鈴本演芸場7月下席(昼)楽日(2012/7/30)
7月30日、鈴本演芸場7月下席昼の部・楽日へ。
昨年度の文化庁芸術祭大衆芸能部門・優秀賞を受賞した古今亭菊丸がトリの芝居、最終日にようやく間に合った。
ついでに9月21日からスタートする「朝太(志ん陽)・菊六(文菊)真打披露興行」の2日目の前売り券をゲットした。一之輔の時は前売り完売も相次いだようだが、こちらの売れ行きはどうだろうか。
猛暑の月曜の昼にもかかわらず顔づけが良いせいか一杯の入り。夏の寄席らしい浴衣姿の女性客もいて(浴衣割引あり)場内も華やいだ気分。
前座・柳家フラワー「元犬」
< 番組 >
桂三木男「祇園会」
鏡味仙三郎社中「太神楽曲芸」
古今亭菊生「新寿限無」
柳家さん喬「そば清」
ぺぺ桜井「ギター漫談」
柳家喬太郎「道灌」
柳家三三「悋気の独楽」
伊藤夢葉「奇術」
桂南喬「粗忽長屋」
-仲入り-
すず風にゃん子・金魚「漫才」
桂藤兵衛「おつとめ(尼寺の怪)」
春風亭一之輔「夏泥(置き泥)」
林家正楽「紙切り」
古今亭菊丸「浜野矩随」
出演者の中で気が付いた人を採りあげてみたい。
三木男「祇園会」、聴かせどころの祭囃子は未だ未だだが、こうした季節感のあるネタをかける意欲は買う。東男と京男の対比はよく出来ていた。
ただ相変わらず「噛む」クセが出て、リズムを悪くしている。稽古不足なのか発声法の問題なのか分からないが、この克服が急務だろう。
菊生「新寿限無」。
落語協会のHPを見ると芸歴欄に”『落語界の帝王』と呼ばれる為、躍進中! 名前の由来:読んで字のごとく「圓菊」の菊と「志ん生」の生で『菊生』ガンバります。”とあるが、今のところはその片鱗もうかがえない。
名前負けせぬよう頑張ってもらいたい。
円丈作の「寿限無」のパロディで、バイオテクノロジーの大学教授が付けてくれた名前は次の通り。
「酸素、酸素、クローンの擦り切れ、細胞壁原形質膜細胞分裂減数分裂、喰う寝るところは2DK、窒素リン酸カリ肥料、人間アセとアルデヒド、アミノ酸リボ核酸龍角散、DNAのRNAのヌクレオチドのヘモグロビンのヘモスケ」。
仙三郎社中の太神楽、ぺぺ桜井のギター漫談、夢葉の奇術、正楽の紙切り、いずれも寄席の色物芸人の手本だといえる。自己の芸を披露しながら全体の流れを壊さない、これだ。
そこいくと漫才の「にゃん・金」はダメだねぇ。
喬太郎「道灌」、独自のギャグも入れずこの人らしからぬ高座だが、以前に本人が語っていたようにこのネタには拘りがあるようだ。大師匠の先代小さんの演出そのままで演じていきたいらしい。このネタでトリを取るのが夢だとも。
普段の喬太郎を期待してきた人は少しガッカリかも。
三三「悋気の独楽」、得意ネタとはいえやはり上手い。眼を一点に見据えながら首を左右に振ることにより女性の嫉妬を表現していた。
この噺の後日談が「悋気の火の玉」かしらん。
南喬「粗忽長屋」、通常と異なりこの人の場合は、行き倒れした方が八、それを知らせる方が熊と名前が入れ替わっている。
熊も八も特に個性があるわけじゃないから入れ替えは可能だが、なんとなく座りが悪い気がした。
相変わらず大らかな高座。
藤兵衛「おつとめ(尼寺の怪)」は初見、それもその筈で普段はあまり高座にかけていないネタのようだ。
ストーリーは。
町内の若い衆が寄り集まって今晩「百物語」をやろうじゃないかと提案する。車座になり一人一人が怖い噺を披露しようじゃないかというわけ。出来の良い噺をした人には酒をご馳走するということになったが、熊だけは怖い噺の持ちネタがなく頭を抱える。
思案の末、知り合いの和尚さんに「何か怪談はありませんか」と所望する。和尚はしばしの思案のうち、修行として托鉢の旅をしていた若き日の話しをはじめる。
山道に迷って一軒の尼寺の本堂に泊めて貰ったのだが、深夜に木魚を叩きながらお勤めする音が聞こえる。それの正体が幽霊だったらしい。
早速熊は寄合に戻り、その怖い話を聴かせるのだが・・・。
季節に合った珍しいネタ、こういうのが聴けるのが寄席の楽しみだ。
一之輔を見ていてふと思ったが、先輩落語家たちは彼をどう見ているんだろうか。
古典を演じながらも全く新しいタイプだし、とにかくお客に良く受ける。今まで何十年も芸を磨いてきた俺たちは一体なんだったんだろうと、そう思ってはいないだろうかと。
何とも始末に悪い若手が現れてしまったと。
この「夏泥(置き泥)」の長屋の男は、泥棒の有り金を残らず巻き上げてしまう。普通は必要な金額だけ強請るのに、酷い男だ。
もしかして一之輔本人?
菊丸「浜野矩随」、良かった。
矩随、その母、そして若狭屋新兵衛の人物像がそれぞれ鮮やかに描かれていた。
語りの緩急、強弱,高低が細かに行き届き、緊張感に溢れながら決してお涙頂戴に流されることなく演じ切る。
矩随が彫った観音像を持参してからの、矩随と新兵衛とのヤリトリが胸を打つ。
志ん生や圓楽と異なり結末をハッピーエンドにしているが、落語としてはこちらの方が好ましい。
先代圓楽の死後では、ベストの高座だった。
古今亭菊丸、世評も人気ももう少し高くても良いと思うのだが。
中入り後の3席がいずれも聴き応えがあり、暑い中を出掛けた甲斐があった。
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