「よってたかって秋らくご'12」(2012/9/29昼)
9月29日、よみうりホールで行われた「よってたかって秋らくご'12」昼の部へ。
29日付朝日新聞に「最近、落語聞いてますか?」という記事が載っている。
何でも朝日新聞アスパラクラブの会員の中の"beモニター"へのアンケート結果ということだ。
余談だが近ごろアンケートと世論調査を混同している例が多い。世論調査というのは、無作為に抽出された一定数の人々(標本)に設問して回答を収集するという、統計理論に基づいた標本調査を指す。
「ネットでの世論調査では」なんていう表現を眼にすることがあるが、ネットで世論調査は出来ない。
さて、そのアンケート結果だが、「最近、落語聞いてますか?」という設問に対して「はい」41%、「いいえ」59%という結果になっている。えっ、4割の人が落語を聞いてるの?というのは少々驚きだ。
「いいえ」と答えた人のうち63%が「落語を聞いてみたい」と回答している。ホントかなぁ。
これが事実なら落語界の前途は洋々たるものだが。
少なくとも世間から関心を寄せられているのは確かなようなので、噺家の皆さんは心して稽古に励んでください。
< 番組 >
前座・柳亭市也「一目上り」
三遊亭兼好「だくだく」
柳家喬太郎「中華屋開店」
~仲入り~
柳家三三「五目講釈」(別題「調合」)
柳亭市馬「猫忠」
市也「一目上り」、この11月からめでたく二ツ目に昇進する。先日同時に昇進する辰じんで聴いたがだいぶ差があるなぁ。
まだ人物の演じ分けが出来てない。
兼好「だくだく」
タイトルからでは何だか分からない。上方落語の原題「書割盗人」の方が内容にピッタリだ。
家財道具がない男が隣家の絵描きに頼んで、白壁に家具一式を描いてもらう。そこへ泥棒が入ってきて盗もうとするが絵であることに気付く。そっちがその気ならとこの泥棒、「つもり」になって金品を風呂敷に詰めた「つもり」、気付いた男が絵に描いた長押の槍で泥棒を突いた「つもり」・・・。
サゲを少し変えていたが、兼好のトボケタ洒落っ気が活かされ面白く聴かせていた。
柳家喬太郎「中華屋開店」
なにか今ひとつ乗り切れないダラダラしたマクラから本題へ。
大学を退職してラーメン屋を開こうとする心理学教授とその助手、教授を追ってきたゼミ生のお嬢様とその爺やが織りなす他愛のない噺。
仕種で会場は結構沸いていたが、サゲのひねりもなく駄作。
今日はハズレの喬太郎。
三三「五目講釈」
居候の若旦那の出だしだったので湯屋番かと思ったらこっちだった。
「五目講釈」のタイトルで演じられるのは二通りあり、一つは5代目圓楽などが得意としていた乗合船での噺、別題が「兵庫舟」で現役では菊志んが十八番(おはこ)としている。
三三が演じたのはもう一つの方で、別題が「調合」。若旦那が生薬屋の倅ということからこの名がある。
どちらにせよ聴かせ処は様々な講釈を張り交ぜに語る場面で、いかに名調子で語るかが腕の見せどころ。
赤穂浪士の吉良邸討ち入りから始まって次々と英雄豪傑が登場し、終いには「死んだはずだよお富さん」だの「貼ってすっきりサロンパス」だのまでが出てくる。
三三はまさに立て板に水の語りで会場を呻らせ、前半のダレ加減の場内の空気を締めた。
市馬「猫忠」
先ず三三の高座をほめ、「私も負けないように」と師匠や兄弟子から稽古をつけて貰ったエピソードをマクラにネタへ。
清元の師匠は若くて美人、町内の若い衆が張り合うように稽古に通って来る。次郎吉と六兵衛もその仲間。ある日二人は、兄いが師匠とさし向かいで宜しくやっているのを覗き見して、兄いの女房にご注進におよぶ。処が自宅にはその兄いがいた。
三人で師匠の家へ確かめに行くと、確かに兄いと師匠がいる。これは狐狸妖怪に違いないと、三人で取りおさえてみると、ネコが化けていた。
聞いてみると、「自分はあそこにかかっている三味線の皮にされたネコの子どもです」という。
実はこの噺、歌舞伎の「義経千本桜」のパロディになっている。
登場人物の名前が、吉野屋の常吉=義経、駿河屋の次郎吉=駿河の次郎、師匠のお静さん=静御前、狐忠信=猫のただ飲む、という見立てになってる。
聴かせ処は、正体があばかれた猫が申し開きする場面で、芝居の狐忠信と同じく単語の語尾を伸ばしたかと思うと今度は早口に縮める、狐言葉で語るところ。
市馬の口跡の良さが活かされたトリにふさわしい高座だった。
後半がグッと締まった感があったが、高座をおりる噺家に「良かったよ」と声をかけたり、むやみに拍手したりする無粋な客がいたのは少々興醒め。
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