国立演芸場10月中席(2013/10/12)
10月12日、国立演芸場中席へ。
土曜日だというのに客席はガラガラ。近くの客が「どうしてこんなに少ないんでしょう」と言ったら、連れの人が「3連休だからかな」と答えていたが、それはあまり関係ないだろう。
顔づけは決して悪くない。
2000年初め頃からのいわゆる寄席ブーム落語ブームというのは、結局、一握りの人気者だけが異様に集客しただけで、それ以外はあまり変わらなかったというのが実状ではなかろうか。
国立はシルバー料金が1300円だ。この分じゃ出演者にいくらギャラが出るんだろうかと心配してしまった。
前座・柳家小かじ「道灌」
< 番組 >
鈴々舎馬るこ「平林」
三遊亭歌奴「佐野山」
ダーク広和「奇術」
宝井琴調「宇喜多秀家配所の月」
古今亭志ん弥「替り目」
-仲入り-
笑組「漫才」
橘家圓太郎「目黒のさんま」
柳家紫文「俗曲」
柳家小さん「寝床」
小かじ、協会の香盤で最下位、つまり一番新しい前座ということになる。三三の弟子らしいが、新人としては落ち着いた高座だった。
馬るこ「平林」
マクラで今年のNHK新人演芸大賞に出場すると言っていた。優勝を狙うと宣言していたが果たしてどうか。
この日もそうだったが古典を演じるにも一捻りして掛ける、典型的な「受け狙い」のタイプだ。
「唄入り平林」、よく受けていた。本流からは外れるが、こういう噺家がいても良い。
歌奴「佐野山」、別名「谷風の人情相撲」
この人の大らかで明るい芸風は将来性を感じさせる。もし圓歌を継ぐようなことがあるなら当代より2代目に近くなると思われる。
こういう相撲ネタとなると、やはり歌奴のような相撲好きでないとダメだ。呼び出しや行司の声色が良かった。
ダーク広和「奇術」
紐を使った手品、いつ見ても鮮やかだが、いかんせん地味だねぇ。
琴調「宇喜多秀家配所の月」
関ヶ原の合戦で西軍の副大将を務たが敗れて、公式史上初の流人として八丈島へ配流となった宇喜多秀家。
偶然嵐のため八丈島に退避していた福島正則の家臣に、酒を恵んでもらったという故事に因んだ一席。
落語と違って英雄豪傑を対象にしている講談が、かつての面影をなくしているが、その中で琴調が評価と人気を保っているのには理由がある。一口にいえば寄席の色物としての講釈に徹しているからだと思う。言い換えれば落語を聴きにきたお客に受け容れられる工夫をしているという事。
志ん弥「替り目」
数多い圓菊一門の中で、名前に「菊」が入っていないのはこの人だけだ。風貌はちょっと志ん朝に似ている。端正な芸だが、身体の動きが美しく色気があるところは師匠譲りか。
酔っ払いの小咄を重ねながら自然にネタに入り、ヘベレケの亭主のどこか憎めない性格を丁寧に描いていた。女房が健気で可愛らしく、あれじゃ後ろ姿に亭主が手を合わせるのも無理がないと思わせた。
この1席だけでも来た甲斐があるというもの。
笑組「漫才」
漫才で大事なのは自分たちの「型」を作ることだと思う。このコンビを観ていると未だその「型」が出来上がっていないという印象を受ける。
その辺りが課題か。
圓太郎「目黒のさんま」
この人らしい筋肉質で力技の「目黒」で客席を沸かせていた。
圓太郎はしばしば噺のなかで薀蓄を垂れるのだが、少し抑えた方が良いと思うことがある。その部分で流れが悪くなり聴き手が入り込みづらくなるからだ。
紫文「俗曲」
三味線は結構なんだが、どうも声がねぇ・・・。
小さん「寝床」
番頭の茂造が色々と言い訳をして義太夫の会に来られないのを告げられた旦那が次第にイライラを募らせる場面や、逆に長屋の連中がどうしても義太夫を聞きたいという時の旦那の表情の変化は良く出来ていた。
演出は文楽型でなく志ん生型で、サゲまでやらず前の番頭が旦那の義太夫を聴くように迫られて、逃げていなくなってしまったという所で切っていた。
芸風は決して明るいとはいえず噺家として愛嬌が足りない。さすればもう少しマクラの振り方には工夫が要るんではなかろうか。
空席が目立つ中で出演者は揃って熱演だったし、客も反応が良くていい雰囲気の寄席だった。
« ストーカー心理って、どうも分からん | トップページ | #63扇辰・喬太郎の会(2013/10/14) »
「寄席・落語」カテゴリの記事
- 「落語みすゞ亭」の開催(2024.08.23)
- 柳亭こみち「女性落語家増加作戦」(2024.08.18)
- 『百年目』の補足、番頭の金遣いについて(2024.08.05)
- 落語『百年目』、残された疑問(2024.08.04)
- 柳家さん喬が落語協会会長に(2024.08.02)
志ん弥は以前寄席で聴いたことがあります。
「つまみだせ」「お前をかい」なんてやっていました。
たしかに顔つきが志ん朝に似ていますね。
投稿: 福 | 2013/10/14 07:41
この顔ぶれで空席が目立っていたというのは、もったいないですね。
志ん弥は、いかにも寄席に相応しい懐かしさを感じる噺家さんで、私も好きです。
宮仕えの辛さでしばらく落語会に行けなかったので、ほめ・くさんや他の落語愛好家の方のブログで疑似体験を楽しむばかりでした。
そろそろ落語会、寄席に復帰(?)するつもりです。
投稿: 小言幸兵衛 | 2013/10/14 08:12
福様
やっぱり志ん朝に似てると思われましたか。
「ツマミ出せ」「お前をかい」、やってました。口は悪いが可愛らしい女房の造形が良かったです。
投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2013/10/14 08:15
小言幸兵衛様
現役は自由度が無いですからね、良く分かります。
じゃ定年になったら毎日でも行けるかというと、なかなかそうも行かずという所です。
志ん弥、確かに昔懐かしい感じがします。こういう噺家が少なくなり貴重な存在です。
投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2013/10/14 08:37
国立は補助がでないのでしょうか。
1300円じゃたしかに交通費にもならない。
投稿: 佐平次 | 2013/10/14 10:54
佐平次様
人の懐の話しではありますが、ざっと計算して出演者に渡る総額は6万円。トリが1万円として残り8人で4万円なら一人(組)当り5千円という勘定になります。この他にお囃子だとか前座など裏方に合わせて1万円で、計6万円。
談志が、もし寄席に出るならギャラは1万円位だと言ってましたが、そんな所のようです。
投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2013/10/14 11:33