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2013/05/12

前進座五月国立劇場公演(2013/5/11・昼)前篇

5月11日、前進座五月国立劇場公演・昼の部へ。今回の演目は『元禄忠臣蔵―御浜御殿綱豊卿』と『一本刀土俵入り』という、前進座十八番ともいうべき狂言を並べた。
いま新しい歌舞伎座のこけら落し公演に沸く歌舞伎界だが、名優の相次ぐ死去とそれに伴う芸の継承への不安、他の演劇に比べ観客の年齢層が高いといった問題を内在している。
前進座もその例にもれず、同様の課題を抱えているようにみえる。第二世代の多くが現役を去り、第三世代の若手中心の舞台に切り替えつつある劇団として、これから真価が問われる。
長くなるので2回に分け、今回は最初の演目から。

『元禄忠臣蔵―御浜御殿綱豊卿』
作:真山青果
演出:十島英明
<  主な配役  >
徳川綱豊:嵐圭史
富森助右衛門:嵐芳三郎
中臈・お喜世:河原崎國太郎
右筆・江島:山崎辰三郎
年寄・浦尾:藤川矢之輔
新井勘解由:武井茂
小谷甚内:中村梅之助

『仮名手本忠臣蔵』と異なり、真山青果により史実を元に(むろんフィクションだが)書かれた『元禄忠臣蔵』は全体に地味な場面が多いのだが、この『御浜御殿綱豊卿』の場だけは華やかで、独自に上演される機会が多い。
物語は。
甲府藩主・徳川綱豊の御浜御殿では、奥女中はじめ奉公人たちの年に一度の楽しみ「お浜遊び」が賑やかに催されていた。この日の客に吉良上野介がいることを知った赤穂浪士・富森助右衛門は、何としても一目仇の顔を見ておきたくて、義姉の中臈・お喜世の伝手でこの会場へまぎれ込もうとする。
それを知った綱豊は、浪士たちの動静や仇討の覚悟のほどを助右衛門に語らせようと挑発する。どうにか耐えた助右衛門であったが、綱豊の口から仇討の機会が奪われかねない事態を知り、一人吉良を討とうと決意する。
お喜世からこよい能の『船弁慶』が舞われ、吉良上野介が知盛に扮することを聞かされた助右衛門、やがて知盛の面をかぶった男に槍を刺しかかる。しかし面が外れと、それは綱豊。助右衛門を引き据えた綱豊は、仇討の本分は浪士一同が大義の上に立って至誠を尽くすことにあると諭す。

5代将軍・綱吉の時代が終りに近づき、施政に対する不満が渦巻きつつあった。次期将軍の本命視されていた綱豊は一方で遊びにふけって御上を油断させながら、もう一方で赤穂浪士たちの討ち入りに期待する。
現代にも通じる政権末期の一般的な動きでもある。
綱豊が、大石らの浪士たちが一方で浅野家の再興を願い出ておきながら、もう一方で仇討の準備を進めるのは矛盾していると指摘するが、これもまた道理だ。
この二人の対決は、吉良を討ちたい一心の浪士と、国の行く末を大きく見ている次期将軍との立場の相違だ。その息詰まる対決の中でお互いの思いが交差する、実に良く出来た作劇だ。
また登場人物のうち、綱豊が後の六代将軍家宣であり、お喜世は七代将軍のご生母・月光院としてやがて権勢をふるうことになる。
右筆・江島は、その後有名な「江島・生島」事件を引き起こす。
新井勘解由の号は白石、後に将軍側近として政治改革を行った。
助右衛門は討ち入りの中心的人物の一人となる。
つまり役者が揃っているのだ。
加えて「御浜」が現在の「浜離宮」とくれば、観客としてはこの芝居を身近に感じざるを得ない。

もうひとつこの芝居の大きな要素として、まるで『仮名手本忠臣蔵』の七段目をなぞったような作りになっていることだ。
「祇園一力」が「御浜」、酒色にふける大石が綱豊、お軽・平右衛門がお喜世・助右衛門に、それぞれ入れ替わっている。
昭和に作られた史劇というだけではなく、歌舞伎の伝統的手法を基本に据えているのがこの芝居の特長だ。

もう一つ付け加えると、本筋とは離れるが、御浜御殿の遊びの場面で奥女中たちが様々な趣向を凝らす。
その中で女性が男装して歌い踊るシーンがあるが、これについて作者は女優が演じるようにという指定をしているとのこと。こうなると劇団に女優のいる前進座は強みだ。
おじゃれ(今村文美)と、よかん平(北澤知奈美)の掛け合いや、飛脚(横澤寛美)のユーモラスな踊りは観客の目を楽しませていた。
女優のいない歌舞伎では真似のできないところだ。

出演者では、先ず綱豊を演じた嵐圭史の風格と人物の大きさがこの舞台を締めていた。七段目の大石とは違い大大名、その肚が見せられなければこの役は務まらない。殺陣の後で少々息が上がってしまったのは年齢のせいか。
助右衛門の嵐芳三郎は、初役とは思えぬ充実した舞台だった。綱豊の挑発に揺れ動く心理、主君の無念や大石への思いを見事に表現していた。立て役としては小柄なのが惜しまれが、こればかりは致し方ない。
お喜世の河原崎國太郎には奥女中でありながらどこか町家の出という面影を残していた。

『一本刀土俵入り』は明日の後編へ。

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