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2013/10/05

「それからのブンとフン」(2013/10/4)

めっきりと涼しさの増した10月4日、天王洲銀河劇場で上演された音楽劇「それからのブンとフン」へ。
1970年に井上ひさしが書いた処女小説「ブンとフン」を5年後に改めて戯曲として書き上演したものだ。
フンは小説家大友憤のふんで憤激のふんでもある、それに濁点を付けたブンは小説の主人公にして大泥棒。
井上の他作品と同様、劇中に歌が入る音楽劇となっている。

作 =井上ひさし
演出=栗山民也
音楽=宇野誠一郎
<   キャスト   >
市村正親:作家・大友憤(フン)
小池栄子:小説の中の大泥棒(ブン)
新妻聖子:悪魔/女学生ブンなど
山西惇:アナウンサー/裁判長/ト連ブンなど
久保酎吉:アサヒ書店主/ブン二号など
橋本じゅん:クサキサンスケ警察長官
さとうこうじ:宇宙船船長/タン国ブンなど
吉田メタル:看守長/南ドコニカブンなど
辰巳智秋:肉体労働者ブン/ボーイ長/弁護人など
飯野めぐみ:猫ブン/長官の秘書/刑務所所員など
保可南:芸者ブン/老婆など
あべこ:修道女ブン/上品なご婦人など
角川裕明:コソ泥ブン/警官/検事など
北野雄大:高校生ブン/AD/山形東作など
富岡晃一郎:おかまブン/司会者/警官など
(一人で何役も演じるので代表的な役を記す)
演奏=朴勝哲

スタッフ
作 =井上ひさし
演出=栗山民也
音楽=宇野誠一郎

ストーリーは。
主人公は売れない小説ばかりを書く貧乏作家の大友憤。
ある日、世界中で不思議な事件が起きる。シマウマのシマが盗まれて別のシマウマにそのシマが加わったり、自由の女神が消えたり、奈良の大仏が鎌倉の大仏の隣に移動したり。
この犯人が四次元の大泥棒ブンの仕業だということがわかる。大泥棒ブンとは、作家フンが書いた売れない小説『ブン』の主人公であった。
小説には「ブンとは何者か。ブンとは時間を超え、空間を超え、神出鬼没、やること奇抜、なすこと抜群、なにひとつ不可能はなくすべてが可能、どのような願い事でもかなう大泥棒である」と書かれていた。
その主人公ブンが、突然小説から抜けだしてしまった。途端に小説『ブン』はベストセラーになるが、増刷にあわせてブンも増殖する。
やがて大泥棒ブンは形のあるものを盗むことに飽き、人間の見栄、虚栄心、記憶、歴史、権威などの形のないものを盗み始めてしまう。
こうなると日本の警察も黙ってはいられない。必死でブンを捕まえようとするが、相手は四次元の世界に住み、自由自在に姿を変幻させ、時間も空間も関係なしに動き回るので、なかなか捕まえられない。
困った警察長官はとうとう悪魔に頼み込む。悪魔は偽のブンを作ったり、作者フンを捕まえ人質にしたりしてようやくブンを捕まえることができた。
一方、小説『ブン』は世界中に翻訳さえこれまたベストセラー。そうなると世界各国にブンが現れて、やがてブン同士の争いまで起きてしまうが・・・。

演出の栗山民也が述べているように、井上の小説『ブンとフン』は奇想天外で、世間の価値観をひっくり返してしまうような痛快な物語だった。
しかし5年を経て書かれた『それからのブンとフン』では一転して国家権力による弾圧や、ブン仲間の内部分裂が描かれている。
この5年間何が起きたかというと70年安保があった。60年安保のような国民的大運動には拡がらず、挫折感の後はセクト間の争い、いわゆる内ゲバに焦点があたるようになって行く。
井上ひさしには、理想を追い求めながら破れ崩壊していく集団を描いた作品は他にもある。
この芝居では、絶望の底から再び立ち上がろとする終幕を描き、未来に希望を持たせている。
井上のいかにも初期の作品らしい粗っぽさもあるが、同時にエネルギッシュっさも感じられる。
井上作品に興味のある方には見逃せない作品だと思う。

演技陣では主役の市村正親は期待通りの好演だったが、予想外だったのはブンを演じた小池栄子だ。
このところの「こまつ座」の公演は集客のためかTVなどの人気俳優を起用する例が目に付くが、やはり他の舞台人に比べ演技が見劣りがして足を引っ張るのも散見される。
そこいくと小池栄子は演技がしっかりしている。長身なので見栄えも良いし、何より声が良い。歌と踊りをさらに磨けばミュージカル女優としてもいけそうな気がする。
女優ではもう一人、ワキで飯野めぐみの動きが目立った。猫ブンに扮した時の柔らかな踊りから、長官の秘書や女性刑務官の役の際の綺麗な身体の動き、惚れ惚れする。
ピンクの尻尾を持った可愛らしい悪魔を演じた新妻聖子と共に、私たちの目を楽しませてくれた。
どうも我ながら美女には採点が甘くなりますな。
山西惇の手堅い演技とさとうこうじの軽妙な動き、久保酎吉の飄々とした舞台が印象に残り、橋本じゅんとあべこの怪演が客席を沸かせていた。

東京公演は3月15日まで。

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コメント

こんばんは。今日大阪公演を観ました。
井上さんはある時点から、「現代劇」を書くことを封印したようですが・・・。
テアトル・エコーによる初演以来再演されなかったこの作品の上演を初めて観て、荒削りながら今こそ必要なメッセージがあると納得。
こまつ座の商業化にはいつもながら複雑な思いがありますが、今回は意義のある「再生」でした。

初演ではフン先生役は、井上さんの芝居の師匠でもある熊倉一雄だったそうで・・・。
市村さんは「汚くても二枚目」「文豪で正義漢」としてはまっていました。
そしておっしゃる通り、小池栄子は収穫でしたね。
最近は映画に出まくって賞荒らしをしているようですが、上品な言葉遣いを自然にこなしメッセージに気迫を籠める口跡のよさに引き込まれ、時々落涙しました。

投稿: 明彦 | 2013/10/21 00:09

明彦様
井上ひさしの初期の作品は粗っぽさもありますが作者の主張がストレートに示されていて、これはこれで魅力があります。
再演が難しかったのは興行面からの事情かとも推測されます。やはりスターを起用しないと集客が出来ないという劇団経営上の問題もあるんでしょう。
小池栄子ですが美女に弱い私的な評価かと危惧しておりましたが、共感頂いて安堵しています。ミュージカルスターを目指して欲しいなと思っているところです。

投稿: HOME-9(ほめ・く) | 2013/10/21 09:52

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