「権ちゃん、そりゃないぜ」#21三田落語会(2012/8/25昼)
8月25日、仏教伝道デンタービル8Fで行われた第21回三田落語会・昼の部へ。
今回は「権太楼・白酒 二人会」という趣向。
椅子の上に置かれた仏教関係のフリーペーパーをみていたら、露の団姫(まるこ)という上方の噺家の記事が出ていた。
彼女は高野山で修行を積み僧侶になったというのだ。もちろん落語はそのまま続けるという。
男では三遊亭圓歌の例もあるが、女性では初ではなかろうか。
「プロ(落語家)がアマ(尼)になった」と書かれていた。上手い!
< 番組 >
前座・柳亭市也「金明竹」
桃月庵白酒「化物使い」
柳家権太楼「お化け長屋」
~仲入り~
桃月庵白酒「あくび指南」
柳家権太楼「鰻の幇間」
順序を変えて、先ずはタイトルの「権ちゃん、そりゃないぜ」から説明しよう。
権太楼の1席目「お化け長屋」、高座に上がった権太楼、明らかに不機嫌そう。本人も機嫌が悪いんだと切り出す。
その原因は今日の二人会の相手が白酒だからと言うのだ。これが雲助、金馬、さん喬、一朝、小満んなら分かる。喬太郎ならまだ。だけど白酒は・・・、いや「格」がどうのって言ってるんじゃない。
でもこの文脈からすれば明らかに「格」を問題にしてるのだ。
言い過ぎたと思ったか、白酒は好きですよ、と。マクラでも遠慮せずに言いたいことをいう。それが今日だと楽屋でも遠慮してる。恐らく高座に上がったときホッとしているんじゃないか。
まあ、ざっとこんな具合に胸中をぶちまけてネタに入った。
言いたいことは、白酒では自分の相手に相応しくないということだ。
この日の組み合わせは確か4か月前には発表になっていた筈だし、2か月前の前売りではこの顔ぶれを承知でチケットを買い、この日も猛暑の中を満員の客が詰めかけていた。
組合せが気に入らないなら始めから断れば良いのだし、企画した団体か主催者に文句を言えば済むことだ。この会を楽しみに来た客に言ってどうする。
客の中には白酒を聴きたくて来場した人も少なくなかろう。
権太楼の物言いは白酒本人のみならず、観客に対して失礼極まりない。
だいいち大人気ないやね。
ネタに入ってからも、本人も客席も何となくマクラを引きずって固さが残ってしまった。
後半の威勢のいい男が登場する辺りからようやく調子が上がり客席もほぐれてきたが、後味の悪い高座になってしまった。
仲入りを挟んで、白酒の2席目「あくび指南」。
微妙な表情で上がってきて第一声が「いま、ホッとしてます」に客席は大爆笑。
次いで、今日のような陽気の時はどこかに当たりたくなるんでしょう、と。
さっき昼の弁当が出てから機嫌が直りました。これはフォローなんだか嫌味なんだか。さぞかし楽屋では気まずい空気だったかと。
古今亭のお家芸ともいうべきネタだが、白酒はいくつか手を加えていた。
あくびの指南役が、いくつかのパターンを見せるという演出だ。
・茶道のあくび
・芝居見物ののあくび
・風呂のあくび
をそれぞれやって見せる。
そこからオリジナルの夏場、舟遊びのあくびに入る。
しかしこの噺はあくび指南という空想の世界を通じて夏場の風情を出すところにポイントがあるし、演者の腕の見せどころなのだ。
噺としては面白くしているがオリジナルの良さを壊している気がする。
順不同で白酒の1席目「化物使い」。
マクラで権太楼との二人会なぞ恐れ多い。権太楼フィーチャリンング白酒、いや誰もフィーチャーしてないか、と殊勝な出だし。
一転、高校野球の話題では「裏へ回れば金まみれ」とくさす。
以前、会社の同僚だったのが永年少年野球のコーチをしていたのだが突然辞めてしまった。理由をきいたら周りの指導者たちがあまりに金に汚いので嫌気がさした、と言っていた。スポーツやる人間ってそういうのが多いんだそうだ。
奉公人の杢助の人物像が良い。誠実で働き者の姿が伝わってくる。暇を貰うと言った後、主人の隠居に説教する時の迫力は大したもんで隠居もタジタジ。やるべきことはやり、言うべきことは言う、杢助はサラリーマンの鑑だ。
同じ化物でもノッペラボウは女性だけに、隠居はすっかり気に入り毎晩でも出て来てくれと頼む。
布団を敷いてくれ、いやいや違う違う、そういう意味じゃないんだ、と隠居が弁解するところを見ると、ノッペラボウ身の危険を感じたか。
こういう達者な芸を見せられると、共演者が嫌がるのも分かる気がするけど。
権太楼「鰻の幇間」。
マクラで終戦記念日に圓歌が「徹子の部屋」に出ていた話題に触れ、圓歌が鉄道員として玉音放送を聴いたと語ったことに対し、年齢が合わないからあれは嘘だと言っていた。
調べてみると圓歌は終戦の年に国鉄を退職しているようなので、これは圓歌の記憶が正しいと思われる。
どうもこの日の権太楼は荒れ模様、出がけに夫婦喧嘩でもしてきたか。
ネタに入って、幇間の一八が男に騙されてから鰻屋の店員にグズグズ文句を言う場面が良く出来ている。幇間の悲哀を感じさせる。
鰻屋の息子と思われるヨシオ君は二階の座敷でメンコをするわ、テーブルに足跡をつけるわ。床の間の掛け軸もヨシオ君の書初めとあっちゃぁもう許せねぇ。
一八の怒りも分かるが、やはり騙されて金を払わされる悔しさを当たり散らすという側面もあったに違いない。
してみるとその迫真の演技も、権太楼本人と重なっていたか。
相手の男は一八の下駄を履き自分の下駄は懐に入れて帰って行った。
その男って、白酒?
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コメント
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権太楼は一之輔の披露口上でも白酒を叱りつけるような場面がありました。
シャレかと思うとそうでもない、白酒のTPOを弁えない傍若無人が嫌いなのかもしれません。
たしかに雲助三兄弟では異色ですね。
一方ゴンちゃんはときどき他の人(EX・芸協)のことでも面と向かって歯に衣着せない言い方をします。
これもどうもシャレじゃ無いようで最近は鼻についてきました。
今夏の権太楼Vsさん喬に行かなかったのは日程の都合もありますが、その鼻のせいかもしれません。
逆に以前どうかと思っていたさん喬がよくなってきました^^。
投稿: 佐平次 | 2012/08/26 10:32
佐平次様
ということは、むしろ反りが合わない、相性が悪いというのが原因でしょうか。
いずれにしろ客の前では「素」をみせちゃいけません。
投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2012/08/26 11:50
私も会場にいました。まったく同感です。
権太楼さんいったいどうしちゃったんだろうと思いました。何故か権太楼さんのネタが
終演後なかなか思い出せませんでした。きっと頭が拒否したんだろうと思います。
白酒さんはよかったです。
投稿: ふわふわ | 2012/08/26 16:00
ふわふわ様
やはりそう感じられましたか。会場も固まっちまったような印象でした。
私もあんな権太楼初めて見たので驚きました。
投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2012/08/26 16:10