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2012/11/04

「るつぼ」(2012/11/3)

11月3日、新国立劇場・小劇場で上演中の「るつぼ」を観劇。
アーサー・ミラーによる戯曲「るつぼ」は米国では1953年初演、9・11テロ後にも再演された。
日本では劇団民藝により1962年初演され、その後も再演を繰り返している。今回は新訳での上演とのこと。

作:アーサー・ミラー
翻訳:水谷八也
演出:宮田慶子
<  キャスト  >
池内博之/ジョン・プロクター
栗田桃子/その妻エリザベス・プロクター
鈴木杏/下女アビゲイル・ウイリアムズ
檀臣幸/サミュエル・パリス牧師
奥泉まきは/その娘ベティ・パリス
浅野雅博/悪魔祓いの牧師ジョン・ヘイル
磯部勉/ダンフォース判事
関時男/ジャイルズ・コーリイ
佐々木愛/レベッカ・ナース
木村靖司/トマス・パットナム
松熊つる松/その妻アン・パットナム
田中利花/黒人奴隷ティチューバ
その他の出演者
佐川和正/亀田佳明/深谷美歩/武田桂
日沼さくら/チョウ・ヨンホ/梨里杏/戸井田稔

ストーリーは。
舞台は1692年春、マサチューセッツ州セイラム。
深夜の森で、プロクター家の下女アビゲイルと少女たちが黒人奴隷のティテュバとともに全裸で踊っているのを牧師のパリスに発見される。少女の一人で牧師の娘ベテイが意識不明となってしまう。パリスはただうろたえるばかりで何も対処できない。
町の有力者パトナム夫妻が「悪魔を呼んだからだ」と言いだし、悪魔払いのヘイル牧師が呼ばれる。
そこに町のさまざまな問題-パトナム家とナースおよびジャイルズ老人との抗争、アビゲイルが自身と関係をもった農夫ジョン・プロクターに対する恋心-などが坩堝のように絡み合った挙句、窮地に陥った少女たちは町の人々を魔女として告発してしまう。
アビゲイルらは聖女扱いとなり、セイラムでは無実の人々が次々と逮捕、処刑されていく。
プロクターは、魔女告発者の一人であるメアリーの言動から、パトナムやアビゲイルたちの陰謀に気づくが、時すでに遅く妻・エリザベスが拘束されてしまう。
プロクターらは、ヘイル牧師の協力でダンフォース判事に妻の赦免を願い出、アビゲイルと対決する。
だが言い争ううちにアビゲイルは「悪魔がいる」と言いだして人々を扇動、プロクターまでもが拘束されてしまう。
季節は秋から冬へ。魔女裁判に疑問を感じ始めた人々が現れる中、アビゲイルは身の危険を感じ失踪してしまう。
このままでは暴動がおこると憂慮したパリスとヘイルの説得により、ダンフォースは裁判の正当性と保身のためプロクターに魔女の告白をさせ、その代償に処刑を中止すると持ちかける。
プロクターは、最後まで否認を貫いたジャイルズやレベッカ・ナースの死を知り衝撃を受け悩むが、家族への愛を断ち切ることができず偽りの告白をする。
さらに供述書にも署名するが、市民に署名を見せると聞いて良心の呵責に耐えかね、供述書を処刑台へ上って行く。

この物語は17世紀終わりにイギリスの植民地下、北米東海岸にあったセイラム村で実際に起きた事件が基になっている。
この事件は当初わずかな人が魔女と名指しされてのだが、魔女裁判により最終的には150人以上が投獄され 、19人が絞首刑、1人が拷問死するという惨事に発展した。
魔女を告発したのは下層に属する人たちで、今まで社会から無視された娘たちが判事や牧師に注目され、主役を演じる楽しさを覚えたのだ。
セイラムの魔女裁判の特徴は、魔女であることを告白し、かつ別の人を魔女と告発すれば赦免になり命が助かるというものだった。

自白と告発をセットにしたこのシステムが活かされたのが、1940年代の終わりから50年代の前半にかけてアメリカで吹き荒れた「アカ狩り」、非米活動委員会によるいわゆるマッカーシー旋風だ。
これにより多くの演劇人、映画人が排除されていった。
アーサー・ミラーが1953年にこの作品を書いた意図は、17世紀のセイラムでの事件を通して「アカ狩り」を批判したものだ。 
9・11後のアメリカや3.11後の日本でこの作品が上演されたということには、それだけの意義がある。
終幕で人間の尊厳の美しさを謳いあげたのもそのためだろう。

シンプルな舞台で繰り広げられる激しいセリフのぶつけ合い、怒鳴り合い罵り合う舞台は正直言って疲れる。
休憩を除く上演時間が3時間半は、かなりの長丁場に感じる。
久々の新劇らしい新劇を観たせいだろうか。
舞台を楽しむというよりは、作品の持つ今日的意義を噛みしめる、そういう芝居だと思う。

公演は11月18日まで。

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コメント

学生時代に民芸のをみました。
滝沢修が主演だったかなあ。
忘れてしまいましたよ。

投稿: 佐平次 | 2012/11/05 21:17

佐平次様
アーサー・ミラーの作品は民芸の「看板」でしたね。
当時と比べると新劇そのものが下火になってしまった。

投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2012/11/06 04:42

こんばんは。遅いレスで失礼します。
僕は滝沢修さんのダンフォースの最後の舞台に、辛うじて間に合ったのですが・・・。
(ほめ・くさんはもしかしたら、鈴木瑞穂さんのプロクター・奈良岡朋子さんのアビゲイルをご覧になっていますか?)
この芝居の面白さ、それ故の深さを実感出来たのは、映画化『クルーシブル』(ご覧になりましたか? 評判にはなりませんでしたが、名作だと断言します)を観た時でした。
今の日本に重ねれば、悪の美少女アビたん達「下層」の娘達は、「在特会」諸君なのかもしれませんが・・・。
「今日的意義」を持つ名作は、「疲れる」よりも、まず楽しめる舞台にしてして欲しいものですね。

投稿: 明彦 | 2012/11/18 20:31

明彦様
「アビゲイルは在特会」は正にその通りだと思います。私も舞台を見ながら同じことを考えていました。
当時米国ではマッカーシズムが吹き荒れていましたが、日本ではレッドパージ、同じ様な状況でした。
「クルーシブル」は未見ですが、以前NHKの海外ドラマで「るつぼ」が放映されたのですが、それはとても良く出来てました。
上演時間をもう少し短縮するとか、なにか工夫が必要かなと思います。

投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2012/11/19 05:49

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