前進座劇場ファイナル公演「三人吉三巴白浪」(2013/1/4)
今年1月で前進座劇場は30年の幕を閉じ閉館となる。
そのファイナル公演として1月2-9日の日程で、前進座「三人吉三巴白浪(さんにんきちさ ともえの しらなみ)」が行われているが、1月4日に観劇。
建物の老朽化と耐震性などの問題で立て替えが迫られたという事情からとはいえ、自前の劇場を手放すのは関係者にとっては無念に違いない。
この劇場は歌舞伎だけではなく定例の落語会「噺を楽しむ」なども開催されていて、そういう意味でも無くなるには残念だ。記録によれば合計59回の開催で、小三冶15回、米朝11回、志ん朝4回、談志6回など錚々たる顔ぶれが揃っていたとある。
ファイナル公演が全て前売り完売なのも、そうしたファンの思いの反映だろう。
作:河竹黙阿弥
< 主なキャスト >
和尚吉三:藤川矢之輔
お嬢吉三:河原崎國太郎
お坊吉三:嵐芳三郎
土左衛門傳吉:松浦豊和
手代十三郎:早瀬栄之丞
おとせ:忠村臣弥
八百屋久兵衛:山崎辰三郎
釜屋武兵衛:松涛喜八郎
堂守源次坊:中嶋宏太郎
三人吉三は吉三郎という名の三人の盗賊を中心にして、彼らを取り巻く者たちの複雑な人間関係を描いている世話物、白浪物。
百両の金と名刀「庚申丸」をめぐる因果応報をめぐる物語。
初演が1860年、つまりは幕末。世の中の価値観や人々の心も大きく転換する時代に書かれたもので、江戸末期の庶民の姿が反映されているようだ。
タイトルロールのうち、和尚吉三は土左衛門傳吉の倅、お嬢吉三は女の姿をしているが八百屋久兵衛の倅、お坊吉三は武家の出身だが父親が名刀「庚申丸」を盗まれその責めを負って切腹したため家が没落した。その名刀を盗んだのが土左衛門傳吉。
奇しき縁と知りもせず、三人の吉三が互いに交わす義兄弟の血杯。
八百屋久兵衛の手代十三郎は主人の大事な金百両を落として身投げする所を助けたのが土左衛門傳吉。
その傳吉の娘おとせが百両を拾い十三郎に届けに行く途中、大川に突き落として襲って金を奪ったのがお嬢吉三。
おとせを助け上げたのが八百屋久兵衛。
そして十三郎とおとせは幼い頃に別れ別れになっていた双子の兄妹。
といった複雑な人間関係で、仇と恩人がそれぞれ入り組んでいる。
そこに十三郎とおとせとの近親相姦や、お坊吉三とお嬢吉三が恋愛関係になるという性的倒錯も加わる。
そうした筋立てを別にしても、大川端でのお嬢吉三(女装した美少年という設定でこれもまた倒錯)の名セリフ、というよりはアリア。
「月も朧(おぼろ)に 白魚の
篝(かがり)も霞む 春の空
冷てえ風に ほろ酔いの
心持ちよく うかうかと
浮かれ烏の ただ一羽
ねぐらへ帰る 川端で
竿の雫(しずく)か 濡れ手で粟(あわ)
思いがけなく 手に入る百両
―(舞台上手より呼び声)御厄払いましょう、厄落とし!―
ほんに今夜は 節分か
西の海より 川の中
落ちた夜鷹は 厄落とし
豆だくさんに 一文の
銭と違って 金包み
こいつぁ春から 縁起がいいわえ」
う~ん、シビレルねえ。
ラストの雪降る立ち廻りシーンでお嬢吉三が火の見の櫓に上がる所は、「伊達娘恋緋鹿子」の「櫓のお七」が投影されている。
見どころ、聴かせどころが満載で、さすが黙阿弥の最高傑作だけでなく歌舞伎の演目の中で最も人気を誇る狂言だと納得できる。
とにかく3時間、スリリングで全く飽きさせない。
全体として歌舞伎と言う様式美の中に、現代劇風なリアリズムを感じさせる前進座の特長が良く活かされていたと思う。
演技陣では、お嬢吉三を演じた國太郎の華やかさに目を奪われる。女形の心得で男役を演じると言う難しい役どころを見事にこなしていた。
この演目は國太郎の芝居だと言っても良い。
脇では初役ながら土左衛門傳吉を演じた松浦豊和の演技が光った。いかにも元はワルだが今では改心して・・・という役柄に説得力がある。
他におとせ役の忠村臣弥の哀れな可憐さ、堂守源次坊役の中嶋宏太郎の軽妙な演技が目をひいた。
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遅くなってしまいましたが、明けましておめでとうございます。
今年も公正で読み応えのあるレポートを楽しみにしています。
・・・で、実は同じ日に同じ舞台を観ておりました。その後、友の会の交流会で稽古場で泥酔し、記憶があやふやな状態で大阪に戻ったのですが。
ほめ・くさんは知人のお友達でもいらっしゃいますので、東京に帰った時いつかお目にかかれたら・・・と思っていただけに、少し残念です。
劇場の最後をいい舞台で飾れたのは、せめてもの慰めでした。
松竹歌舞伎(ずっと恵まれているようで、実は一人の傑出した役者の死によって揺らぐことが分かりました)と前進座を両方観る人は、実は少ないようですが(江戸落語と上方落語の関係に似ているかも)、
イヤホンガイドなど要らないくらいドラマを明快に描き出す前進座歌舞伎は、もっと評価されるべきだと思いました。
國太郎には近いうちにお岩さんをやって頂きたい、と御本人に申し上げて来ましたが・・・。
実は前日若手公演も観たのですが、中嶋宏太郎の和尚吉三は、矢之輔とは違った「名もないチンピラの気概」があって、なかなかよかったですよ。
矢之輔と言えば実は落語の心得もあるとのことで、前進座で舞台化された『芝浜の革財布』『文七元結』の主役や『唐茄子屋』のおせっかい男は、一挙手一投足が「落語国の住人」でした。
投稿: 明彦 | 2013/01/08 23:37
明彦様
おめでとうございます。
最後を飾るに相応しい良い舞台でした。
あの日は交流会もあったんですね。どうも根が無精なもので、そういった催しに出たことがないんです。
前進座は国太郎が中心になりました。俊寛の千鳥などは絶品でした。
お岩は是非演じて欲しいですね。
次回の国立の舞台も観に行く予定にしています。
投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2013/01/09 08:53