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2013/03/22

ネット社会への警鐘「スケアクロウ」

L.A.市警刑事ハリー・ボッシュ・シリーズでお馴染みのマイケル・コナリーの最新作は「スケアクロウ」。
主人公はロサンジェルス・タイムズの記者ジャック・マカヴォイ、第一作から実に13年ぶりの登場だ。
前作ではスクープをものにして一躍花形記者になったマカヴォイだが、その後これといった活躍もなく、ロサンジェルス・タイムズの経営不振(これは本当のこと)の煽りで解雇を言い渡されてしまう。
そんなおり、殺人事件で逮捕された少年の祖母から無実を訴える電話があり、退職までの短い期間で真実をつきとめるべく取材を始めるが、その裏には狡猾な天才ハッカーの存在が・・・。

日本でもつい先日、PCを不正に操作され誤認逮捕された事件があったが、原書が2009年に公刊された本書はそれを先取りしていたかのようだ。
改めてネット社会の恐ろしさを自覚させてくれた事件でもある。
この著作の末尾に、著者との質疑応答という章が設けられていて、その中でマイケル・コナリーは質問に対して次のように答えている。

Q.新聞と、日刊の印刷媒体の衰退に関して、あなたが抱えているもっとも大きな恐怖はなんでしょう?
「オンライン・ニュースへの移行は理解していますし、受容すらしています。心配しているのは、報道の信憑性と、社会の木鐸的存在の喪失です。だれでもウェブサイトをはじめて、ブログを書き、ジャーナリストを自称することができます。ですが、新聞社は、ジャーナリストとしての一定の規範と要諦をもつ組織です。また地域共同体のニュース報道の中心でもあります。通常、新聞は、重要なことやニュースに値するものを広く知らしめるようになっています。そうしたことの多くが失われてしまうでしょう。ニュースの中心点は存在しなくなる。無数のウェブサイトが林立し、人々はおそらくそれぞれの政治的信条に合うものを選ぶようになるでしょう。最終的には、損をするのは一般の人々なのです。新聞業界で失業したわたしの友人は、政府の腐敗が成長産業になると賭けてもいいと口癖のように言っています。現在新聞社にいるような、不正の監視人がいなくなるからとのことです。山ほどあるニュース・ウェブサイトやブロガーが、ワシントン・ポスト紙やほかの新聞がニクソンを倒したように、腐敗した大統領をその座から引きずりおろすことができるでしょうか。現時点では、わたしはそれを疑わしく思っています。」

いまネットではマスメディアに対する批判が広く行われている。
マスコミならぬマスゴミなどと呼ばれ、全ての記事が信用置けないといった極論もまかり通っているようだ。
しかしマスメディアが過去に行ってきた積極的役割は正当に評価すべきだし、いまも虚偽の記事ばかり掲載しているわけではない。
私事にわたり恐縮だが、中学生の頃に学校新聞に対抗して「生徒会新聞」を発行したことがある。
その際、新聞記者としての取材方法や記事の書き方について本を読んだり、毎日新聞社に出かけて行って記者の方々から指導も受けた。
少なくともジャーナリスト(というほどの大袈裟なもんじゃないが)としての初歩の心得みたいなものは学んだ上で記事を書いていたつもりだ。
しかし、ネットに溢れるニュースやブログのサイトを見ると、そうした規範が守られていないものが大半だ。
だからマスメディアは駄目で、ネットの情報しか信用できないという考え方には同調できない。

ネットの危険性について、作者は本文中の登場人物にこう語らせている。
「特殊な考えを共有する人と出会うことは、そうした考えを正当化するのに役立つ。人間を大胆にする。ときには、行動せよと天の声になる。」
ネットの情報は「もろ刃の剣」であることは常に自覚しておかねばなるまい。

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コメント

ほめ・くさんもマイクル・コナリーのファンのようで、非常にうれしいです。
ボッシュのシリーズはもちろん結構、今回ご紹介されたマカヴォイ、そして「心臓の痛み」の映画でイーストウッドが演じたマッケレイブ、加えて今乗りに乗っている「リンカーン弁護士」など、どのシリーズも楽しいですよね。
女性も活躍しますし、ほぼ同年代の作家として、全作品読んでいます。
そして、ネット時代の問題、こちらも大事です。

小言幸兵衛様
まさにマイクル・コナリーは「乗りに乗ってる」という表現がピッタリです。
ミステリー作家の中でもコナリーやヘニング・マンケル、スティーブン・ブースらの、その社会や、そこに住む人間像が丁寧に描かれている作品に魅かれます。
幸兵衛さんも落語のみならずミステリーからジャズと趣味が広いですね。

この記事リンクさせていただきました。悪しからず。

佐平次様
先日JR東日本がIC乗車カードの情報を日立に販売していたことが明らかになりました。
これからマイナンバー制度の運用が始まると、犯罪捜査を口実にして、こうした個人情報が政府に一元化される恐れがあります。
マイケル・コナリーやジェフリー・ディーヴァーらの作品が、こうした問題に対する警鐘を鳴らしていると思います。

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