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2013/08/27

「ザ・ベスト・オブ・白酒」(2013/8/26)

8月26日、"SHIBUYA PLEASURE PLEASURE Mt.RAINIER HALL"(これ、日本ですよ)で行われた”第3回Mt.RAINIER落語会「ザ・ベスト・オブ・白酒」”。渋谷の道玄坂に入ってすぐのビルの6階、普段はコンサートホールとして使われているようだ。
会のタイトルの「ベスト」の意味だが、この会の主催者・広瀬和生氏が選んだ演目(だしもの)という意味らしい。
チラシに書かれた広瀬氏の文章では
【江戸落語の枠組みに強烈なギャグと鋭い毒を織り交ぜ、現代人が普遍的に笑える噺を高いクオリティで提供する「古典落語のニューウエーブの旗手」桃月庵白酒の神髄を、とくと御堪能いただきたい。】
とあった。
ここまで言われたら、白酒さん、以って瞑すべしだ。

<  番組  >
三遊亭たん丈「出来心」
桃月庵白酒「臆病源兵衛」
桃月庵白酒「火焔太鼓」
~仲入り~
桃月庵白酒「船徳」

人間、好きなことが出来るというほど幸せなことはない。だが世の中の大半の人は、こと志と違った道を歩んでいるのではなかろか。
そういう意味で、噺家に限ってはほぼ全員が好きでなっているのだろう。
しかし人間には向き不向きがあり、落語家にしても本人の適性と職業が一致するとは限らない。
別に他意はない、これは独り言。

そこいくと白酒の場合は根っからの芸人だ。この人なら他の芸能に行っても成功しただろう。それだけ放つキャラが強烈なのだ。
二人会を組んだ相手の噺家が、白酒とはやりにくいと高座で語ることがあるが、あれは半分は本音だと踏んでいる。
私の見立てでは白酒の特長は、登場人物の性格を誇張あるいは戯画化し、そこに現代的なギャグで味付けしているというものだ。白酒の「毒」はよくいわれるが専らマクラの部分であり、ネタそのもに「毒」があるとは思えない。
その成功例が「松曳き」であり「徳ちゃん」であり「木乃伊取り」「山崎屋」などだ。
反面、そうした強烈な個性が古典オリジナルの情緒を損なうこともある。この辺りはメダルの表裏の関係で、後は好みの問題でもある。
私がもし白酒の三席を選ぶとしたら、この日の演目は入らない。

白酒の1席目「臆病源兵衛」
白酒はしばしば前に上がった若手(前座or二ツ目)をイジルが、あれはやめた方がいい。フォローのつもりかも知れないが、同業者を貶すというのはどうも後味が悪い。言わずとも客は分かってる。
ネタは大師匠の馬生が演じていご絶えていたのを白酒が復活させたもの。
源兵衛の臆病ぶりが誇張して描かれ、一段と面白い噺に仕立てのは白酒の功績。
ただ好みからいえば、先日の鈴本での弟弟子・馬石の高座の方が、先代馬生を彷彿とさせていて良かったように思う。

白酒の2席目「火焔太鼓」
半鐘どころか火の見櫓さえ無くなってしまい(子供のころは東京でも見られた)、「おジャンになる」という言葉も死語になってしまった昨今、こういうネタはやりにくかろう。
サディスティックな女房と小心翼々たる甚兵衛とをより極端に対比させた、白酒の力技を見せつけるネタだが、この日は言い間違いや小さなミスが目立ち、出来としては良くなかった。
甚兵衛が隠居に売った火鉢を倍値で買い戻すというギャグも感心しない。

白酒の3席目「船徳」
師匠の雲助もそうだが、大師匠より志ん朝の演出をベースにしている。
徳が親方に船頭になりたいと頼むとき船頭の社会的役割を説いて説得する場面や、船の竿を魯に替えるとき懐からマニュアルを取り出して読む場面、徳が「助けて~」と叫ぶと近くにいた女衆が声をそろえて「徳さん、がんばってぇ」と声援をおくる場面、疲れて立ち往生した徳が「向いてないのかなぁ」と呟く場面が独自の演出。
全体に徳のヘバリ具合が強調されていて、それに高座の白酒の姿が二重写しとなり客席の共感をよんでいた。
二人の客の造形も良く出来ていて好演、期待に違わぬ高座だった。

白酒の体が動くたびにギシギシなる高座、あれは何とかならないのか。
落語会を開く以上、こうした点にこそ神経を使わねばなるまい。

【記事の訂正】
”「臆病源兵衛」を白酒が復活させた”という記事について、泥水さんからご指摘を受けて調べたところ、師匠・雲助が復活させてもののようです。
雲助の2005年7月16日「第53回朝日名人会」での音源がCDとして発売されており、当方の誤りとして訂正いたします。

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コメント

白酒の初体験は数年前「臆病源兵衛」でした。
汗びっしょりの熱演、爆笑しました。

佐平次様
ご覧になったのはたぶん落語研究会だと推測します。
であれば、先代馬生の絶えていたネタを掘り起こした記念すべき高座ということになります。
もっとも白酒の汗は年中無休ですが。

以下のご説明、白酒のところに他の落語家に名前を入れても、かなりあてはまるんじゃないでしょうか。

私の見立てでは白酒の特長は、登場人物の性格を誇張あるいは戯画化し、そこに現代的なギャグで味付けしているというものだ。(中略)反面、そうした強烈な個性が古典オリジナルの情緒を損なうこともある。

確かに後者の弊は免れがたく、難しい問題ですね。
許容範囲とそれを超えたものとがあると感じます。

こんにちは。
臆病源兵衛は雲助さんを経由したものだと思いますよ。それにしても広瀬氏、少しばかり持ち上げ過ぎじゃぁなにのかと・・・(笑)

福様
確かに共通点かもしれません。
ただ喬太郎や三三になると少し異なると思われます。喬太郎が演じる「按摩の炬燵」や「心眼」など一連の盲人を主人公にしたネタにはそうした傾向は影を潜めているし、三三も人情噺ではそうした傾向は見られません。
白酒については、全体的にその傾向が顕著だという言い方の方が正確でしたか。

泥水様
有難うございます。
調べたらご指摘のように雲助から白酒はじめ一門に伝わったようです。
後で記事を訂正します。
この会、毎回出演者が変わるので、その度ごとに「褒めすぎ」しているんだと思います。

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