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« 土曜の早朝寄席 VOL.3(2012/9/8) | トップページ | ニセモノ「維新」 »

2012/09/10

「出没!ラクゴリラ」ファイナル(2012/9/9)

会の正式名称は”「第20回花のお江戸に出没!ラクゴリラ」ファイナル、10年間の感謝を込めて~こごろう改メ二代目桂南天襲名披露~”という長い長い名前。
9月9日、お江戸日本橋亭で開かれたこの会、他のサイトのカキコミで紹介されて知り出向く。つまり初参加。
”ラクゴリラ”というのはこの日の出演者の林家花丸、笑福亭生喬、桂文三、桂南天4名からなる入門約20年の同期グループの名前。
東京公演は今回で20回目でファイナルだが、大阪では100回を重ねこれからも継続するそうだ。
噺家の入門同期が集まって長期にわたって定期的に落語会を開いているというのは、あまり例が無いのでは。
しかも上方落語家にもかかわらず、同じメンバーが東京で10年間も会を続けてきたのは驚異的なことだと思う。
会場は満席、とても雰囲気の良いお客さんたちだった。

<番組>(全員ネタ出し)
桂雀五郎「初天神」
林家花丸「阿弥陀池」
笑福亭生喬「堀川」
~中入り~
「二代目南天襲名披露口上」
桂文三「京の茶漬」
桂南天「素人浄瑠璃」
(三味線:はやしや律子)

先ず「二代目南天襲名披露口上」から、本人を中央にひとりひとりが祝辞を述べるという形式は一緒だが、通り一遍ではない心温まる内容だった。
花丸の司会で始まり、文三は先に5代目を襲名した経験から名前を継ぐのは新しい着物に着替えるのと一緒、ただ仕立ては自分自身でするしかないと語る。
生喬は大学からの同級生ということで同じオチ研の思い出話や、南天に引っ張られるように噺家になった経緯を語る。
司会の花丸も、南天の美点は決して嘘を言わないことで人間として信頼できると語り、最後に南天(”難を転ずる”ということで縁起が良いんだそうな)の実のように最初は小さな実であってもやがて大きな木に育って欲しいと結ぶ。
こういう場であっても笑いの中に率直な心情を吐露し合える仲間、だからグループとして永く一緒に活動できたんだなと納得させられた。
それぞれのネタも良かったが、この日最も印象的だったのはこの「披露口上」で敢えて冒頭に持ってきた次第。

雀五郎「初天神」、東京でいうと二ツ目になるがこの日は前座の仕事も。
開口一番ながら最後のイカ(東京では凧)の場面までのフルバージョン。表情がやや硬いのが気になったが、途中からエンジンがかかり面白く仕上げていた。
上方版は初めて聴いたが、倅がまるで「真田小僧」のように悪知恵を働かせるところ、団子の蜜を吸って壷にドボンと漬けるのを倅もやるところ、凧揚げで糸を段々に継ぎ足しながら高く揚げていくところが東京と異なるようだ。

花丸「阿弥陀池」、この日のメンバーの中では最も達者な印象を受けた。
マクラで、新幹線の中で宝塚のDVDを見ていた時のエピソードから、ミュージカルの劇評を書くよう新聞社から依頼があった話と次いでこのネタに入る。
落語のマクラというのはイントロなんだから、やはりこうして本題につなげていくのが本筋だ。
しばしば独演会なぞでネタに関係ないマクラを長々とやり、それを客も喜ぶような光景を眼にするがあれは邪道。
東京では「新聞記事」として軽く演じられるのこのネタもオリジナルとなるとグッと難しくなる。ただ「糠に釘」という諺が一般的でなくなったのでシャレが通じ難くなってきた。
花丸の高座は登場人物の演じ分けも巧みだし、何よりクスグリを含めて「間」がいい。

生喬「堀川」、学者のような風貌で、高校時代から落語家になるまでの経緯をかなり長くマクラに振った。ネタというよりは中入り後の「襲名口上」に対するマクラだったかと思われるが、客席がダレテしまっていたのが惜しまれる。
「堀川」は初めて聴く噺で大阪でも珍しいネタではなかろうか。
タイトルの由来は、噺の中に出てくる猿回しが浄瑠璃「近頃河原達引(ちかごろかわらのたてひき)」の「堀川猿回しの段」のパロディになっているらしい。
酒好きの息子と、その向かいに住む喧嘩好きの息子に手を焼く親たち。特に喧嘩好きの方は寝起きが悪く、母親は何とか機嫌よく起こそうと心中がおきたの火事がおきたのと言うのだが、眼が覚めた息子はそれで又ひと騒動を引き起こす。ざっとこんなストーリー。
長い割には笑いが少なく、かといってホロリとさせる人情噺でもない。
生喬は語りはしっかりとしているのだが、およそ演じ手として儲からぬネタを選らんだという気がする。

文三「京の茶漬」、高座に出ただけで客席が明るくなるようなキャラが良い。
京都の人間が、客が帰ろうとすると茶漬けを勧めるがこれはお愛想、実際には出て来ない。そこで大阪の人が何とか茶漬けを食べてやろうと京都の知り合いを訪ねあの手この手でねだるという他愛のないストーリー。
それでも十分面白かったのは偏に文三の明るさと愛嬌。どこかに師匠・文枝(今のじゃない)の面影を感じる。

南天「素人浄瑠璃」、襲名した途端、今までのサン付けから急に師匠と呼ばれて戸惑っていると。従来通りサンとかチャンとか呼んで下さいと言っていたが、大阪では真打相当の人でもサン付けなんだ。東京もそうすりゃいいのに。何でもかでも「師匠」「師匠」呼ばわりは耳障りだ。
このネタ、東京では「寝床」というよりは上方でも「寝床」で演じられていると思われ、サゲに行く前で切ったのでこのタイトルにしたのかも。
下手なカラオケで往生するというマクラから間に挟むクスグリまで、大師匠の枝雀の演出を踏襲している。想像だが一部、文楽(今のじゃない)の演出を参考にしていたような気がしたがどうだろうか。
時々カム癖が気になったが、全体としてはとても楽しい高座を聴かせて貰った。

四人四様、それぞれの持ち味が活きていた。
そして全員がマクラの冒頭で、今回が東京での最終回となるにあたり10年の思い出と感謝の言葉を伝え、それに観客が温かく応えるという情景が何より印象的だった。
最初で最後ではあったが、来て良かった。

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寄席・落語」カテゴリの記事

コメント

コメントでご紹介していただいた甲斐がありました。
私も、座間で文三の二席を楽しむことができました。
何とも言えない明るい高座。しかし、決して粗雑ではなく、しっかり師匠の芸を継承している印象もありました。
もっと、上方の噺家さんを知らないといけないと反省しきりです。
ほめ・くさんの記事から、花丸をぜひ聴きたくなりました。
気づいた時に、この会が終わるのというのは、何とも残念ですね。

小言幸兵衛様、来られず残念でした。
実はこの後鈴本の夜席に行こうかなとも思っていたのですが止めました。
もうこの会だけで十分な気がしてきました。
とにかく良かったですよ。

ほめ・くさん、初めてお邪魔します。本当にお知らせした甲斐があったようで、とても嬉しく拝読しました。
この4人、上方のコアな落語ファンの間では揺るがない信頼があるのですが・・・。
それが一般的な意味で「売れる」ことにまだつながらないのがちょっと残念です。
その点でやはり、東京の方が落語ファンの人口が多いのかな・・・と思えてしまうのですが。

花丸師はあの通り、見かけも語り口も端正なのですが・・・その語り口を崩さずにいかれたギャグを盛り込んだり、古典を全面的に作り替えたりもしてくれます。
(その点で喬太郎師にも太刀打ち出来ると思うのですが)
生喬師は松喬一門の中でも一番幅広いネタに取組んでいて、この4人の中で唯一弟子を持っています。
『堀川』は難曲でしかも他の一門のお家芸ということで挑まれたのでしょうけれども、やはり難しかったようですね。
後のお2人は襲名興行のCDも出ています。幸兵衛さんのブログにも書かせて頂きましたが、『京の茶漬』は小品ながら文三師の本領発揮です。
南天師は分かり易く親しみ易い語り口で、古典演目の全編にわたっていつも独自の光る工夫を凝らしています。
なお、上方の『初天神』については、最近ビクターから出た四代目桂文團治(1879年生まれ!)のCDがお薦めです。

ところで、くどいようですが、来月日曜の上方の俊英の会を2件お知らせします・・・。

①月亭八天TOKYO独演会(10月7日14時・18時、お江戸日本橋亭)
来年七代目月亭文都を襲名する、正統派の才人です。演目は昼夜とも『らくだ』『天災』、ゲストは八ゑ馬さん。
 チケットは前売2500円、ご予約は06-6956-8810。

②東のさん生・西の鶴二(10月28日14時、神楽坂毘沙門天書院)
 笑福亭松鶴師匠の最後の直弟子で、40そこそこで「かつての懐かしい大阪」を体現している鶴二師の貴重な上京です。
 鶴二師の演目は『ねずみ』『尻餅』、チケットは前売2500円、ご予約は03-6914-4491。

長々と失礼しました。差支えなければ今後もよろしくお願いします。

明彦様
ご紹介頂いた会は”当り!”でした。有難うございます。
早速文三と花丸の入ったDVDを購入することにしました。
今回ご紹介の会、出来れば両方行ってみたいと思っています。
上方落語に特別お詳しいのは、何か関係するお仕事をされているんでしょうか?

まず訂正を・・・。四代目桂文團治は、1878~1962 でした。
主流とは言えない噺家人生を送りながら天寿を全うした方だったようですが、CD3枚(これで遺された全録音・全て戦後のライブ盤)を聴いた限りでは、正に「幻の名人」だと思います。

いえいえ、本職は落語とは無関係の平社員です。
落語はここ2~3年ではまった、半可通に堕落しつつある初心者でして・・・。
(元々は演劇オタクです。歌舞伎は昭和末期から観ていて井上ひさしの信者、劇団大阪とは20年弱の付き合い)
ただ一応東京出身なのに落語は大阪に来てから好きになって(ちなみに歌舞伎では、元々関西系の役者が好きでした)、しかも全国的には上方落語がまだまだマイナーなので、
上方落語(しかも国宝一門以外)への思い入れが、日々増殖しつつあります。

明彦様
落語はここ2~3年とは、大変なコンセントレーションですね。
上方落語の良さが分かったのはここ数年でしょうか、春団治には呻りましたし、三喬と新治は上手いと思いました。完全なビギナーです。

三代目春團治師匠は、東京では「文楽(勿論今大変な人形浄瑠璃でも、焼きそばの人でもありません)がいた」と言われると、ある孫弟子さんから聞きました。
こちらにいると、「東京の落語ファンは上方落語に冷たいのでは」と心配に思えてなりません。是非曇りのないお目で、ご高評をお願いします。

明彦様
私が知る限りでは、東京の落語好きの方で上方落語に偏見を持っている人は見当りません。
ただ落語や落語家に対する評価は十人十色、同じ噺家同じ高座に対しても正反対の意見が生まれるのは避けられません。その最も顕著な例は立川流の人たち(談志を含めて)への評価です。
私のサイトを含めてネットの世界は全てが一人称で語っているのですから、見解の相違は当然のことです。

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