「幕末太陽傳」の楽しみ方
映画「幕末太陽傳」のデジタル修復版が昨年公開され、その後DVD発売もされた。修復版DVDには特典ディスクとして柳家権太楼の落語「居残り佐平次」や鈴々舎馬桜による解説も付属していて、充実した内容になっている。
川島雄三監督の代表作だけではなく日本映画を代表する作品の一つといってよい。
この作品には以下の古典落語が登場していて、どの場面にどのネタが使われているのを発見するのも楽しみの一つだ。
・居残り佐平次
・品川心中
・三枚起請
・お見立て
・文七元結
・星野屋
・付き馬
・お初徳兵衛
・夢金
・坊主の遊び
この映画と落語との接点は沢山あるが、先ず川島監督は古今亭志ん生を撮影所によび、「居残り佐平次」と「品川心中」の2席をスタッフに聴かせたとある。こういう所から心構えが違うのだと感心した。
主役のフランキー堺は8代目文楽の弟子でもあり、桂文昇の名前を貰っていた。
貸本屋の金蔵を演じ、去る12月10日亡くなった小沢昭一は早稲田大学落研(オチ研)の創設者だ。
女中おひさを演じる芦川いずみがかぶっていた手拭いの模様が、菊五郎格子。これは5代目尾上菊五郎が初めて落語ネタ「文七元結」を芝居に移したことに対する川島雄三のリスペクトだったようだ。
また落語とは直接関係ないが、若旦那の徳三郎に民藝入団3年目という梅野泰靖を抜擢しているが、この理由が生粋の江戸っ子だったからだとか。5代続いた江戸っ子でしかも父親が遊び人だったというから、まさに道楽者の役柄にはピッタリだったわけだ。
このようにスタッフやキャスト、衣装の隅々まで川島監督の落語に対する愛着が行き渡っている。
余談になるが、井上ひさしの戯曲「たいこどんどん」の冒頭シーンは、この「幕末太陽傳」の影響を強く受けている。その井上の直木賞受賞作品「手鎖心中」が古今亭志ん生「品川心中」から着想を得ているのは有名な話だ。ここにも落語つながりが見られる。
作品を再見していてこの他にもいくつか興味深いシーンに気付いた。
佐平次が相模屋の2階でドンチャン騒ぎをする場面で、フランキー堺が太鼓のバチを片手でクルクル回すのだが、これはかつて彼が「フランキー堺とシティ・スリッカーズ」というジャズバンドのドラム奏者だったことを思い出させている。なおこのバンドだが、小学生の頃に新宿武蔵野館のライブで観ているのだからスゴイでしょ(何が?)。
最終シーン近くでフランキー扮する佐平次と、杢兵衛大盡役の市村ブーチャンこと市村俊幸が、「お見立て」の墓参りをする場面があるが、これはドラマーのフランキーとピアニストの市村というミュージシャン対決にもなっている。その市村のピアノ演奏を有楽町日劇で観ているんだから、これもスゴイでしょ(だから何が?)。
見るたびに新たな発見がある「幕末太陽傳」、とにかくスゴイ。
「ステマ」じゃありませんから、念の為。
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毎回楽しく拝見させて頂いております。
新宿で観ました。寄席や落語会に行き始め、ちょうど志ん朝師匠の「三枚起請」のCDを聴いた後だったと思います。
印象的なことが2つありました。
一つは石原裕次郎はどんな役を演じても、やっぱり裕次郎だなぁということ。(最近ではキムタク)
そしてもう一つは、菅井きん。当時は30代であろうに、すでに「婿殿」という台詞を言っても何ら違和感がないんです。
色々な楽しみ方のひとつ(ふたつ?)をご紹介致しました。
投稿: 二ツ目 | 2012/12/18 21:37
二ツ目様
裕ちゃんもこの時期は素人芸でしたね。
菅井きん、私も同じことを感じました。老け役は老けないんですね。
この他にも南田洋子と左幸子の乱闘シーンの迫力、看板女優にあそこまで演らせた川島監督はさすが。
投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2012/12/19 09:27
スゴイことには異存はないけど、ステマってなんですか。
投稿: 佐平次 | 2012/12/19 10:22
あ、今分かった、あのインチキCMのことですね。
幽界の佐平次から一服盛られた?
投稿: 佐平次 | 2012/12/19 10:24
佐平次様
ピンポーン、そうです、今話題の「ステルスマーケッティング」のことです。
さしずめフジ・サンケイグループなんぞは、自民党の「ステマ」ってぇとこでしょうか。
投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2012/12/19 10:42