こまつ座「芭蕉通夜舟」(2012/8/18)
8月18日、紀伊国屋サザンシアターで行われた”こまつ座「芭蕉通夜舟」”を観劇。
「井上ひさし生誕77フェスティバル'12 第6弾」として上演されたもの。
作 :井上ひさし
演出:鵜山仁
< キャスト >
松尾芭蕉…坂東三津五郎
朗唱役 …坂東八大 / 櫻井章喜 / 林田一高 / 坂東三久太郎
伊賀の下級武士の家に生まれた松尾芭蕉が、10代末に出仕するところから始まり51歳で亡くなるまでを描いた、文字通りの一代記。
芝居は歌仙36句に因んで全36景仕立てになっている。
伊賀俳壇で地位を築いた芭蕉は、江戸へ出て33歳で俳諧師の宗匠となる。
当時の俳壇では、滑稽や機知を競う句が持て囃されていたが、芭蕉が目指したのは、笑いや楽しさを求めるのではなく自然や人生の探究が刻み込まれた俳句だった。それが「わび」や「さび」あるいは「不易流行」の境地だ。
最後の紀行「おくのほそ道」を完成させた年に西国への旅に出るが、途中大阪の宿で病に倒れる。
芭蕉の人生は孤高と旅であった。
最期の句は「旅に病んで夢は枯野をかけ廻(めぐ)る」、旅先で死の床に伏しながら、芭蕉はなおも夢の中で見知らぬ枯野を駆け回っていた。
こうした俳人としての人生を追う傍ら、生活のために神田上水の水道工事の事務の仕事に就いたり、生涯にわたる便秘のため長雪隠だったりといったエピソードが散りばめられ、言葉遊びと共に笑いを誘う。
芭蕉の棺をのせた舟の船頭が「身も蓋もない」話をする最終シーンは、いかにも井上作品らしい皮肉がこめられている。
松尾芭蕉役の坂東三津五郎はさすが歌舞伎役者らしく科白も所作も見事だし、4人の朗唱役との息もピッタリ。
36景の場面転換も鮮やかだった。
しかし90分で芭蕉の生涯を描くというのはいかにも無理がある。
そのためか、この芝居を通して作者が何を訴えたかったかが掴みにくい。井上ひさし作品にしては珍しく切れ味が悪いという印象だった。
恐らく多くの観客の皆さんも物足りなさを感じたのでなかろうか。
調べてみると、この作品は元々が小沢昭一のために書いたとあり、してみると芭蕉の人間臭さがもっと表に出るべきなのかも知れない。
三津五郎ではあまりに品が良過ぎて、そういう意味ではミスキャストだったか。
公演は9月23日まで各地で。
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