、ことによると萬斎ファンのイメージを狂わせたかも知れないほどのサービス精神。
セリフの力強さ、動きの美しさはやはり本業の芸の賜物。
秋山菜津子は女の愛欲や情念を見事に演じていた。体当たりの演技という表現がピッタリだ。
小日向文世の塙保己市ははまり役。この人はナチスのゲッペルスを演じてもピッタリだったし不思議な役者だ。
井上作品の出演者はいつも大変だ。主人公を除けば一人で何役も、時には8役をもこなさねばならない。
従って全員が芸達者揃い。
浅野和之の語りと千葉伸彦ギター演奏が芝居を盛り上げていた。

公演は7月1日まで。

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