鈴本8月下席昼・楽日(2013/8/31)
鈴本演芸場8月下席昼の部は、古今亭文菊の初トリ。前を中堅とベテランで固めるという布陣。その楽日へ。
この日は代演が多かったにもかかわらず顔づけが良かったのか、一杯の入り。浴衣姿の女性が目に付いたのは時節柄か、文菊のお目当てか。
前座・柳家小はぜ「転失気」
< 番組 >
林家はな平「牛ほめ」
ストレート松浦「ジャグリング」
春風亭正朝「目黒のさんま」
林家正蔵「お菊の皿」
柳家小菊「粋曲」
柳家さん喬「そば清」
橘家圓太郎「祇園会」
ホームラン「漫才」
古今亭菊輔「七度狐(序)」
~仲入り~
ダーク広和「奇術」
柳家喜多八「鈴ヶ森」
橘家文左衛門「馬のす」
林家正楽「紙切り」
古今亭文菊「稽古屋」
真打の演目(だしもの)8席中、5席がこの季節に似合ったものというのが嬉しい。こういう季節感は大事にしたい。
前座の小はぜ、入門して間がないようだが喋りがしっかりしている。先ずは落語家として及第点。
はな平「牛ほめ」、華があるし語りが明るくて良い。ネタもムダな部分をカットし綺麗にまとめていた。
ストレート松浦「ジャグリング」、いつ見ても鮮やか。ひきだしが多いので毎回楽しませてくれる。
正朝「目黒のさんま」、本来は秋のネタだが、既に新物が店頭に並んでいるし立秋も過ぎているので、この時期にかけても不自然ではない。バカ殿ぶりが堂にいっていた。
正蔵「お菊の皿」、お菊を見に行った男が藪蚊に刺される描写を入れてより季節感を出していた。今日初めて気が付いたのだが、この人目の使い方が細かい。
小菊「粋曲」、ウットリ。でもこの芸、後継者がいないのが心配だ。
さん喬「そば清」、本来はやや後味の悪い噺なのだが、さん喬が演じるとこれが爽やかになる。この人は大ネタよりこういう短い高座の方が面白い。
圓太郎「祇園会」、お国自慢という他愛のない噺ながら、囃子の口真似や祭りの掛け声が腕の見せどころ。圓太郎は、嫌味な京男と気風の良い東男とを鮮やかに対比させていた。
ホームラン「漫才」、協会のベテラン漫才師が高齢や体調の関係で高座に上がれなくなってきつつある昨今、このコンビの存在感が増している。二人の面白さは芸人としての基礎ができているからだ。
菊輔「七度狐(序)」、独特の雰囲気と語りを持った人だ。時間の関係からかネタの山場で切れてしまったのが残念。
ダーク広和「奇術」、とにかく奇術が好きで好きで、客に受けるかどうかなんて、どうでも良いという芸風。そこが魅力でもあり、寄席芸人としての物足りなさを感じてしまう。
喜多八「鈴ヶ森」、十八番中の十八番。新米泥棒のドジぶりはこの人の右に出る者はいない。
文左衛門「馬のす」、特に季節は定めていないが、8代目文楽がしばしば夏場の高座にかけていた所から、この季節のネタという印象が強い。文楽とは芸風が正反対といっても良いのだが、これはこれで面白い。
正楽「紙切り」、この日のお題はディズニーランド、スカイツリー、猛暑。
文菊「稽古屋」、もう10年位真打をしているような堂々たる高座姿。
ストーリーは。
どうやったら女にモテルかと訊いた男に、隠居は人にまねのできない隠し芸がないのかと訊く。男は踊りなら町内でも三代目と答えるが、その踊りとは「宇治の名物蛍踊り」だという。部屋を暗くして尻に蝋燭を挟んで踊るというもの。
隠居はちゃんとした芸を身に着けるようアドバイス。横丁の「五目の師匠」(芸事一通り何でも教える)に弟子入りするよう勧める。
男は膝附と月謝の2円を借りて師匠のもとへ。
師匠が何をやりたいかと尋ねても、とにかく年増にモテルような芸というだけで要領をえない。
とりあえず清元の「喜撰」をということになった。
「世辞で丸めて浮気でこねて、小町桜のながめに飽かぬ……」と教えるがまるで調子はずれ。
呆れて、少女に「娘道成寺」の踊りを稽古するので、それを観ているように命じる。
師匠が稽古をつけていると、弟子の少女が泣いたり笑ったり。男が少女の焼き芋を喰ってしまったり、勝手にカッポレを踊ったりして邪魔ばかり。
師匠もこれでは無理かもしれないと、短い「すりばち」という上方唄の本を貸し、持って帰って高いところへ上がって、高い調子で練習するように勧める。
男は早速その晩、大屋根のてっぺんに登り、「えー、海山を、越えてこの世に住みなれて、煙が立つる…」と稽古を始めると、これを聞いた近所の若い衆が火事と間違え・・・。
このネタは音曲と踊りの素養がないと出来ないので、現役でも演じ手が少ない。
文菊は清元の一節を良い声で聴かせ、踊りでは色っぽさを見せて好演。しっかりした語り口と共に完成度の高い高座だった。
特に踊りの所作では、ファンと思しきご婦人たちから感嘆の声が上がっていた。
初トリの楽日にふさわしい文菊の芸、結構でした。
内容が充実しているから客が入るのか、客が入るから高座が充実するのか、その相互作用なのか。
いずれにしろ定席の公演としては今年のベスト。
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コメント
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幸兵衛さんも一緒だったようですね。
「稽古や」で踊りを小娘に教えるところはなんか別世界を垣間見るようで好きです。
これは志ん生はやらなかったのではないかな。
やったとしても文菊の色気はないでしょう。
投稿: 佐平次 | 2013/09/01 09:48
佐平次様
志ん生は確か踊りの場面は無かったように記憶しています。
現役では小朝、馬生といった辺りが得意としていますが、文菊のは負けず劣らずだと思います。
投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2013/09/01 10:16
いらっしゃったんですね。
気づきませんで、失礼しました。
なかなか出会えない寄席の一日だったような気がします。
代演の噺家さんを含め、皆さん旬の十八番
を披露してくれました。
文菊は楽日に『稽古屋』を残していたんですね。
それだけ思い入れが入っていたような気もします。
投稿: 小言幸兵衛 | 2013/09/01 16:39
小言幸兵衛様
代演が揃って熱演という嬉しい寄席でした。
例えば膝前の文左衛門「馬のす」では、馬が白馬であることを説明していたし、枝豆の食い方が丁寧で、文楽の芸をちゃんと踏襲しています。
若手を盛り立てていこうという熱意が感じられました。
トリの文菊はモノの違いを感じさせてくれました。やはり噺家には音曲と踊りは必要なんですね。
投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2013/09/01 17:27
そうそう、小朝のもよかったです。
色気たっぷりでした。
投稿: 佐平次 | 2013/09/02 10:36
佐平次様
こういう噺をさせると確かに小朝は上手い。
でも滅多に寄席に出ないのが気に入りませんね。
本来ならリーダー的存在として、落語界を引っ張ってゆく位置なんですから。
投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2013/09/02 11:14
小朝は今、鈴本に出ているようです。
時事ネタに富んだ漫談も楽しいですが、やはりテンポの良い古典が期待されます。
先代の小さんから、もっと寄席に出ろ、と言われていたと、何かで読んだ記憶がありますが、なにしろ独演会メインで、しかも来年は大河ドラマに出るそうですので、寄席にはますます出なくなるでしょうね。残念なことです。
投稿: 福 | 2013/09/03 07:05
福様
鈴本には久々の登場です。これがトリとなると思い出せないぐらい前になります。その時は「芝浜」をかけていましたが結構なものでした。
次回はもしかして”ぴっかり”の真打披露だったりして。
もう少し自からの立場を考えて、寄席に出て欲しいと思います。
投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2013/09/03 08:44