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« #14大手町落語会「真夏の夜噺」(2012/8/10) | トップページ | 落語協会の真打昇進制度について »

2012/08/13

まるで「落語協会まつり」(2012/8/12)

8月12日、前進座劇場で行われた「納涼まつり前進座にわか演芸場」。前進座劇場が来年1月に閉館するにあたり特別企画として行われたものだが、顔ぶれといい規模といい、まるで「落語協会まつり」というべき内容だった。
現在、鈴本演芸場は8月中席として特別興行を打っているが、この日の出演者13名(前座を除く)中9名が鈴本と掛け持ちだ。真打に限れば8人中7人。
正午開演というのも鈴本の出番との関係があったからだろう。
ざっと見ても協会の看板のうち、3分の2がこの会に結集したような印象だ。
入場料は高目だが、お客にとっては「お得感」があったと思われる。
通路やロビーでは浴衣姿の劇団関係者が屋台をならべて飲み物やおつまみを販売していて、祭り気分を盛り上げていた。

<  番組  >
前座・柳亭市也「手紙無筆」 
春風亭朝也「新聞記事」 
古今亭朝太「壺算」 
*古今亭菊之丞「幇間腹」 
柳家はん治「鯛」
~仲入り~
*ロケット団「漫才」 
*柳亭市馬「七段目」 
*柳家喬太郎「孫、帰る」 
*林家正楽「紙切り」 
*柳家権太楼「青菜」 
~仲入~
*入船亭扇遊「不動坊」 
*柳家さん喬「天狗裁き」 
柳家小菊「粋曲」
*古今亭志ん輔「唐茄子屋政談」 
(*印は鈴本演芸場と掛け持ち)

当初は土曜の昼下がりのことだし、要は顔見世ていどだろうとタカをくくっていたが、どうしてどうして熱演揃いで充実した高座が続いた。

朝也「新聞記事」、遅れてきた人が多く客席がざわつく中で落ち着いた高座。
こういう軽い噺を軽く演るのも芸のうち。
抜擢人事のお蔭で現在二ツ目には沢山の真打候補がいるが、その一人といえる。 

朝太「壺算」、冒頭に9月21日より50日間真打披露興行をやりますのでと挨拶していた。一之輔のときは本人が出る落語会の会場で自ら前売り券を販売していたが、今回の二人についてはそういう姿にお目にかかっていない。協会の方針なのか本人たちの意志なのか。
ネタは可もなく不可もなくといった所で、何かが足りない。
もちろん新真打としてはこれで十分かもしれないが、抜擢人事となると世間の目は厳しい。しかも何かというと一之輔と比較される、これも辛い。
あと1ヶ月あまり、更に芸を磨いてきて欲しい。

菊之丞「幇間腹」、お手のものの十八番。
この人の演じるタイコモチにはリアリティ(らしさ)があり、お茶屋の女将の造形と共にこのネタを自家薬篭中のものとしている。

柳家はん治「鯛」、この作品もそうだが、桂三枝(文枝だっけ)の新作が掛かることが多いようだが、独特の節回しにせいか同色なのだ。
生簀の鯛から人間たちを見ればというテーマで、かつて芸術祭新人賞を取ったそうだが、私はあまり面白いとは思えなかった。

市馬「七段目」、前進座劇場での公演ということで芝居噺をかけたのはグッド・チョイス。しかもこの若旦那、全編これ芝居の振りなのだ。
市馬の美声がよく生かされていて所作も丁寧、定吉の女形ぶりも堂に入っていた。
若旦那が階段を上がる時、八百屋お七の人形振りで登るが、これも劇場所在地の吉祥寺を踏まえたものだろう。
市馬の実力を存分に示した一席、結構でした。

喬太郎「孫、帰る」、マクラでいつものようにウルトラマン45周年を話題にして、ウルトラマンをテーマにした新作でとストーリーを演るのだが、これが「七段目」のパロディなのだ。こういう遊び心もライブの楽しみに一つ。
ネタに入って、お盆に祖父の家に帰ってきた孫のタケシ、二人は涼を求めて自宅の屋根にのぼる。祖父の問いに答えてタケシは母親のことや「新しい生活」のことを話す。聴き入る祖父。微笑ましい光景がタケシのひとことで一変する。
「あのね、ぼくね、やっぱりね・・、まだ、死にたくなかったなぁ・・、もっと生きていたかったよ」
会場の空気が一気に凍りつく。
「そうだなぁ・・」と祖父。
場内は静まり返る。
そしてタケシが帰ってしまった後の、祖父のこみ上げてくる悔しさと怒りを交えた動作が胸を打つ。
短いながら、喬太郎の新作のなかでも屈指の作品といえる。

正楽が「前進座劇場」というリクエストで「三人吉三」を切ったのは見事、来年の劇場サヨナラ公演の演目だし、三人の中の「和尚吉三」はかつて吉祥院というお寺で出家していたことになっている。劇場は吉祥寺、縁があるのだ。
さすが!

権太楼「青菜」、「植木屋さん」の一言で会場はドッと沸く。
権太楼の高座だが、長屋の戻ってからの暑苦しさは十分だが、お屋敷での涼感があまり感じられないので、私としては多少不満がある。

扇遊「不動坊」、オリジナルを約半分に短縮していたが、作品の勘所はきちんと残しており上手く編集されていた。
ただこの作品は登場人物の名前にはそれぞれ謂れがあって凝っているのだが(例えば不動の女房だから滝)、そういう面白さは消されている。
扇遊は軽快なテンポで楽しく聴かせてくれた。

さん喬「天狗裁き」、マクラで前進座の芝居は分かり易いのが魅力と言ってたが、その通り。
「歌舞伎は難しいから」などと思っている人は、先ず前進座を観て欲しい。ちょっとここでPR。
さん喬が「天狗裁き」を演るとしたらこうなるんじゃないかと予想した通りの高座。

小菊「粋曲」、今日は快調、いつ見ても艶やかでござんすね。
これだけの三味線と喉、後継者がいるのかしら。そこは心配。

志ん輔「唐茄子屋政談」、若旦那が勘当される場面から、最後の裏長屋での母子心中騒動までのフルバージョン。
始めは多少モタモタした印象だったが、若旦那が唐茄子の荷を担いで売りに出る辺りから快調になった。若旦那を送り出した後、叔父夫婦が涙で見送るというのは独自の演出か。
躓いて転んだ若旦那に代わり、唐茄子を売り捌いてくれる男、これぞ江戸っ子気質。嫌いだという相手にも強引に売りつけ、また困った時は俺に声を掛けてくれって、なんとカッコイイ。
ここで若旦那は初めて人情の温かさに触れる。
それが伏線になって、こんどは貧しい母子に売り上げを全て渡してしまう。
手ぶらで戻った若旦那を疑う叔父、確かめに行った裏長屋ではさっきのお上さんが首を吊っていたという騒ぎ。
怒りに燃えた若旦那は因業大家の所へ乗り込んでいきなりポカリ。そして最後は大団円。
途中に荷を担いだ若旦那が田圃から吉原の灯りをみつけ、花魁との馴れ初めの頃を思い出す場面が秀逸。人物の造形も良く上出来の高座。
志ん輔の実力をいかんなく発揮した一席。

5時間半を超える長丁場ながら充実の内容。
今日来たお客は幸せ。

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コメント

充実していて何よりでした。さて、「沢山の真打候補がいるが、その一人」と評された朝也は一朝門下ですね。実力重視という方針を守るのならば、一之輔、朝太、菊六に続く真打昇進者は誰か、ということは非常に興味深いものがあります。

朝太に対する不安、はん治がよく考えてみると「セナで泣いてる、、」のほかはあまり面白くなく「タイ」もイマイチ、権太楼の青菜には「涼しきもの」が足りない、、同感です。
井之頭に住んでいたので前進座は懐かしいです、入ったことはないけれど。

福様
意外と年功序列に戻しそうな予感がします。
一之輔の場合は興行的にも成功しましたが、そういう意味で今秋の二人の成績いかんではないでしょうか。
これが躓くと、昇進待ち組の不満が爆発するんじゃないかと。

佐平次様
井之頭とは随分とトレンディな所にお住まいでしたね。
権太楼の演じる屋敷の旦那にはもっと風格が欲しい。あれでは商家の主にしか見えない。
風流人としての佇まいが涼感を醸し出すのですから。
朝太は今のままでトリの30分もちますかね。その点が心配です。

いつも丁寧に答えて頂き、恐縮です。
>意外と年功序列に戻しそうな
朝太、菊六にかかっていますかね。私的にはどちらかに偏るのではなく、年功序列プラス若手の抜擢という折衷もあり得べし、と思っています。

福様
回答が長くなりますので、記事にアップします。

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