「ネット社会」は人間を幸福にするだろうか(上)
「図書」2012年9月号に作家・赤川次郎の「ネット社会の闇」という記事が掲載されている。
小説を映画化やドラマ化する場合は、先ず出版元に企画してもよいかという問い合わせがきて、次に作者がOKするかそうか判断できるように「企画書」の案が送られてくるのだそうだ。
作者が了解すると「企画書」が映画会社なりTV局に提出される。
作者に送られてくる「企画書」に”イメージキャスト”というのが記載されていて、こういうタイプの役者をイメージしていると作者に伝える。
その役者が分からないとイメージできないので、その時はネットで検索して調べるのだそうだ。
昨年のことで、赤川次郎のある作品の企画書が手元に送られてきて、イメージキャストにあげられていたアイドルが知らない名前だった。
検索すると既にCMに出ているような女の子だったが、ネットを見て驚いたとある。
以下は記事からの引用。
【この女の子に関するデータと並んで様々な悪口が書き込まれていたからである。
もとより、スターやアイドルの好みは人さまざまだ。好き嫌いは他人がとやかく言うことではない。しかしわざわざ「嫌いなアイドル」の悪口を、それも何度も執拗にネットに書き込むのはどういう心理だろう。
特に見過ごせないのは、この女の子の目が細いことを、「チョン顔だな」「こいつはチョンだろ」と書き込んであったことだ。
「チョン」はいうまでもなく「朝鮮人」の蔑称で、決して使うことは許されない言葉である。匿名でなければ言えるはずのないことが、「ネットの投稿」として、時に「炎上」などという現象まで引き起す。】
(中略)
【その悪口は、むけられた相手を傷つけるだけではない。その「書き手」をも、確実に毒し、むしばんでいる。
「文字にする」ということは、単に友だち同士のおしゃべりとは別の次元のものだ。
実名を出して、あるいは直接その当人に向かって、そんな言葉は口にできないだろう。そこには「口に出してならない言葉」を発しない、人間の理性と知恵があるからだ。しかし、顔が見えないのをいいことに、人をののしり続けていれば、その人間の精神はその言葉にふさわしいものにしかなれない。
「言葉、言葉、言葉・・・・・」
と、ハムレットは言ったが、一つの言葉を使うか使わないか、そこには人の品性が現れるのである。】
(中略)
【「言葉」一つ一つの重さについて、絶えず考えていなければ、ネット社会は人間を幸福にしないのではないかと私は思う。】
と記事は結ばれている。
下手なブログを書いている身としては少々耳が痛いけど、著者の指摘は至極もっともだ。
先ず「目が細い=朝鮮人」と断定する、なんという知識の貧しさか。
眼が細い日本人もいれば、眼の大きな朝鮮人もいる。こんな簡単なことさえ理解していなくて、よく掲示板に書き込みが出来たものだ。
この記事で大事なのは後半のパラグラフ、
「その悪口は、むけられた相手を傷つけるだけではない。その「書き手」をも、確実に毒し、むしばんでいる。」
「顔が見えないのをいいことに、人をののしり続けていれば、その人間の精神はその言葉にふさわしいものにしかなれない。」
と指摘してる点だ。
たまに”2-ちゃんねる”などの掲示板をのぞくことがあるが、あまりの言葉の汚さに気分が悪くなり早々に退散してしまう。人間はあそこまで悪意を抱けるものだろうかと。
日常的にああした世界に浸っていれば、精神の荒廃は避けられないのではなかろうか。
娘の会社の同僚がうつ病になった。入社してから20年、快活でとてもうつ病になるなど考えにくい人だったとか。
原因がネットでの悪口と聞き、娘がその同僚の本名で検索すると確かにある掲示板にその同僚の悪口がわんさと書かれていた。
内容からみて内部の事情を知る者で、それも同じ部署の人間なのは明らかだった。
この会社が数年前に企業合併していて、その同僚がしかるべき役職に就いたのが合併の相手方の社員に不満だったようでターゲットにされ、嫌がらせの書き込みを行ったようだ。
卑劣としか言いようがない。
中にはそれを苦に自殺するケースさえあるわけで、これはもう犯罪である。
こうした市井の人間さえターゲットにされる掲示板の存在が、なぜ許されているのだろうか。
ネットは実に便利だ。
しかし人間を幸福にしていけるのかどうか、そこを考えてみたい。
(続く)
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