#11「らくご古金亭」(2013/9/14)
9月14日、湯島天神参集殿で行われた第十一回「らくご古金亭」へ。
今回は「志ん生没後四十年・志ん朝十三回忌・圓菊一周忌・三師追善公演」と題した企画。会場はほぼ満席。
この会は雲助、当代馬生を中心に、志ん生と先代馬生の演じたネタだけを掛けるという会だが、今回は加えて志ん朝、圓菊の十八番が掛けられた。
前座・古今亭駒松「狸札」
< 番組 >
金原亭馬治「花筏」
古今亭菊志ん「厩火事」*ゲスト
金原亭馬生「宿屋の富」
~仲入り~
古今亭志ん輔「明烏」*ゲスト
五街道雲助「妾馬(通し)」
「三師追善座談会」司会・馬生、雲助、志ん輔、菊志ん
この会は自由席だが、チケットに予め番号がふられ、その順番に入場して座席に座るというシステム。
いつも寄席や落語会で顔を見る人が仕切っていた。
お客の多くは毎度お馴染みさんで、とても良い雰囲気だ。
真打の4人はいずれも師匠(雲助は「一丁入り」)の出囃子での登場。
馬治「花筏」
馬生の弟子の二ツ目はこの人と馬吉しかいないので毎回交互に上がっている、つまりは準レギュラー。なかでも馬治は師匠の前名を名乗っているので期待も大きいのだろう。
大師匠、師匠と受け継がれてきたユッタリとした語り口で、よけいなクスグリを入れずに真っ直ぐな高座。二ツ目で10年なので、そろそろ真打の声がかかって良い時期に来ている。
菊志ん「厩火事」
実力者揃いの圓菊一門からこの日は代表して菊志ん。菊之丞や文菊といった人気者の陰にいるが、私はこの人がナンバー・ワン(英語知ってるんだから恐ろしい)だと思っている。
圓菊の「厩火事」は残念ながら生で聴いていないが、菊志んの高座はほぼ師匠の演出を踏襲しているようだ。
特長は先ずお崎さんが一段と可愛らしくて色っぽい。そりゃそうだろう。7つも年下の男に結婚を迫り、今では文字通り髪結いの亭主として養っているんだから。色は年増にとどめさすなのだ。
兄いのところに押しかけ、「今日こそは愛想もこそも尽き果てた」と愚痴をこぼすのだが、「それじゃ別れなさい」なんて言われりゃ反発し、亭主のノロケさえ言い始めるのだ。直接的には表現していないが、この亭主はいわゆる「床上手」なのだろう。
私の解釈ではこのネタは限りなく艶笑噺に近い。おそらく圓菊の解釈もそうなのだと思う。
他に特長といえば、お崎の留守に亭主が一杯飲るときの肴が刺身ではなく牛鍋。という事は季節は秋か冬、だから喧嘩の原因も朝飯のおかずが鮭の塩焼きか芋の煮ころがしでの言い争いが元になっている。
お崎の不安というのは、心の内を明かさない亭主の本心だ。それを悟った兄いはモロコシの厩火事と麹町のさる殿様を例に出して、亭主に選択させるよう勧める。
圓菊ゆずりの色っぽいお崎、誠に結構でした。
馬生「宿屋の富」
2番富に当たると信じている男の妄想を聞かせどころをしている点、男が500両を入れた大きな財布をどんと投げだすと女が一尺ほど飛び上がるという場面から、大師匠や師匠より志ん朝の演出に近いと思われる。
馬生は何を演じても品があるのが特長で、それが時に物足りなさに感じられる場合もある。
志ん輔「明烏」
通常、真打ともなると定番のマクラを持っているのだが、志ん輔にはそういうものが見当たらない。その場の思い付きのように感じてしまうマクラが多く、それも魅力の一つではある。そのせいかどうかは分からないが、しばしばネタに入ってからの出だしが鈍く感じられる時がある。この日も父親が時次郎に説教して「御稲荷さん」送り出すまでがややモタモタした印象があった。その影響だろうか、御稲荷さんの場所を「観音様の裏って」とすべき所を「吉原の裏って」とやってしまった。後半が良かっただけにミスが惜しまれる。
時次郎が宴席から引き出される場面では志ん朝は「二宮金次郎という人は・・・」と叫ぶのだが、志ん輔は「聞け万国の労働者・・・」と歌うという風に変えていた。
雲助「妾馬(通し)」
冒頭で、フルバージョンだと1時間かかってしまうので最初の井戸がえの場面をカットするとしてスタート。いつもながら雲助の「妾馬」は素晴らしい。当初の大家と八五郎との軽妙なやりとりから、八が屋敷に上がり殿様に御目通りするまでの緊張感から、酒に酔って一気に大胆になる変身ぶり。ここまでワッと笑わせておいて、妹や母親への細かな情愛を示して八五郎の優しい一面を見せ、ここだけは人情噺風に仕立てる。他に噺家はめったに演らない後編も、この人らしく軽やかに仕上げていた。
志ん生と圓生のいいとこ取りをしたような演出で、このネタに関して現役で雲助に対抗しうる人はおるまい。
「三師追善座談会」
志ん生の将棋が汚い手を使っていたとエピソードが紹介されていた。相手がちょっと横を向くとその隙にいきなり角が成っていたり、盤上の香車をそっと抜き取って持ち駒にしておいて、いきなり打ってきたりという具合。志ん生にとっては将棋も洒落だったんだろう。
それに付きあった甲斐があったのか、志ん生の形見分けの将棋盤が志ん輔の家にあるそうだ。
志ん朝の思い出では、自宅では面白い事は一切言わず、ごく普通の人だったようだ。酔うと芸論を語り出しとまらなくなる。その点は兄馬生とは正反対だったようだ。
志ん朝が健在だったら今年で75歳、どんな高座を見せてくれていたかと思うと、やはり残念でならない。
圓菊のエピソードでは例の腕を振り回すようなアクションが特長だったが、自分の鼻を殴ってしまいっ高座で鼻血を出したことが二度あったそうだ。私が最後にみた高座は鈴本での「粗忽の釘」だったが、同じ場面を二度繰り返していて大丈夫かなと案じていた。
圓菊として寄席の最後の高座は浅草演芸ホールでの一門会で、その時は「厩火事」を演じたがやはり同じ所を何度も繰り返してしまい、途中で弟子に止められた由。
いずれ私もブログで何回も同じ記事を書くことになるかも知れないが、その時はヤツももう終わりかと思ってください。
これからの古金亭のスケジュールが発表されているので、ご参考までに。
第12回 2013/12/14
第13回 2014/3/15
第14回 2014/6/14
第15回 2014/9/13
第16回 2014/12/20
いずれも土曜日、17時30分の開演予定。
« みのもんた次男逮捕事件の「藪の中」 | トップページ | 【秘密保護法案】パブリックコメントは今日17日が締め切り »
「寄席・落語」カテゴリの記事
- 祝!真打昇進 立川小春志、三遊亭わん丈(2023.11.02)
- 落語『鼠穴』のキズと権太楼による改変(2023.11.01)
- (続)この演者にはこの噺(2023.09.03)
- 素噺と音曲師(2023.08.30)
- 落語『永代橋』(2023.08.05)
コメント
« みのもんた次男逮捕事件の「藪の中」 | トップページ | 【秘密保護法案】パブリックコメントは今日17日が締め切り »
気になっていながら縁のない落語会でした。
贅沢ですねえ。
圓菊がどうにもならない高座は私も末広亭だったかで目撃してます。
小沢昭一の繰り返しもそうでしたが年をとってからの退き時は難しいですね。
投稿: 佐平次 | 2013/09/15 10:22
佐平次様
早々に有難うございます。
はい、贅沢な会です。真打は全員30分(トリはもっと長い)演じるのでタップリです。ゲストも次回は小満ん、多彩な顔ぶれです。
投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2013/09/15 10:36