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2013/02/03

「テイキングサイド」(2013/2/2)

暖かな日和の2月2日、天王洲・銀河劇場で上演された「テイキングサイド~ヒトラーに翻弄された指揮者が裁かれる日~」を観劇。
クラシック音楽好きなら誰もが知っている通称”フルヴェン”(音楽ファンというのは縮めるのが好きだね。メンコン、モツレク、ショスタコetc.)こと”フルトヴェングラー”。20世紀を代表する最高の指揮者の一人で、ファンにとっては神のごとき存在だ。
しかし一方で彼が指揮活動の頂点を極めた時代がナチスの全盛期だったことでナチスへの協力を疑われ、連合国による非ナチ委員会の審理に引き出されるという不幸にも見舞われる。1947年までの2年間は音楽活動まで禁止されてしまう。
この点ではナチ党員であったライバルのカラヤンに、なんのお咎めも無かったことと対照的だ。
このドラマは、フルトヴェングラーと彼を糾弾し追及する米軍人との緊迫した攻防を描いたものだ。

作:ロナルド・ハーウッド
演出:行定勲
訳:渾大防一枝
<  キャスト  >
筧利夫/スティーヴ・アーノルド少佐(非ナチ化審理の面接官)
福田沙紀/エンミ・シュトラウベ(アーノルドの助手として審理の記録係、父親は反ナチの将校として処刑された)
小島聖/タマーラ・ザックス(ユダヤ人ピアニストの未亡人、フルトヴェングラーの無罪を主張する)
小林隆/ヘルムート・ローデ(ナチ党員でベルリン・フィルのヴァイオリニスト、罪を不問にする代わりにフルトヴェングラーの罪状を提供させられる)
鈴木亮平/ディヴィッド・ウィルズ中尉(ユダヤ人で米国に移住するが両親は消息不明、アーノルドの部下として審理の助手を務める)
平幹二朗/ヴィルヘルム・フルトヴェングラー

ストーリーは・・・
時はドイツ敗戦が決まった1945年。
ドイツ進駐の米軍少佐アーノルドはナチの犯した大罪を心底憎んでいる。
フルトヴェングラーの世界的指揮者という立場に全く関心を示さず、ナチスを支持して庇護を受けた芸術家としてのフルトヴェングラーは、憎むべき容疑者の一人に過ぎなかった。
タマーラ・ザックスが彼が戦時中数々のユダヤ人音楽家を国外へ脱出させたことや、ヘルムート・ローデが彼はナチスやヒトラーに対して一貫して批判的であり非協力的であったと証言しても全く耳を貸さない。
アーノルドの追及は、フルトヴェングラーがヒトラーの誕生日記念コンサートでベートーヴェンの第九を指揮し、ヒトラーと握手をしていたこと。カラヤンに対する嫉妬心や女好きであったことなど、驚愕の真実をあぶり出してゆく。
その執拗な追及の手に、フルトヴェングラーも次第に冷静さを失っていく。
しかしアーノルド少佐による人間の尊厳を無視したような彼の追及の仕方、ナチスへの憎悪にかられた偏狭な判断に疑問を持ちはじめた部下や助手たちは、やがてフルトヴェングラーを擁護し始める。
それでも「ナチを憎むがゆえの審判なのだ……」追及を続けていくアーノルド少佐。
その結末は・・・。

このドラマは芸術と政治は完全に分離できるのか、専制政治下で良心を貫くことができるのかを問いかけている。
あるいは絶対的正義は存在するのか、勝者が敗者を裁けるのかといった重いテーマを観客に投げかけている。
この事は劇中のセリフの中にも示されている。
スティーヴ・アーノルド少佐「俺たちはここで堕落した奴らを扱っているんだぞ。忘れちゃいかんのはそれだけだ。俺はこの目で見て来たんだ。」
タマーラ・ザックス「どうしたら真実が見つけられるんですか? そんなものありません。誰の真実なのですか? 勝った者の? 敗けた者の?」
ディヴィッド・ウィルズ中尉「反ユダヤ的発言をしたことがない非ユダヤ人がいたら見せてください。そうしたら至上の楽園にお連れしますよ。」
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー「わたしの唯一の関心事は、音楽の最高水準を維持することだった。それがわたしの使命だと思っている。」
これらのテーマは映画「ニュールンベルグ裁判」や、井上ひさしの戯曲「東京裁判三部作」にも通底する。

この劇の優れた点は今なお私たち一人一人にとって大きな課題を突き付けているだけではなく、そうしたテーマを掲げながら面白い作品に仕立てたことにある。
アーノルド大佐の執拗な姿勢は時に喜劇的に映るし、フルトヴェングラーの私的スキャンダルでは人間誰しも弱点があるのだと妙に納得してしまう。
登場人物がいずれも生身の人間として描かれているからこそ、見ていて飽きないし、ドラマの奥行きを深いものにしている。

出演者はいずれも芸達者で、適役。
なかでも筧利夫の好演が目を引いた。劇中のセリフの約半分をこの人ひとりで喋ってるのではと思う程の膨大なセリフをこなしていた。しかもいずれも感情をこめて。
他の人のセリフを聴いている時の表情や姿勢も良い。
こんなに上手い人だとは思わなかった。
フルトヴェングラーを演じた平幹二朗は、この人以外に演じる役者がいないのではと思わせていた。
セリフのトーンが他の俳優とは異なるが、そこが却って偉大な指揮者という人物を浮かび上がらせていた。

東京公演は2月11日まで。
10日限りの公演はもったいない気がする。

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