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2012/10/09

#61扇辰・喬太郎の会(2012/10/8)

出がけに「あんた、マタ落語に行くの!」。フン、股で落語に行けるかってんだ。
というわけで漸く涼しくなった10月8日、国立演芸場で行われた「扇辰・喬太郎の会」へ。過去なかなかチケットが取れず今回ようやくだった。この二人会は二ツ目の頃から始めたそうでこの日が第61回、約20年というからスゴイ。
もう一つの特色は毎回ネタおろしをするという点で勉強会でもあるわけだ。

<  番組  >
前座・柳家さん坊「子ほめ」
入船亭扇辰「目黒のさんま」
柳家喬太郎「あの頃のエース」
~仲入り~
柳家喬太郎「堀の内」
入船亭扇辰「雪とん」

前座のさん坊「子ほめ」
北海道の牧場出身とのことで乳しぼりだの牛の出産だのという前座にしては長いマクラを振ったが、どうやら後の二人から出来るだけ時間を稼げという命令が出ていたらしい。
マクラのしゃべりはしっかりしていたがネタに入ってからは平凡。サゲは普通と少し違う。

扇辰の1席目「目黒のさんま」
ネタおろしで頭が一杯でと、季節にふさわしい軽いネタ。
扇辰の描く殿様は徹底したバカ殿で志村けんみたい。これでもかという位に戯画化しているが、それにしては最後の一言がシャレてる。
「さんまは目黒に限るぞ」って、いくら血の巡りの悪い殿様でもまさかサンマが目黒で獲れると思っていたわけじゃない。あそこで「不味い」などと言ったら先方の料理番が責任を取らされる。だからあの一言で丸く収めたのだ。
この殿様、ホントは賢いのだ。

喬太郎の1席目「あの頃のエース」
これもネタおろしみたいなものですと言ってたが、調べてみると池袋演芸場10月上席(つまり今)での新作で三題話になっているようだ。お題は「ウルトラマンエース」「ハンカチ落とし」「道具七品」。
ストーリーは。
食品会社の社長が専務に、出入りのいろは弁当との吸収合併を考えていると伝える。専務は社長がいろは弁当社長の真由美に個人的な思いがあるのではないかと疑う。社長室にはウルトラ7のフィギュアが飾られているが、なぜか「ウルトラマンエース」だけが欠けているのが不自然だというのだ。これが「道具七品」。
この辺りは喬太郎得意のウルトラマンに関する薀蓄がタップリ語られるのだが、当方にはチンプンカンプン。
社長はいろは弁当との親交を深めようと、いろは弁当の社員との懇親会を企画し、真由美社長から子供の頃を思い出し「ハンカチ落とし」をしようと提案する。
二人は幼馴染で学校も同じ、若き日の社長は密かに真由美に思いを寄せていた。
やがて真由美は別の男と結婚したのだが、その相手が借金を作って蒸発。だから会社合併は社長と真由美の合体ともいうべきで、それはウルトラマンエースの北斗と南の合体と重なるわけだ。
しかし真由美の夫の行方が分かり、真由美は夫の住む地方へ移住してしまい、合併はチャラ。
喬太郎が得意とする男女の切ないラブストーリーの新作は三題話という制約上少々展開に無理はあるが、全体としては良く出来ている。ウルトラマンに詳しければもっと面白く聴けたんだろう。
それもこれも喬太郎の話芸があってこそで、客席を沸かせていた。

喬太郎の2席目「堀の内」はネタおろし。
4代目三遊亭圓遊の十八番というより極め付け。後の人はいずれも圓遊の演出に倣っている。
出囃子が「東京ホテトル音頭」、ネタの堀之内とのシャレだって。ボクにはよくワカンナイ。
喬太郎の描く主人公の男は粗忽だけでなく奇人変人に近い。しかも女房も同類項。まともなのは金坊だけという家族。あれでは夫婦揃って堀之内にお詣りにいかねばならないのでは。
堀之内でお詣りしていると隣に若い衆。誰かと思えば辰じん、そそっかしい師匠が独演会のビラを家に忘れてきて取りに行ってきたとか。
寺の本堂の横で弁当を拡げれば箱マクラに腰巻を包んでいた。自宅に戻ってもう一度開けると今度は本物の弁当。おかしいなと思っていたらそこに辰じん、「それ、私のです」。
そんなギャグで場内は大喜びだったが、作品としてはかなり粗く、未だこれから仕上てゆくという段階だろう。

扇辰の2席目「雪とん」もネタおろし。
ストーリーは。
船宿に世話になってる地方出の若旦那、江戸見物していたが、ここのところ元気がない。女将が訊けば恋患いだという。その相手は本町2丁目の糸屋の娘、評判の器量よしの上まだオボコ、だから諦めろといったが聞き入れない。会えないなら自殺すると言い出す始末。
仕方なく女将は娘付きの女中を呼び出し、小判2枚で買収。今晩、四つ時に若旦那が裏木戸をトントンと叩けば、それを合図に戸を開けて娘の部屋に案内するという手はずが整う。
その晩は大雪、年のころは25,6の実に様子のいい男が裏木戸に通りかかり、足駄に挟まった雪を落とすため木戸をトントンと叩いた、合図と思った女中は男を娘の部屋に案内する。あまりにいい男だったので娘は一目惚れ、結局一夜を共にする。
一方若旦那は道を間違えて木戸を叩いたがどこも開けてくれず、夜が明けてしまう。するとようやく見つけた裏木戸から男が送り出されていた。
しかも船宿の女将とも知り合いの様子、若旦那が一体あの男は何者だと女将にたずねると、あれが評判のお祭り佐七。
「お祭りだって!それでダシ(山車)にされた」とサゲる。
この噺、どうやら「お祭り佐七」という長編の一部のようで、この前に前篇があり、さらに後編が付くという展開らしい。
それにしても江戸時代の生娘ってえのは大胆だったんだねぇ。一目見ただけでお床入りってんだから、今どきのネエちゃん顔負けだ。
扇辰は志ん生の演出を踏襲したものと思われるが、相変わらず人物の造形が鮮明。より人情噺風の仕上がりになっている。
特に雪の中、傘をさしたお祭り佐七が木戸からすーっと出てくる姿は惚れ惚れする。
ネタおろしとは思えない完成度の高さで、もう十分に扇辰の十八番といっても可笑しくない上出来の高座だった。

山中教授はノーベル賞、わたしゃお酒をノーメル賞。
って、古いシャレだね。

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コメント

今や、“プラチナチケット”とも言える会ですね。
奥さんが、お元気になられたようで、何よりです。
「雪とん」は柳家小満んで聴いて感心したネタです。
扇辰にも、ニンでしょうね。
土曜の夜と日曜の落語会は行かないので、この会は、いつも涎を流して(汚い!)見逃しています。
果たして、この二人の現在の実力は、どちらが上なのか、非常に微妙な気がします。

投稿: 小言幸兵衛 | 2012/10/09 22:35

喬太郎らしい「堀の内」だったようですね。辰じんもずいぶん売って貰えたし(笑)。彼も将来が楽しみな若手です。
さて、この「堀の内」ですが、初めは登場人物があまりにドジすぎてわざとらしいものを感じていましたが、ある日、橘家円蔵の一席を聴き、あの独特の個性とよく合っていて面白いと感じました。こういう基本的なものこそ演者の力量、個性がものをいうんでしょうね。

投稿: 福 | 2012/10/10 08:00

小言幸兵衛様
土日しか行けない私とは対照的ですね。
二人の比較ですが芸域が広いという意味ではやはり喬太郎です。
高座の出来、芸の確かさを比較すれば扇辰が上。
単純に比較できないので後は好みの問題かもしれません。

投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2012/10/10 09:43

福様
円蔵の高座は観ておりませんが、このネタは4代目圓遊にとどめをさします。
ご指摘のように粗忽をむしろ抑え気味に表現すべきだと思います。
無理に笑わせようとするのではなく、客が自然に可笑しくなるような演出が求められます。
喬太郎はこね過ぎて過剰になり、私はあまり感心出来なかった。

投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2012/10/10 09:50

毎回この会は楽しみに通っています。以前は喬太郎さんがあまりにすごいので、扇辰さんが気の毒な気さえしていましたが、ここ数年扇辰さんがものすごく良くなっていて、喬太郎さんもがんばらなければという
感じがします。
堀の内は一之輔さんのほうがいいと思いました。

投稿: ふわふわ | 2012/10/12 13:42

ふわふわ様
先ずこの会のチケットを毎回取れておられることに驚きです。
今や扇辰は喬太郎に追い付き追い越す勢いですね。
今回は明らかに扇辰の高座の方がが優れていました。

投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2012/10/12 16:56

このチケットを取るためだけに
(おんきょう)の会員になっています。

投稿: ふわふわ | 2012/10/13 10:51

ふわふわ様
おんきょう会員ですか、そこまでしないとチケットが取れないんでしょうね。
かといってホールの様な広い会場にすると雰囲気が変わってしまうので、難しい所です。

投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2012/10/13 11:22

度々失礼します。
10月28日、志ん朝ゆかりのトリイホールでの喬太郎独演会でも、喬太郎師匠のネタは『あの頃のエース』『寝床』、ゲストの扇辰師匠は『目黒のさんま』でした。
情けないことに同世代の喬太郎師のウルトラネタが全て理解出来、「1人だけ笑っている人がいる」といじられてしまいましたが。
しかし「チンプンカンプン」な客が本当に楽しめる普遍性という点では、まだまだなのでしょうね。

扇辰師匠は3回目で、「陰影たっぷりに古典を掘り下げる師匠」というイメージを持っていましたが・・・。
殿様の一喜一憂・家来達の本音・そして焼きたてのさんまの味などをふくらませたこの一席も、実はその路線なのでしょうね。
「馬鹿殿と紙一重の明君」と言えば、木下順二『彦市ばなし』の「殿さん」、映画版『雨あがる』の三船史郎を連想してしまいますが。

投稿: 明彦 | 2012/11/02 00:27

明彦様
喬太郎の「あの頃のエース」、三題噺という制約の中では良く出来ていると思います。
以前、客のリクエストに応えて即席で噺をこさえた事がありますが、大した才能であることは間違えありません。
扇辰の目黒は悪くないですが、回数が多すぎますね。
私は「サンマは金馬(三代目)に限る」ですが。

投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2012/11/02 09:39

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