前進座五月国立劇場公演(2013/5/11・昼)後編
二番目狂言は『一本刀土俵入り』、長谷川伸の代表作であり、歌舞伎でも度々上演されているし映画化もされている。なかには芝居は知らないが歌謡曲なら知っているという方もおられるだろう。三橋美智也の「角力名のりをやくざに代えて・・・」や、三波春夫の「千両万両積んだとて・・・」などがヒットしている。
この芝居、かつて二代目尾上松緑の茂兵衛、七代目尾上梅幸のお蔦という名優コンビによる舞台を観ている。特に松緑の演技は六代目菊五郎生き写しと絶賛されていた。
この物語、どうやらモデルがいるらしい。
前橋市の駒形町という地名があり、市内には「茂兵衛地蔵」が祀られており、百姓一揆の指導者として茂兵衛が処刑されたという伝説が残されているとのこと。若いころ江戸に出て相撲取りになるのを目指していたことにヒントを得て、長谷川伸がこの物語を書いたようだ。
『一本刀土俵入り』
作:長谷川伸
演出:平田兼三
< 主な配役 >
駒形茂兵衛:藤川矢之輔
お蔦:河原崎國太郎
船印彫辰三郎:高橋祐一郎
船戸の弥八:益城宏
波一里儀十:松浦豊和
いわしの北:中嶋宏太郎
物語は。
大利根の渡しに近い取手の宿。土地のやくざ弥八が往来の人々に因縁をつけ大暴れ。
そこへ通りかかった取的・茂兵衛が弥八を追い払う。一部始終を安孫子屋の二階から見ていた酌婦お蔦は茂兵衛を呼び止め話をきくと、江戸相撲の巡業先で親方に見放され、ひとまず江戸へ舞い戻る途中だった。家も親兄弟もない。母の墓の前で横綱の土俵入りをすることだけが夢だという。
流れ者のお蔦もホロリとし、自分の故郷八尾名物の越中小原節を唄ってきかせる。お蔦はきっと横綱に出世しておくれと茂兵衛を励まし、巾着に櫛、簪を添えて渡す。
それから十年後。
船大工の所へ渡世人が通りかかり、かつての安孫子屋やお蔦のことを尋ねる。この男こそ相撲取りからヤクザに身を落とした駒形茂兵衛だった。
一方お蔦は取手のはずれの一軒家で娘と二人で、飴売りで細々と暮らしている。
そこへ流れ者の職人辰三郎が、お蔦と身を固めるべく戻ってくる。帰途、まとまった金欲しさに土地の賭場でイカサマを振り、今は追われる身。
親子三人でお蔦の故郷に逃げる相談をしていると、お君が母親の国の唄をうたった。その時、家の戸を叩く者があった。唄をたよりにお蔦の行方をたずねてきた茂兵衛だった。恩返しに金を差し出しが、お蔦には誰だけ分からない。
茂兵衛は立ち去ろうとした時に、辰三郎を追ってきた土地の親分儀十一味がお蔦の家を取り囲んだ。茂兵衛が三人に家の中にいるよう声を掛け四股を踏むと、そこでお蔦が茂兵衛と気付く。
奮戦のすえ一味を倒し、お蔦たちを逃してやる茂兵衛。これが十年前巾着ぐるみ意見を貰ったお蔦にせめて見て貰う、横綱の土俵入りだった。
こうストーリーを書いていても、実に良く出来た作品だと思う。
一番の見せどころは、前半の何とも頼りない取的姿から、後半の颯爽とした股旅姿への鮮やかな変身だ。お蔦が気付かないのも無理はない。
そのお蔦も、前半の蓮っ葉な酌婦(宿場女郎)から堅気のお上さんに変る。つまり二人の立場は10年後に入れ替わるわけだ。
茂兵衛を演じた藤川矢之輔は熱演だったが、もう少し立役としての華が欲しい。この点は現在の前進座の大きな課題だ。
対するお蔦役の河原崎國太郎は、安孫子屋の二階の場面で何とも言えない風情があった。三味線を弾く背中に寂しさが漂っていた。茂兵衛の身の上話を聴いて涙する所で、お蔦は堅気になる決心をするのだろう。
船大工やヤクザの子分たちといった脇がしっかりと固めていた。
歌舞伎座のこけら落し公演より、きっとこちらの方が上だったのでは。あっちは観てないけど。
公演は22日まで。
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