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2013/08/06

こまつ座「頭痛肩こり樋口一葉」(2013/8/5)

8月5日、紀伊国屋サザンシアターでの”こまつ座第100回記念公演「頭痛肩こり樋口一葉」”を観劇。
既に東京公演の前売りは完売し劇場入り口には「満員御礼」の札が下がる、大変な人気だ。
主役に小泉今日子を起用したのも人気を後押ししたのだろう。NHKの朝ドラ「あまちゃん」に出演し(当方は未見だが)好評を博しているそうで、興行的には成功したわけだ。
ただ芝居としての出来いかんは別物で、その辺りも注目される。
初演は29年前の旗揚げ公演だそうで、100回めも同じ演目を選んだことになる。演出の栗山民也によれば、作者の井上ひさしは新たな劇団を組織するにあたり、予算を節約するために登場人物を少なくし、舞台の大きな転換のない一杯飾りに設定したとある。
そういう意味では井上ひさしの転換期の作品といえよう。

作: 井上ひさし
演出:栗山民也
<  キャスト  >
小泉今日子:樋口夏子(一葉)
三田和代:母・多喜 
深谷美歩:妹・邦子 
愛華みれ:稲葉鑛(コウ) 
熊谷真実:中野八重
若村麻由美:花蛍

樋口一葉は明治5年生まれ、父親は直参の下級武士だったが維新とともに失職、武士の商法も上手くいかず一家は困窮。おまけにその父と長兄が相次いで死に、15歳で一葉は相続戸主となり、一家の扶養と借財の返済と言う義務を負わされる。
その一方で、当時の女性は依然として「三従七去」(詳しくは三遊亭圓生のCDで聴いて)という女の生き方を押しつけられていた、そういう時代。
一葉は小学校を中退させられるが早くから才気煥発、始めは和歌の道を志す。ここで当時の上流階級の人たちの生活に接する。
しかし和歌では飯が食えないと分かると一念発起して小説家を目指すが、稿料だけで生計を維持するのは至難の業だ。仕方なく吉原の近くの下谷龍泉寺町に借家し、荒物と駄菓子の店を開く。生活は好転しなかったが、ここで芸妓や娼婦たちの生態を観察したのが、その後の小説の中で活かされる。
明治29年11月、肺結核におかされた一葉は24歳6か月の若さで亡くなる。

舞台は樋口夏子(一葉)が19歳の明治23年から、母・多喜の新盆である明治31年(夏子も既に死去)まで、時節は一場面を除き全てお盆の16日の夕方。場所はそれぞれの時の夏子の借家。
登場人物は6人で全て女性、花蛍だけは幽霊で実在は5人。
5人ともかつては士族の家族で安定した暮らしをしていたが、今では日々の生活費にも困り借金をしながら日々を過ごす毎日だ。
そして彼のたちの後ろには常に男たちの影があり、それは夫であったり恋人であったりだが、そうした男たちによる「女はかくあるべし」という押し付けと、女性として自立したいという希望との葛藤がこの芝居の一つのテーマとなっている。
登場人物が一葉の作品のどのモデルになっているかを探すのも楽しみの一つだ。
幽霊の花蛍が自分をこんな目に追い込んだ人物を訪ねて恨みをぶつけるのだが、相手の言い分を聞くうちにこのままでは世の中すべてを恨まねばならないことに気付く。このことは5人の女性たちはそれぞれに不孝なのだが、詰まるところ明治維新という大きな社会変革に押しつぶされた結果であることを示唆している。
最後は妹・邦子を除く全員が亡くなっていくのだが、この芝居はその生と死の物語でもある。
こうした悲劇的で重層的なテーマを描きながら、井上の戯曲は常に笑いを忘れず楽しい舞台を創りあげている。

しかし林芙美子の後半生を描いた「太鼓たたいて笛ふいて」や、太宰治の半生を描いた「人間合格」に比べると、心に響くものが弱い。井上ひさし作品の中では「中位」に属するものと思われる。

主役の小泉今日子は熱演だったが、やはりミスキャストと言わざるを得ない。一葉に求められるのはもっと繊細で知的で感受性の強い女性像ではあるまいか。
それとやや舌たらずのしゃべりは、江戸言葉にふさわしくない。
母親役の三田和代の演技は素晴らしい。彼女が登場すると舞台は締まる。この舞台は三田和代の芝居といっても過言ではない。
花蛍を演じた若村麻由美はひたすら美しい、そして華やかで色っぽい。彼女の存在がこの舞台を明るく楽しいものにしていた。

公演は8月27日まで各地で。

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コメント

お帰んなさい。
これは見たような見てないような、、みてもあまり印象が強くなかったのかもしれないです。

佐平次様
ひっそりと再開です。
この芝居、主役が良ければもっと印象は違ったかも知れません。

ブログの再開、うれしい限りです。

小泉今日子、そうでしたか。
朝ドラで見せる気の強いママ役は似合ってますが・・・

私の一葉のイメージは新珠三千代です。

福様
作家を演じる役者は観客にこの人は確かに作家だと思わせなければいけません。
小泉今日子にはそれが感じられなかったんです。
あのシャベリも何とかならないでしょうか。

遅ればせながら、再開おめでとうございます。
この作品は、『藪原検校』共々木村光一演出で何回か観て、紛れもない井上芝居の代表作の1つと確信しているのですが・・・(劇団大阪でも結構やっています)。今回もなかなか厳しい評価ですね。
今度の公演は残念ながら観られないのですが、ほめ・くさんの評を拝見すると、どうも今のこまつ座の商業化が弱さにつながっているようにも思えます。

こまつ座の一葉役は、香野百合子・日下由美といった地道な美人女優が控え目に演じていたせいか、原田美枝子で観た時も大人し目に見えましたが・・・。
新派で上演した時の波乃久里子は、さすがに実年齢を超越して、群を抜いた存在感がありました。
そして事故で降板した時以外は不動だった新橋耐子の花蛍は、ほめ・くさんに見て頂きたかったです。

明彦様
ここまでお詳しいとは、さすがというか、凄いですね。当方の劇評などちょっと気が引けます。
私見ですが、一葉の苦悩が今一つ描ききれてないように思うんです。
それは主役のミスキャストに原因するのかも知れませんが。
こまつ座の商業化はご指摘の通りで、今の主宰者の方針かも知れませんね。
作者の思惑とは離れてきているように感じます。

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