#14大手町落語会「真夏の夜噺」(2012/8/10)
8月10日日経ホールで行われた「第14回大手町落語会」、通常は土曜日の昼過ぎに開催されるこの会だが、年に一度の夜開催。
サブタイトルが「真夏の夜噺」とされていて、出演者は二ツ目を除けばさん喬一門+扇辰という顔ぶれ。
< 番組 >
三遊亭天どん「タラチネ」
柳亭左龍「壷算」
柳家喬太郎「ほんとのこというと」
~仲入り~
入船亭扇辰「麻のれん」
柳家さん喬「雪の瀬川(下)」
先ずラインナップを見てお判りのようにタイトルの「真夏の夜噺」に相応しいのは扇辰「麻のれん」だけ。さん喬なぞは真冬の噺だ。別にこれが悪いというわけじゃないが、タイトルを付けた以上は季節感のあるネタを並べて欲しかった。
天どん「タラチネ」。
近くのご婦人二人連れが、入り口で配られた他の公演のチラシをみながら、「桃太郎が出てる、嫌ねえ、こういうのが好きな人がいるのかしら。」と喋っていた。どうやら桃太郎が嫌いらしい。そのご婦人らが天どんを聴いて受ける受ける。
反対側にいたご婦人は拍手しながら爆笑していた。そのくせ左龍の高座は熟睡。
分からんもんですねぇ。
人生イロイロ、落語の楽しみ方もイロイロ。
さて「タラチネ」だがオリジナルの「垂乳根」の嫁さんが外国人という設定で、言い立ての中に英語が混ざるという改作。
「今朝は怒風激しゅうして小砂眼入す」は「this Morning 怒風激しゅうして小砂 in my eyes」となるわけだが、なんか時代錯誤。
改作にしても、もうちょっと工夫しないと。
まあ、来年落語協会が年功序列の真昇進を復活してくれれば目出度く真打は間違いなしだが。
左龍「壷算」、師匠の芸風を継げるのはこの人かなという感じがしてる。少なくとも喬太郎じゃないのか確か。
「私の所はユックリとお休みになってください」と控えめな挨拶から始まり、淡々とネタに入ってゆく。
芸風は地味だがネタの当り外れがない。何を演っても水準を行く。着実に力も付けている。
反面、極め付けがない、「左龍の〇〇」というのが未だ見当たらない。そこら辺りがこの人の課題だと思う。
このネタの兄イは買い物上手ではない。3円出して定価7円の壷を手に入れるのだからこれは詐欺なのだ。
どこか変だと思いながらも相手の口車に乗せられてしまう番頭、典型的な詐欺の被害者タイプ。
「お客さんの後ろ姿を見ても、ああ良い商いをしたなという充実感が湧かないんです」、左龍のトレードマークともいうべき大きな目を剥いて番頭の困惑ぶりを表現していた。
好演。
喬太郎「ほんとのこというと」。
マクラでオリムピック一色の世相を採りあげ、消費税も「今なら気が付かないから上げちゃいましょう」「そうしましょう」って決めたじゃないかと言っていたが、当らずとも遠からずかも。
オリムピックは確かに一大イベントには違いないが、あくまでスポーツの一行事に過ぎない。日頃からスポーツ好きだったり造詣が深い人が関心を持つのは分かるが、そうじゃない人を含めて朝から晩までオリムピック一色ってぇのはいかがなもんだろうか。それも話題はメダルメダルだけ。
今日も男子サッカーが3決に敗れてメダルが取れなかったことに対して落胆の声を伝えているが、男子サッカーが世界のBEST4に入ったってスゴイことじゃないのか。そこを先ず称えようよ。
花火での若い男女のことをマクラにしたので「たがや」になるのかと思ったら、この新作ネタだった。
時節柄、屋形船を舞台にした「一日署長」辺りを聴きたかったが。
扇辰「麻のれん」。
前の高座で喬太郎が、扇辰がサッカーをしていたと紹介していたが、幕が開くといきなり扇辰がサッカーボールを蹴る真似をしながら登場。ほう、こんなこともするんだ。
一度引っ込んでから再度登場、「仲入り前は遊びで、これからが本番」とネタに入る。
扇辰は既に師匠を超えている。そして左甚五郎ものに関しては、大師匠・三木助に近づきつつあるような印象さえ受ける。
この日の高座も文句なし。
柳家さん喬「雪の瀬川(下)」。
ストーリーは。
本ばかり読んでいるので社会勉強にと江戸に出された若旦那の下総屋鶴次郎。幇間が若旦那を吉原に連れてゆく。若旦那はそこで会った花魁の瀬川に一目ぼれして通い詰め、800両という店の金を使い込みやがて勘当される。
若旦那が川へ飛び込もうかと思案していると、橋の上で昔の店にいて駆け落ちして出て行った奉公人と出会い、奉公人の家に一緒に居候することになる。
若旦那は瀬川に金を用立てて貰おうと手紙を書き奉公人に届けて貰うよう頼む。
瀬川は行方知れずになった若旦那の身を案じ病に伏せっていたが、その手紙に驚き、雨の日に会いに行くと返事を書く。
正月も明けたある日、雪が降りはじめ夜になると江戸は真っ白。若旦那も待ちくたびれてウトウトっとした頃、侍の格好に変装した瀬川が本当に訪ねてくる。
二人はただただ手を取り合って感動する。
そして雪はしんしんと降り積もる。
前篇は以前い聴いたことがあり(この時はあまり良い出来ではなかった)、今回はその後編を聴くことができた。
6代目圓生以後、演じ手がなかった噺をさん喬が掘り起こしたものだそうだが、あまりドラマチックな筋の運びもなく、演じ手の力量だけで聴かせるネタだ。
さん喬の高座は緊張感の中に誌的な情景を浮かび上がらせ、トリに相応しい名演だったと思う。
【追記】
いくつか誤植があったようで、お恥ずかしい次第です。
原稿を見直さないという悪いクセのせいですね。
« 内閣不信任案の可決に期待しよう | トップページ | まるで「落語協会まつり」(2012/8/12) »
「寄席・落語」カテゴリの記事
- 「落語みすゞ亭」の開催(2024.08.23)
- 柳亭こみち「女性落語家増加作戦」(2024.08.18)
- 『百年目』の補足、番頭の金遣いについて(2024.08.05)
- 落語『百年目』、残された疑問(2024.08.04)
- 柳家さん喬が落語協会会長に(2024.08.02)
終わってみればそこそこに満足できた落語会でした。
昨日のお客様たちには天どんもまたいいのではないでしょうか。浅草の名物、しつこい天どんじゃなくてあのくらいに軽く揚げた天どん、楽しかったです。
投稿: 佐平次 | 2012/08/11 09:45
佐平次様
見えていたんですね。
天どん、確かに受けてましたね。
私は「きつつき」の面白さは分かるんですが「天どん」は分かりません。
相性ですかね。
投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2012/08/11 11:00
ほめ・くさんでも、「こういうこともあるのか!?」と若輩者はうれしいばかり^^
天どんよりは、きつつき、分かります。
落語を知らない人には、「何のこっちゃ!?」でしょうけど。
扇辰の『麻のれん』は、ちょっとした作品ですよね。
さん喬、なかなかのネタ選びに感心!
投稿: 小言幸兵衛 | 2012/08/11 22:01
小言幸兵衛様
あまりに大きな間違いというのは却って気付かぬものですねぇ。年かな。
好き嫌いは別にして、この会の主旨からすればミスキャストだと思いますが。
扇辰、さん喬は十八番で勝負してきました。
投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2012/08/12 07:32