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« #28三田落語会「扇遊・一之輔」(2013/10/26昼) | トップページ | 裏磐梯の紅葉 »

2013/10/30

#3弾ける二人「喜多八・一之輔」(2013/10/28)

10月28日、牛込箪笥区民ホールで行われた”弾ける二人PART3「喜多八・一之輔」”へ。
近ごろ落語会にやたらサブタイトルを付けたがるクセがあり、なかには首を傾げるものも多いが、この会の「弾ける二人」というのはマトモな方だ。確かにこの二人は弾けている。
子どもの頃に「火事はどこだよ牛込だ、牛の金玉丸焼けだ」なんていう囃し言葉があった。今どきは言いませんか? きっとこの辺りかつては牛飼いが多かったんだろう。
9代目文治のギャグで「うちのカカアがウインクしてご覧よ、目が後にいっちゃうよ。後ろ目の神楽坂ってぇのはこっから始まった」、その牛込神楽坂が最寄り駅だ。
周辺は出版社が多い地域として知られているが、志ん朝が住んでいた矢来町にもほど近い。高座に上がると「矢来町!」なんて声が掛かっていたっけ。
二人とも女性に人気が高いんだろう。周りは女性客ばかりだった。
少しコッチにも回せ!(できれば50歳まで)

<  番組  >
前座・春風亭一力「平林」
春風亭一之輔「普段の袴」
柳家喜多八「二番煎じ」
~仲入り~
柳家喜多八「短命」
春風亭一之輔「子は鎹(子別れ・下)」

二人会といっても落語会の場合は平等ではない。どちらかがメインで、どちらかがサブだ。
香盤や年齢ではなくトリを取る側がメインになる。メインは目一杯演じるが、もう片方はやや抑え気味の高座になることが多い。
出番はメイン1席目-サブ1席目(仲入り)サブ2席目-メイン2席目(トリ)というのが一般的だ。ネタの選定でいうとこの順序は、やや軽め-やや重め-軽め-重め、となる。
(いま思い出したが、一人1席ずつという二人会もあったっけ。あれは酷かった。)
もっともトリが不出来だと結果としてメインが食われてしまうこともあるが、それはサブの責任ではない。
若手がメインになった場合やりにくい事もあるだろうが、一之輔に限っては心配無用。彼の辞書にはプレッシャーという文字はない。

一之輔の1席目「普段の袴」
マクラは先日聴いたばかりの欧州公演のこと。内容は少しづつ違っていたが当たり前で、落語家の話は全て脚色されている。ドキュメンタリーではなく実話に基づくフィクションだと思えば良い。
今回は「平林」の件が面白かった。外国人からの質問で「ヒラバヤシが覚えられない小僧さんが、どうしてヒトツトヤッツデトッキッキを覚えられたんでしょうか?」、うん、その通りだ。
でもね、人間の知能というのは複雑なんだ。ある事には全くダメでも、別の事になると人が変ったように頭が働く事があるんだ。落語というのはそういう深い世界を扱っているんだ。と、アタシなら説明するけど。
このネタは彦六の正蔵の十八番(おはこ)、教養ある武士がゆったりとした姿で煙草を吸いながら、掛け塾の絵について骨董屋の主人と語り合う姿と、後半の愚かしい町人の姿を対比させる所が見せ場。
今の一之輔では武士の気品を出すのは難しい。そこで前半を抑え気味にして、町人の付け焼刃のドタバタぶりを戯画化させ爆笑モノに仕立てた。大家の袴を借りる際に理由を訊かれて、祝儀と不祝儀が広小路でぶつかり喧嘩になったので仲裁に入ったと説明する場面や、鶴の絵を主が文晁の作だというと、これが文鳥のわけがないと答える町人に傍にいた小僧が大笑いする場面、貰った煙草を旨そうに吸って思わず叩き落としてしまう場面などに独自の演出を加えた。
オリジナルのストーリは活かしながら、別の風味に仕立ててしまう一之輔らしい高座だった。

喜多八の1席目「二番煎じ」
このネタは8代目可楽の十八番。陽気な酔っ払いは柳好(3代目)、陰気な酔っ払いは可楽と並び称されたように、可楽はこのネタや「らくだ」「味噌蔵」を得意としていた。
季節は寒風吹きすさぶ真冬で、寒さに震えながら夜回りだ。喋るったんて大きな口は開けられない。可楽のようにボソボソ話す方が感じが出る。番小屋に戻ってからの飲食も周囲に気付かれぬよう密かなものだった筈だ。近ごろはまるで宴会のように陽気に騒ぐ演出が多いが、アタシの好みじゃない。
喜多八の演出は手と鼻をこすり、ブツブツ言いながら夜回りする場面に厳しい寒さが表現されていた。
番小屋に戻ってからも火にあたりながら密かに酒を呑み合い、猪鍋をつつきあうという抑えた演出にリアリティがある。
初めは遠慮がちに、酔うほどに少しづつ大胆になる過程も丁寧に描いている。
アツアツの肉を喰う時の仕種や、役任に見つからぬよう猪鍋を股の下に入れる場面に喜多八らしさが出ていた。
夜回りする人たち一人一人の演じ分けも、タダ酒を呑む小役人の嫌らしさも巧みに表現されていた。
やや季節的には早かったが、結構な一席だった。

喜多八の2席目「短命」
もはやこのネタに関しては、喜多八の「短命」と言っても良いほど独自の演出だ。
美人、それも震い付きたくなる程のいい女(って、逢ってみたいね)を女房に持つと亭主は短命になるというのを説明する山場を、喜多八はほとんどパントマイムで演じる。誰もが考え付かなかった手法だ。
殿下はその高貴な生れのため、生々しい表現を避けたいのかも知れない。

一之輔の2席目「子は鎹」
これも何回目だろうか、一之輔は頻繁に高座にかけている。
熊さんが酒のため女房子と離別し新しい女を引き入れるがこれがとんだ失敗、そこで初めて目が覚めきっぱりと酒を断ち仕事に精を出すまでを手際良く説明。
熊がお店の番頭と連れだって木場に向かう途中、番頭からその事を衝かれ、後悔の表情を浮かべる場面は良かった。
熊が倅と再会して近況を語り合う場面では、同じセリフの繰り返しや話が前後する所も見られたが、こういう時も巧みに切り抜けていたのは、さすが。
熊と別れた女房との馴れ初めを亀が喋るシーンでは、傍で八百屋が聴き耳を立てるという設定にしている、場面に出て来ない脇役を使って場面を盛り上げるというのが、この人の上手いところだ。
亀が近所の坊ちゃんに額に傷付けられたのを語るシーンでは、亀は淡々と語るのだが熊は涙がとまらなくなる。別れた母子の生活の悲哀を、こうした演出で際立たせる。出来れば因りを戻したいと、恐らく熊はここで思い立ったのだと思う。オッカアには内緒でと亀に小遣いを渡し、明日改めて食事の約束をするのだが、熊としてはどこかで女房をとも再会したいという希望はあったんだろう。
誰からお金を貰ったんだいと責める母に、とうとう亀が「おとっつぁんから貰ったんだい」と白状した時に「え、おとっつぁんから?」と問い直す母親の表情が良かった。
ここから鰻屋の二階で夫婦が元の鞘に納まるまで湿っぽくならず、これからの親子三人の未来を暗示させるような演出で、明るくお開き。
一之輔の場面に応じた表情の変化は見事で、あれは天性だろう。
ただこのネタ、アタシは好きじゃない。その割に寄席でも高座にかかる時が多く閉口しているのだが。

2席ともいかにも一之輔らしさが出ていたし、喜多八の2席も結構でした。
二人に共通しているのは「見せる落語」、言い換えれば見ないと良さが解からない。落語とはそういう芸能だ。

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コメント

「二番煎じ」の季節到来ですね。
ことしは何度聴くことになるかな。
「子は鎹」を遊三が末広でやったのはなん年前だったか涙が止まらなかったです。
お涙ちょうだいは好きじゃないけれど上手に泣かされるのもいいものです。

佐平次様
10月に「二番煎じ」はちと早すぎる感じもしますが、喜多八の昏い演出はわたし好みでした。
「子別れ」って、それほど優れた噺でもないのに、やたら高座にかかるでしょう。又かとウンザリします。

喜多八さんのは短命ですよ。前座みたいなしくじりしてますね。

DON様
ご指摘有難うございます。
あれ、何でいままで気付かなかったんだろう。お恥ずかしい。これじゃ前座以下だ。
早速訂正します。

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